待望の3nmチップは失敗作か?A17 Proに過熱や消費電力増大の疑惑

masapoco
投稿日 2023年9月25日 10:51
A17 pro fired

AppleがiPhone 15 ProとiPhone 15 Pro Max向けに新しいA17 Proチップを発表した際、同社はこれが世界初の量産型3nmプロセスチップであり、大きな性能向上が見込まれると宣伝した。しかしiPhone 15 Pro/Pro Maxの仕様が共に発表される中で、いくつかの疑問も残った。3nmプロセス世代への移行では省電力化も期待されていたのにAppleが公開した仕様表では、iPhone 15 Pro / iPhone 15 Pro Maxのバッテリー持続時間が全く変わらないことが明らかになり、様々な憶測を呼んだ。もしかしたら、軽量化のために「バッテリーの小型化」が行われたのかとも言われていたが実際にはそのようなことはなく、どうやら新たなA17 Proの消費電力増大の影響により、バッテリー容量を増やしたにもかかわらず同程度のバッテリー持続時間しか確保できなかったという事が真相のようだ。

詳細は、中国のレビュアーGeekerwanによるiPhone 15 Pro Maxのレビューにより確認出来る。

Geekerwan氏の詳細なベンチマークテストによって明らかになったことは、その消費電力の増大だ。

SPEC2017テストによれば、A17 Proの消費電力はA16 Bionicの2.71Wから3.68Wへと増加している事が明らかになった。これはPコアのみの結果ではあるが、実に4割弱もの消費電力の増大となっている。

また、この消費電力の増大による発熱も問題で、SPEC2017の長期にわたるテストの結果では、A16 Bionicを内蔵するiPhone 14 Pro Maxではそのテスト期間にわたって大きく性能が低下することなく、常に最大性能に近いものを発揮していたものが、A17 Pro内蔵のiPhone 15 Pro Maxでは最初の数回のテストは最大性能で動作するものの、各テストの終盤では動作クロックと消費電力が低下するサーマルスロットリングが発生してしまう事が明らかになっている。

さらに、A17 ProのGPUコア数はA16の5コアから6コアに増加しているが、これによって性能は40%程度向上されているが、消費電力も約40%増加してしまっている。このため、電力効率や性能の面では、Snapdragon 8 Gen 2にも劣っているとGeekerwan氏は述べている。

より実践的なテストとして、Geekerwan氏は動画の再生時間をテストしたが、結果としてはiPhone 15 Pro Maxは昨年のiPhone 14 Pro Maxよりもバッテリー性能が悪いようだ。iPhone 14 Pro Maxのバッテリー持続が7時間55分だったのに対し、新しいiPhone 15 Pro Maxは7時間13分だったという。iPhone 14 ProとiPhone 15 Proの間でも同様の関係がある。iPhone 15 Proの駆動時間は6時間ちょうどだが、iPhone 14 Proは6時間46分だった。iPhone 15 Proは、iPhone 14 Proよりもわずかに大きなバッテリーを搭載しているが、それでもテストの結果は悪くなっているのだ。

これらのテストはすべて、Appleの新しいA17 ProチップセットがA16 Bionicよりも効率が悪いことを示していることと関連している。実際、iPhone 15 Plusは、A16 Bionicを搭載しているおかげか、バッテリー駆動時間が9時間17分と、このテストで最高のパフォーマンスを見せている。これは、39mAhの大容量バッテリーを搭載したiPhone 15 Pro Maxよりも2時間以上長い。

また、別のテストでは過熱の問題も指摘されている。Geekerwan氏によると、室温25℃、輝度300ニトの環境下で、“非常に高い”グラフィック設定で『原神』をプレイした場合、iPhone 15 Pro Maxの表面温度は48℃まで上昇した。同タイトルを30分間プレイした結果、iPhone 15 Pro Maxに搭載されたA17 Proは、平均フレームレート59.1FPS、消費電力4.13Wを記録した。同テストは、iPhone 14 Pro Maxで実行した場合、平均フレームレート56.5 FPS、消費電力は4.32Wだった。

つまり、AppleがA17 ProのGPU性能を強調しているにもかかわらず、iPhone 15 Pro Maxは平均FPSで約4.4%上回っているだけで、消費電力は4%少ない。これらの結果は、iPhone 15 Pro Maxが適切な熱管理が出来ずに本来の性能を発揮できないか、A17 ProがGPUコアを1つ増やしたA16 Bionicを少し調整したものであるという可能性か、あるいはその両方が原因であることを示している可能性がある。

また、Geekerwan氏は、iPhone 15 Pro Maxで『バイオハザード ヴィレッジ』を1,560x720pの解像度でサイドロードして実行したところ、デバイスのサーマルスロットルがかなりアグレッシブになり、フレームレートが40台半ばから約30FPSに落ちることを示した。興味深いことに、あるいはむしろ残念なことに、A17 Proの性能は一時的にA16よりも低下したとのことだ。

別のYouTuberによるテストでもこの傾向は確認出来る。뻘짓연구소氏によるテストでは、Snapdragon 8 Gen 2と比較して、A17 Proが発熱によりすぐにその性能を維持できない事が示されている。

Galaxy S23 UltraとiPhone 15 Pro Maxとの比較では、GPU性能は、Galaxy S23 Ultraがグラフィックテストを20回実行した後に28%低下したのに対し、iPhone 15 Pro MaxのGPU性能は、テストを1回実行しただけで22%低下している。

Apple iPhone 15 Pro Max vs Samsung Galaxy S23 Ultra 3DMark Wildlife Extreme GPU Test

TheRelaxingEnd氏によるテストでは、最高設定の『原神』プレイにおいて、頻繁にカクつきが発生し、まともにプレイ出来ない様子も見られる(以下の動画の12分39秒辺りから)

こうした結果について、MaxTechのVadim Yuryev氏は、TSMCの3nmプロセスでの歩留りが55%程度と低い事が関連しているのではと推測している。

Vadim Yuryev氏は、元々Appleの要求は高かったが、TSMCの歩留まりが低い事から、Appleはその基準を引き下げざるを得ず、歩留りと引き換えに低い効率のダイも受け入れる事になり、結果としてA17 Proでは過去のA16 Bionicまでで見られてきた様な電力効率の向上が発揮できなくなっているのではないかとのことだ。

また、Apple関連のリークで有名なアナリストのMing-Chi Kuo氏もこれに関し、問題はA17 Proにあるのではなく、Appleの設計上の問題により、冷却能力が軽視されたことにより、適切な排熱が行えないことから、過熱問題が起きているのではないかと述べている。彼は、Appleが軽量化を目指すあまり、採用したチタン素材の熱伝導率の低さ、放熱面積の減少などが原因と考えている。

私の調査によると、iPhone 15 Proシリーズの過熱問題は、TSMCの先進3nmノードとは無関係である。主な原因は、放熱面積の減少や、熱効率に悪影響を与えるチタン製フレームの採用など、軽量化を達成するためにサーマルシステムの設計で妥協したことである可能性が高い。

全体として、A17 Proはストレス下で多くの熱を発生させ、iPhone 15 Pro Maxの冷却ソリューションではそれを抑えることができず、パフォーマンスが大幅に低下しているようだ。Appleが大々的に発表したように、iPhone 15 Proと15 Pro Maxが、今後の大作AAAゲームを本当にプレイ出来るのか、少し疑問が出る結果となっている。


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