Apple本社のデザインを担当し、その完成と共に同社を去った元AppleのChief Design Officer(最高デザイン責任者)のJonathan(Jony) Ive氏だが、最新の報道によると、退社後もAppleに対する影響力は続いており、噂のVRゴーグルにも関わっているらしい。
- The Informationによって、Appleの複合現実ヘッドセット開発にまつわる舞台裏が報告されている。
- ヘッドセットの開発停滞には様々な原因があるが、既に退社した元デザイン責任者のJony Ive氏が依然としてAppleに強い影響力を持っており、彼のこだわりもまた停滞の原因の1つとされている。
高すぎる理想と現実の乖離によって引き起こされた延期
「Behind the Apple Design Decisions That Bogged Down Its Mixed-Reality Headset(複合現実ヘッドセットの開発を停滞させたAppleの設計判断の裏側)」と題された、The Informationによる最新の報告によって、Appleが複合現実ヘッドセットを開発する際に、数々の困難に直面し、開発が滞っている事が報告されている。そして、その停滞には元AppleデザインチーフのJony Ive氏の決定に起因するものも含まれているという。
Appleは2019年当時、VRヘッドセットの開発にあたり、2つの選択肢を模索していた。ベースステーションとペアになっているタイプのヘッドセットと、独自の処理能力を備えたスタンドアロン型のヘッドセット(Meta社のMeta Quest 2の様なタイプ)の2種類だ。
ベースステーションタイプは、後にMac Studioに搭載される事になった「M1 Ultra」を搭載し、写実的なアバターを表示できる優れたグラフィック性能を持っていたが、スタンドアロンタイプは「漫画のような」簡易的なグラフィックスしか表示できない性能しか実現できないため、AR/VRチームを担当するMike Rockwell副社長は、圧倒的なグラフィック性能差を考えれば、ベースステーションタイプが支持されるだろうと踏んでいた。だが、彼のこの予想は間違っていた。開発の初期段階から、Ive氏はスタンドアロンタイプを推していたが、最終的に他の幹部もIve氏を支持する形となり、スタンドアロンタイプでの開発が決定されたとのことだ。
AppleのCEO Tim Cookと当時の最高デザイン責任者Jony Iveは、2つのアプローチの違いをシミュレーションした試作ヘッドセットでVRデモを見た幹部の一人だったと、デモをよく知る2人の関係者は述べています。ベースステーションと連動するヘッドセットは、写真のようにリアルなアバターを含む優れたグラフィックスを持ち、スタンドアローン版はアバターがより漫画のキャラクターのように描かれていたそうです。AppleのAR/VRチームを担当するマイク・ロックウェル副社長は、Appleの上層部がスタンドアロン版の低品質なビジュアルを受け入れないと考え、ベースステーション付きのヘッドセットを支持したと、2人の関係者は述べています。
しかし、それは間違っていた。Ive氏はプロジェクトの初期からスタンドアロン版のヘッドセットを推していたと、その関係者は述べています。最終的に、Apple社の上層部はIve氏に味方した。それでもロックウェルは、「素晴らしい製品を作ることができる」と断言した。この選択は、社内コードネーム「N301」と呼ばれ、何度も延期されているヘッドセットに永続的な影響を与えた。
この決定が、その後の「バッテリー寿命とパフォーマンスのバランスを取りながら、デバイスを装着している人が熱を帯びないように発熱を最小限に抑える」ことに対して、多くの苦労を引き起こしたとのことだ。
そして情報筋によると、ヘッドセット開発の責任者である、Rockwell氏が「Appleの幹部に語った高品質の複合現実体験」を提供できなかったことが、製品が何度も遅れた主な理由だという。Appleの幹部は、ライバルとするMetaが既に実現している性能を超えた体験を期待しているようだ。
この問題に詳しい3人の関係者によると、Appleのリーダーたちは、グラフィックス、ボディトラッキング、レイテンシー(ユーザーの動きとディスプレイ上の表示との間の遅延)の面で、Facebookの親会社であるMeta Platformsなどの競合他社が提供しているものをはるかに超えるAR体験を期待しているそうです。ユーザーの頭の動きと、それに対応するヘッドセット内の視点の変化との間に、コンマ数秒の遅れが生じただけでも、吐き気を催すことがあるのだそうです。
だが、結局はそれを実現するために大きな困難を伴ったようだ。結果的に延期に次ぐ延期を巻き起こしたとしている。
14個のカメラを搭載し、外界の映像から顔の表情やジェスチャーまで、あらゆるものを撮影できるようにしたことも、Appleのヘッドセットの技術的課題を大きく増やす設計上の決定でした。
Appleは、この豊富な画像を処理するために、画像信号処理プロセッサ「Bora」を構築しなければなりませんでした。しかし、Appleのエンジニアたちは、Boraとヘッドセットのメインプロセッサー(コードネームStaten)を連携させるための技術的な課題に直面しています。2つのチップの間で往復する通信は待ち時間を増やし、ヘッドセットを装着している人に吐き気を催させる可能性があるのです。
元々Appleのヘッドセットの初期バージョンは、ゲームに焦点を当ててはおらず、元々はクリエイターやプロフェッショナルに向けての製品として考えられていたようだ。
このプロジェクトに携わった4人は、iPhoneの成功にとって重要であり、MetaのVRグループにとって大きな優先事項である、アーリーアダプターにアピールするソフトウェアのカテゴリであるゲームに焦点が当てられていないことも批判しました。それらの人々は、Rockwellのグループがヘッドセットの可能な使用法についての内部プレゼンテーションでゲームについて言及することはほとんどなかったと言いました。Appleはデバイス用のゲームコントローラーを開発しておらず、デバイスの入力としてハンドトラッキングを使用するか、洗濯ばさみのようなフィンガークリップと組み合わせて使用することを目指しています。
だが、このヘッドセットがどのようなターゲットに向けての製品であったのかについて、開発が進む中で段々と変わってきたという。そして結果的にIve氏の意向でコンシューマー向けに変更されたようだ。これに対してはIve氏に対する批判も出ている。
その中には、ヘッドセットの目的を、クリエイターやプロフェッショナルが机上で使うものから、コンシューマー向けの携帯機器に根本的に変えてしまったとするIve氏の責任も指摘されています。その人たちは、Appleはコンシューマー向けを出す前に、まずプロフェッショナル向けの製品を開発し、彼らにヘッドセット用のコンテンツを作らせるべきだったと主張している。
また、レポートは、Ive氏は、Appleを去った後も同社の外部コンサルタントとしてヘッドセットプロジェクトに関与し続けていると付け加えている。
その影響力は大きく、ヘッドセットのデザイン変更について、Ive氏の承認を受けるためにわざわざ彼の自宅まで度々Appleの社員が訪れているとのことだ。
この問題に詳しいある人物は、Ive氏がAppleを去ってからのコンサルティング業務にはヘッドセットも含まれており、バッテリーやカメラの配置、人間工学といった分野でエンジニアの好みよりも元チームの好みを押し通すためにIveが連れてこられることがよくあると述べています。二人によると、Ive氏がAppleを去った後も、ヘッドセットプロジェクトの一部の社員は、Ive氏の自宅があるクパチーノからサンフランシスコまで遠征して、変更について彼の承認を得る必要があったとのことです。
Ive氏のAppleへの強い影響力が未だ健在である事を物語るエピソードだろう。
デザインについては様々検討しているようだが、Magic Leapのようなデザインになる可能性が高そうだ。
アイブは、ヘッドセットのデザインに手を加え続けています。初期のプロトタイプでは、バッテリーをヘッドバンドに搭載していたが、彼はMagic Leapのヘッドセットのデザインに似た、ユーザーが身につけるバッテリーにヘッドセットをくくりつけるデザインを好んでいる。このアプローチが最終的なデザインに入るかどうかは、知る由もありません。
ヘッドセットのメインチップは、今年後半に新しいMacBookAirおよびiPadモデルでデビューすると予想されるM2チップと同等になるとのことだ。
最後に、BloombergとThe Informationからの報告によると、Appleは現在2,000ドル以上から3,000ドルの価格を検討しているとのことだ。
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