先日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が息を呑むような宇宙の5枚の画像を公開したとき、その性能と成果に世界が驚愕した。これは数十年にわたる精密なエンジニアリングと研究の成果が一気に花開いた瞬間だった。
しかし、この望遠鏡が、実は以前から予測されていたことではあるが、展開後に小さな岩石の衝突により修正不可能な損傷を受けていたということがこの度明らかになった。
18枚の主鏡うち1つが修復不可能な損傷を受けたが、全体としては影響は軽微
プレプリントデータベースarXiv.orgに掲載された報告によると、望遠鏡の18枚の金メッキ鏡の1枚に小さな石が衝突し、大きな損傷を与えたとのことだ。実際の、主鏡の損傷部位を示した画像は以下の通りとなる。画像右下の「C3」と呼ばれる鏡は、微小岩石が衝突した影響で、本来は金メッキが施されているはずが、真っ白な凹みが出来ているとのこと。「2022年5月22日から24日(UT)の期間にセグメントC3に衝突したマイクロメテオロイドは、そのセグメント全体の数値に補正不可能な大きな変化をもたらした」としているが、「しかし、望遠鏡エリアのごく一部が影響を受けただけなので、全望遠鏡レベルでは影響は小さかった。」とし、「その後の2つの再調整ステップ」が問題の修正に役立ったと報告書では説明している。
NASAの科学ミッション本部副長官であるThomas Zurbuchen博士は、既に6月の段階で望遠鏡への岩石衝突の影響に関する初期の報告について、これは想定内での出来事であり、ミッションを遂行するパフォーマンスに影響がないことをツイートしている。
宇宙で活動する上で避けて通れないのが、岩石群の衝突です。最近ではWebbは主鏡の一片に衝撃を受けました。ですが、最初の評価の後、チームは望遠鏡がすべてのミッション要件を超えるレベルで機能していることを確認しています。
新しいarXiv.orgのレポートは、C3ミラーに当たった小さな小石が、実際には、2022年2月から5月の間にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に激突した19個のうちの1つに過ぎないことを説明している。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、望遠鏡の鏡が開放されていて宇宙の真空にさらされているため、微小岩石の衝突に特に弱い。技術的な前身であるハッブル宇宙望遠鏡は、円筒形の筐体の中に観測装置が収まっていたため、ある程度衝突に対して耐性があったが、対してジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、機能的には宇宙空間に開かれた巨大な反射鏡であり、保護筐体はないのだ。
ハッブル望遠鏡が長年にわたって損傷を受けていない理由は、全体的に小さいということのほかに、宇宙空間での位置も関係しているようだ。ハッブル望遠鏡は地球の真上を周回しており、スペースシャトルで宇宙飛行士が接近してメンテナンスを行うことができるほど近くにある。一方、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は太陽と地球の重力が完全に釣り合う宇宙の安定した場所にあり、望遠鏡は地球に対して事実上静止している。しかし、この地点(ラグランジュポイントの略で L2 ポイントと呼ばれる)には探査機がほとんど送られていないため、天文学者はこの地域の岩石衝突などのリスクについてあまり知らないのだ。一方、ハッブル宇宙望遠鏡がある地球低・中軌道は、人類の宇宙船が飽和状態にあり、そのリスクは十分に研究されている。
宇宙ニュースサイトのSpace.comは、NASAの新レポートの楽観的なトーンに対して否定的な見解を示している。
「国際宇宙ステーションとハッブル宇宙望遠鏡は、時折宇宙石が衝突するにもかかわらず、まだ稼働している長期的なプログラムの一つである」と、Space.comは書いている。「しかし、ウェッブの軌道は、地球から約100万マイル(150万km)離れたラグランジュポイント2なので、リスクプロファイルがかなり変わるかもしれない。」
C3鏡が稼働していないにもかかわらず、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、これまで紛れもない成功を収めている。事実最近公開された画像では、WASP-96bと呼ばれる遠方の惑星の大気組成を確認しており(水を含んでいた)、その他にも、南環状星雲と呼ばれる惑星状星雲、「ステファンの五つ子」と呼ばれるほぼ隣り合った5つの銀河、明るくカラフルな星空にかかった馬毛布のように見えるカリーナ星雲、そしてこれまで作られた宇宙の画像の中で最もクリアで完全な赤外線画像であるSMACS 0723なども公開されたが、これらは既に岩石が衝突して一部の鏡が修復不可能な損傷を受けた後の成果である。
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