Intelは、従来のハードウェアを使用して完全な量子コンピュータをシミュレートする量子ソフトウェア開発キット(SDK)を公開した。これは、現在リリースされているIBMやD-Wave、AWSなどのいくつかの量子コンピューターを実験目的で購入またはレンタルすることが法外に高額である事から、開発者がより手軽に量子アルゴリズムやエミュレーションを行う事を可能とするためにリリースされたものだ。
Intel LabsのQuantum applications and architectureのディレクターであるAnne Matsuura氏は、「開発者がシミュレーションで量子アルゴリズムやアプリケーションを作る方法を学ぶだけでなく、アプリケーションの開発を加速させる開発者のコミュニティを作ることで業界を発展させる」と、プレスリリースで説明している。
量子コンピューティングの支持者たちは、この技術によって、従来のコンピューターがそろばんに見えるほど強力なマシンが実現し、暗号化、リアルタイム経路探索、創薬などの分野で科学者が迅速に画期的な進歩を遂げられるようになると考えている。
しかし、既存の量子コンピュータは作るのも操作するのも難しく、最先端の量子システム(例えばIBMのOsprey)でも、量子ビットは数百個で、真に革命的な量子コンピュータの実現に必要な数十万個の論理量子ビットには遠く及ばない。
もう1つの課題は、量子コンピュータの実用的なアプリケーションを見つけることだ。どんなハードウェアも、その上で動作するソフトウェアがあって初めて望ましいものとなる。現在のところ、量子マシンで何がうまく機能するかについての人類の知識はまだまだ限定的だ。
Intelは、この新たなQuantum SDKによって、開発者がソフトウェアを開発する一方で、エンジニアが実際の量子ビットを実用的でアクセス可能な量子コンピュータに組み込む方法を見出すことができ、先行することができると考えている。
このSDKは、低レベルの仮想マシンコンパイラを使ってC++で書かれており、開発者が量子環境をシミュレートし、既存のC、C++、Pythonアプリケーションに統合することを容易にするとしている。
IntelのQuantum Simulator(IQS)は、数年前から動いているオープンソースプロジェクトで、SDKのバックエンドを提供する。IQSは一般的な量子ビットをシミュレートしており、理論的には、開発者は将来的に自分の仕事を実際の量子システムに移植できるようになるはずだ。
ちなみに、従来のプラットフォームを使って量子システムをエミュレートしようとしているのは、Intel だけではない。昨年、富士通は、36量子ビットの量子回路を扱える世界最速の量子シミュレーターを開発したと発表している。
しかし、ハードウェアのエミュレーションに手を出したことがある人ならわかるように、ソフトウェアでロジックをシミュレートすることは、驚くほど効率が悪い。富士通のシミュレータでは、スーパーコンピュータ「富嶽」の心臓部であるArmベースのA64FXプロセッサを搭載したPRIMEHPC FX 700の64ノードクラスタが必要だった。
だが、これに対してIntelのIQSは、1つのノードで最大32量子ビットのシミュレーションをサポートし、より大規模なシステムをエミュレートするために複数のノードにスケールアウトすることが可能だという。このSDKは最終的に、Horse Ridge II制御チップや今後リリース予定の量子スピン量子ビットチップなど、Intel独自の量子ハードウェアと連動する予定とのことだ。
Intel は、SDKを量子ハードウェアと完全に統合するには、まだ作業が必要であることを認めている。
Source
コメントを残す