Qualcommの新たなWindows PC向けチップセット「Snapdragon X Elite」は、事前の予告通りずば抜けた性能を見せつけ、これまでAppleのMチップによって後塵を拝していたWindows ノートPCの性能と省電力性能を大きく引き上げ、MacBookに追いつく可能性を示す物だった。
これはもちろんWindowsにとって大きな意味を持つ物でもあり、実際、Microsoftは、Qualcommの今回のイベントにCEOのSatya Nadella氏と、CVPのとPavan Davuluri氏が登壇し、Snapdragon X EliteとNPU全般がWindowsの将来にとって何を意味するかについて語っている。彼らの会話の多くは漠然としたもので、デモや「Windows 12」に関する具体的な言及はなかったが、両幹部はWindowsの次期バージョンに搭載される機能のいくつかを予告している。
Nadella氏はこれからのOSにはAIが統合されること、そしてそれに伴うUIの変更を示唆している:
「AI世代は、モバイル革命、クラウド革命、ウェブやPCと同じくらい大きなものになる可能性を秘めています。コンピューティングの夢が常に何であったかを根本的に考えれば、インターフェイスをもっと人間にやさしく、もっと自然にすることができるのではないか?人間の能力をコンピューティングで補強できるのか?それは言語から始まるが、すぐにそれを超えようとしている。OSとは何か、UIとはどのようなものなのか、アプリケーションとのインタラクションはどうなるのか。だから、UIの変化は常に大きく、これは大きなUIの変化なのです
もうひとつは、新しい推論エンジンです。Github Copilotのようなものを使うときはいつでも、推論できるアシスタントを持つことで、創造を助けるというまったく新しいことができます。推論エンジンと新しい自然なUI、この2つがあれば、ほとんどすべてのソフトウェアのカテゴリーを変えることができるのです」。
続いてNadella氏は、前にも触れたハイブリッド・コンピューティングが次期Windowsで重要な役割を果たすことに言及する。一部の機能をローカルで処理する事が可能になる一方で、追加の計算能力と能力を求めてクラウドにアクセスするという、ハイブリッド・アプローチを利用する多くの経験を想定している。
「非常に強力なNPUを搭載したデバイスで、ローカル・コンピュートとクラウド推論を一緒に使って構築されたアプリケーションをどのように構成するか。それが、私たちがWindows AIエコシステムで実現しようとしていることです。ですから、文字通り、ローカルモデルやハイブリッドモデルを持つアプリケーションがたくさん出てくると思いますし、それが今後のAIの未来です」。
すべてのPCがSnapdragon X Eliteチップのように、強力なNPUを搭載し、AIワークロードをローカルにレンダリングできるわけではないので、ハイブリッドは不可欠だ。これは、MicrosoftのCopilotのような機能が、クラウドでレンダリングされながら、理にかなった部分にはオンデバイスでの処理を混在させるような使い方をすることになる。
「新世代のAI PCが生まれつつある今、私たちが一緒に行っている作業は、新しいシステム・アーキテクチャなしには実現できないこれらの体験を統合するものです。そして、私たちにとって最も重要な体験はCopilotになるでしょう。Windowsが誕生した当初は、スタートボタンがありました。Copilotはスタートボタンのようなものです。例えば、私がそこに行き、自分の意図を伝えると、アプリケーションにナビゲートしてくれるか、アプリケーションをコパイロットに持ってきてくれます。つまり、学習、照会、作成に役立ち、ユーザーの習慣を完全に変えてくれるのです」。
Davuluri氏もハイブリッド体験がWindowsの将来にとって重要な要素になるという同じ意見を述べている:
「クラウドとクライアントの相乗効果がすべてだと言えるでしょう。私たちにとって、強力なNPUは、開発者がハイブリッド・アプリを開発できるように私たちが構築しているWindows 11のAIエコシステムでうまく機能するでしょう。ローカル・コンピューティングとAzureコンピューティングを活用するハイブリッドAIアプリケーションです。私にとっては、これは多くの利点があります。プライバシーの強化、コストの削減、レイテンシーの利点、パフォーマンスの最適化、そしてこの拡張パーソナライゼーションという概念です」。
Davuluri氏は、ハイブリッドコンピューティングがなぜエンドユーザーとMicrosoftのような企業に利益をもたらすのだろうか?まず、エンドユーザーにとっては、必要な場合はクラウドからAI処理能力を引き出すことが出来るという点でメリットがあるだろう。
そして企業にとって、これはサーバーのコストとカーボンフットプリントを削減するという点で有益だ。AzureのサーバーファームでAIワークロードを実行するのはエネルギー効率があまり良くないことは周知の通りなので、少なくとも一部のAI機能をローカルでレンダリングできるPCは、Microsoftのサーバーへの負荷を軽減することになる。
「我々は、最高のAI体験を提供するためにWindowsを構築しています。今後は、クラウドとエッジの境界線を曖昧にするだけのOSが必要であり、適切な場所で適切なシリコンを使用することが、我々にとって基礎となります」。
Davuluri氏はまた、次期バージョンのWindowsに搭載されるAI機能によって可能になる体験のいくつかを予告している:
「Windowsデバイスの将来を考えると、あらゆるインタラクションをパーソナライズできるようになるでしょう。AIは、複数のアプリ、サービス、デバイスにまたがってオーケストレーションできるようになり、ワークフロー全体にわたって接続し、コンテキストを維持することができる、あなたの生活のエージェントとして機能します」。
これは、よりパーソナルで、ユーザーであるあなたを記憶し、あなたの習慣を学び、あなたをどのように理解したかに基づいてより価値を高めることができるMicrosoft Copilotの将来のバージョンを示唆していると思われる。アプリを使用することで、複数のWindows PCやスマートフォンなど、デバイス間で機能するようになる。
また、これはCopilotがコンピューター上で何をしているかを理解し、その情報を使ってOSの生産性を高める機能を示唆している可能性がある。例えばWindowsは、任意の時点で画面上のコンテンツを識別し、現在表示されている内容に基づいて、プロジェクトやワークフローにジャンプするためのショートカットなど、スマートな提案が出来る様になるかも知れない。
次に、Arm上のWindowsと、このプラットフォームがアプリ・エミュレーションをどのように扱うかについてのDavuluri氏のコメントを見てみよう:
「プラットフォームの将来世代を展望すると、Snapdragon X EliteとWindows 11は、より高速なパフォーマンス、より優れたパフォーマンスを確実に提供し、エミュレーションはより効率的になります。当社のエンジニアリングチームは、このプラットフォームのパフォーマンスと互換性を最適化するために取り組んできました。私たちは、一流アプリケーションの大半が、ネイティブまたはシームレスなエミュレーションを介して、効率的かつ高性能に実行されることに興奮しています」。
Davuluri氏がエミュレーションエンジンの改良を予告しているのか、それとも単により強力なSnapdragon X Eliteのおかげで性能が向上したと宣伝しているのかは不明だ。だが同氏は、より効率的なエミュレーション層について言及しており、これはOS側の改善を示唆しているのかもしれない。
以上をまとめると、次期Windowsでは以下の点が期待できるかも知れない。
- Windowsの次期バージョンでは、コンテキストを意識したAI統合が行われる。
- 多くのAI機能とアプリはハイブリッドコンピューティングを利用する。
- AIは、これまで実現不可能だった新しいUI体験を可能にする。
このすべてがどうなるかはまだわからないが、2024年以降のWindowsには、OSの歴史上最も大きな変化が訪れると言えるかも知れない。AIで出遅れたAppleとの差を大きく広げる事にも繋がるだろう。
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