米国でリチウム鉱床を発見、史上最大の埋蔵量の可能性

masapoco
投稿日 2023年9月11日 6:00
caldera

現代の産業にとって、リチウムはバッテリーの製造に欠かせない金属であり、電気自動車やスマートフォン、その他リチウムイオンバッテリーを用いる機器の普及に伴い、枯渇の懸念も叫ばれている。そんな、重要資源の争奪戦が繰り広げられる中、『Science Advances』誌に掲載された最新の研究では、米国に史上最大の埋蔵量を誇るリチウム鉱床が眠っている可能性が示唆された。

調査によると、ネバダ州とオレゴン州の州境にある火山クレーター、マクダーミット・カルデラには、2,000万トンから4,000万トンという途方もない量のリチウムが眠っていると推定されている。

これまでで最大のリチウム鉱床は、ボリビアの塩の平原にある約2,300万トンだったため、今回の発見はまさに史上最大の埋蔵量を誇る可能性があるのだ。

この研究には関与していない、KUルーヴェン大学とベルギーのテルヴュレンにある中央アフリカ王立博物館の地質学者Anouk Borst氏は、Chemistry Worldに次のように語っている。「彼らの机上の試算を信じるなら、これは非常に重要なリチウム鉱床です。価格、供給の安定性、地政学的な観点から、リチウムの世界的なダイナミクスを変える可能性があります」。

リチウムを含む粘土岩の発見

リチウムの採掘は塩湖から塩水を汲み上げ、それを蒸発させて得られる炭酸リチウムを精製する方法と鉱石を採掘する方法とが用いられているが、現在は前者が世界の採掘量のおよそ3分の2を占める。しかしこれには大量の水資源が用いられ、環境への影響も懸念されている。

今回、米国で見つかったリチウムは粘土岩に含まれているものだ。イライトという鉱物からなる珍しい粘土岩が、1.3%から2.4%のリチウムを含んでいることが明らかになった。これは、イライトよりも一般的な主なリチウム含有粘土鉱物であるマグネシウムスメクタイトに含まれるリチウムのほぼ2倍である。

今回リチウムを含むイライトが見つかったカルデラは約1640万年前にマグマが大噴火した後に形成された。カルデラは、ナトリウムとカリウム、リチウム、塩素、ホウ素を豊富に含むアルカリ性マグマの噴出物で満たされていた。やがてカルデラには湖が出来、リチウムが混じった堆積物の層が形成され、現在では深さ約8.5メートルを超える。その結果スメクタイトと呼ばれる粘土が出来た。

Lithium Americas Corporationの地質学者であるThomas Benson氏は、「これまでの研究では、イライトはカルデラの深部に至るところに存在し、高温高圧によってスメクタイトがイライトに変化して形成されたと考えられていました」と言う。

だが、これは第一段階に過ぎなかった。その後やがて火山活動が再び活発になると、リチウムを含んだ高温の塩水が先述のスメクタイトに入り込み、希土類金属がそこに注入された。結果、スメクタイトは変性し、リチウムを豊富に含む独特のイライトとなったと推定される。

「粘土が地表に近いところに保存されているので、それほど多くの岩石を採取する必要がなく、しかもまだ風化していない、というスイートスポットを突いたようです」とBorst氏は語る。

Benson氏によれば、同社は2026年に採掘を開始する予定だという。粘土を水で除去し、遠心分離によってリチウムを含む小さな粒を大きな鉱物から分離する。その後、硫酸タンクで粘土を浸出し、リチウムを抽出する。

この方法は、環境への影響、経済的にも有効な方法であるとBorst氏は説明する。「エネルギー消費量の非常に少ない方法、あるいは酸をあまり消費しないプロセスでリチウムを抽出できれば、これは経済的に非常に重要なものになります。アメリカは独自のリチウム供給源を持つことになり、産業界は供給不足におびえることが少なくなるでしょう」。

Benson氏は、今回のリチウムを多く含むイライトは、火山性堆積物の中でも「ユニーク」なケースだと考えている。「スメクタイトは比較的豊富です。噴火後のさらなるリチウム鉱床の探査は、流出のない湖で熱水変質した湖底堆積物のあるカルデラに焦点を当てるべきでしょう」。


論文

参考文献

研究の要旨

電気自動車や送電網用蓄電池に使用されるリチウムイオン電池の世界的な普及に向けた持続可能なサプライチェーンの構築には、地域環境への影響を最小限に抑えたリチウム資源の採掘が必要である。火山堆積物リチウム資源は、廃棄物:鉱石ストリップ比が低く、浅く、高トネージ鉱床である傾向があるため、この要件を満たす可能性がある。Thacker峠のMcDermittカルデラ(米国)南部内のイライトを含む中新世ラクストリン堆積物は、非常に高いリチウム品位(最大1重量%のLi)を含み、カルデラ内のスメクタイトに富む粘土石や世界的に知られている他の粘土石リチウム資源(0.4重量%未満)の全岩リチウム濃度の2倍以上である。原位置で測定されたイライト濃度は、フッ素に富むイライト質粘土岩の中で、リチウムの1.3~2.4重量%の範囲である。Thacker Passのイライトのユニークなリチウム濃縮は、これまで確認されていなかった、新生スメクタイトを含む一次堆積物の二次的なリチウムとフッ素を含む熱水変質によるものである。



この記事が面白かったら是非シェアをお願いします!


  • time100 ai 202309
    次の記事

    Time誌、最も影響力をもつAI分野のリーダー100人を発表

    2023年9月11日 9:44
  • 前の記事

    米国政府機関、脱税や犯罪捜査にAIを活用へ

    2023年9月10日 19:21
    tax investigation

スポンサーリンク


この記事を書いた人
masapoco

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

おすすめ記事

  • magsafe charger

    iOS 17.4のアップデートによりiPhone 12がQi2での高速ワイヤレス充電に対応へ

  • rocket start propulsion system

    世界初となる核融合を利用した電気推進装置の実証実験が成功

  • sand

    フィンランドで従来規模の10倍となる新たな砂電池が建設、町全体の暖房を1週間まかなう事が可能に

  • news water battery 1220px

    発火も爆発もせず環境にも優しい世界初の「水電池」が開発された

  • nuclear reactor

    Amazonが原子力発電に投資、Cumulusデータセンターを6億5000万ドルで買収

今読まれている記事