すべての原子の中心にある粒子である陽子は、どうやらこれまでに考えられていたよりも複雑な構造を持っているようだ。この発見は、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)による素粒子物理学の実験に影響を与える可能性がある。
陽子とは、原子核を構成する素粒子の一つである。その陽子は、クォークと呼ばれるさらに小さな素粒子で構成されており、クォークには、アップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、トップ、ボトムといったさまざまな「フレーバー」(タイプ)がある。一般的に陽子は、アップクォーク2個とダウンクォーク1個で構成されていると考えられている。
しかし、新しい研究によると、陽子が実はもっと複雑であることがわかった。陽子にはチャームクォークという、陽子自体の質量の1.5倍もある素粒子が含まれていることがあるのだ。自分よりも重たい物を内部に持っていると言うのも奇妙な話だが、さらに奇妙なことに、チャームクォークを含んでいる陽子は、その他の陽子の質量の約半分しか持っていないということだ。
この発見は、量子物理学の確率的な世界に帰結する。チャームクォークは重たいが、陽子の中に出現する確率はかなり低いので、質量が大きいことと確率が低いことは基本的に相殺されるのだ。「陽子は個々の粒子の明確な集合体ではないので、陽子の質量はその部分の単純な和ではありません。チャームクォークが存在しても、その質量は陽子には取り込まれないのだ。」とScience Newsは伝えている。
クォークには6種類あり、うち3つは陽子より重く、3つは陽子より軽い。チャームクォークは重いクォークの中で最も軽いので、研究者たちは、陽子が自分よりも重いクォークを含むことができるかどうかを調べるために、このクォークから始めたいと考えた。研究者たちは、35年にわたる素粒子衝突のデータを新しいアプローチで解析したのだ。
素粒子の構造を知るために、研究者はジュネーブ近郊にある世界最大の原子破壊装置、大型ハドロン衝突型加速器のような粒子加速器で粒子を猛スピードで互いに衝突させている。非営利団体NNPDFの科学者たちは、光子、電子、ミューオン、ニュートリノ、さらには他の陽子を陽子に衝突させる実験例など、1980年代まで遡ってこの粒子衝突のデータを収集した。これらの衝突の残骸を見ることで、研究者は粒子の元の状態を再構築することができるのだ。
今回の研究では、この衝突データをすべて機械学習アルゴリズムに渡し、構造がどのように見えるかについて先入観を持たずにパターンを探すように設計した。その結果、このアルゴリズムは、可能性のある構造と、それが実際に存在する可能性を返した。
この研究では、陽子内にチャームクォークが見つかる可能性が「小さいが無視できない」ことがわかった。証拠のレベルとしては、研究者が陽子におけるチャームクォークの否定できない発見を宣言するほど高くはなかったが、この結果は、それが存在しうるという「最初の確かな証拠」とのことだ。
新しい素粒子を発見するためには、物理学者は理論が示唆するものと実際に観測されるものとの極小の違いを明らかにしなければならない。そのためには、素粒子の構造を極めて正確に測定する必要がある。
今のところ、物理学者は陽子の中にあるチャームクォークについて、新たなデータを必要としている。将来的な実験、例えばアメリカ、ブルックヘブン国立研究所で計画されている電子・イオン衝突型加速器のような将来の実験が役立つかもしれない、とフェルミ研究所の理論物理学者である Tim Hobbs氏はScience Newsに語っている。
コメントを残す