量子コンピュータの実現は遙か未来の話かもしれないが、それが実現された場合に必要となるのが「量子安全技術」だ。
量子コンピュータは、2進数やビットを使って情報を保存・処理する古典コンピュータとは異なり、量子ビットを使用する。これにより、量子コンピュータは、大きな数の因数分解など、特定のタスクを古典コンピュータよりもはるかに速く実行することが出来る。
しかし、このことは、RSAやECCなど、現在データの安全性を確保するために使われている暗号アルゴリズムの一部が、量子コンピュータによって破られる可能性があることも意味する。そこで登場するのが、量子安全技術だ。これは、量子コンピュータによる攻撃に耐性を持つ暗号アルゴリズムのセットだ。これにより、量子コンピュータが普及した後の世界でもデータの安全性を確保することが出来る。
量子コンピュータ開発で先端を走るIBMは、フロリダ州オーランドで開催された年次会議「Think」で、「エンドツーエンドの量子安全技術」を発表した。IBM Quantum Safeは、単なる単一のアルゴリズムやツールではない。むしろ、組織がデータを保護するために使用できる、包括的なツールや機能のスイートと言える。これには、格子ベース暗号やハッシュ・ベース暗号などのアルゴリズムを使用する量子安全暗号や、量子後の鍵交換プロトコルが含まれる。
この一連の機能は、クライアントがポスト量子時代に備えることを支援するために設計されている:
- IBM Quantum Safe Explorerは、ソースコードやオブジェクトコードをスキャンして暗号資産、依存関係、脆弱性を特定し、Cryptography Bill of Materials(CBOM)を構築することができる。これにより、チームは潜在的なリスクを1つの中央の場所に表示し、集約することができる。
- IBM Quantum Safe Advisorは、暗号インベントリの動的または運用的なビューを作成して修復をガイドし、暗号の態勢とコンプライアンスを分析してリスクに優先順位を付ける。
- IBM Quantum Safe Remediatorは、ベストプラクティスに基づく量子安全修復パターンの導入とテストを可能にし、量子安全ソリューションの導入準備としてシステムや資産への潜在的な影響を把握することができる。
IBM Quantum Safeが他と異なる点は何か?
IBM Quantum Safeを際立たせているのは、その技術そのものだけではない。セキュリティに関するIBMの深い専門知識でもある。IBMは10年以上にわたって量子安全暗号に取り組んでおり、現在量子安全とされているアルゴリズムの多くに開発に貢献している。つまり、IBM Quantum Safeは単なる理論的な概念ではなく、実世界のシナリオでテストされ、検証された実用的なソリューションである点で、これまでとは一線を画するものになっているのだ。
これは、最も貴重で機密性の高いデータを扱う政府機関や企業にとって、特に重要なことだ。量子力学以降の世界では、量子安全技術で保護されていなければ、このデータの安全性が損なわれる可能性がある。IBM Quantum Safeは、これらの組織に、セキュリティを将来にわたって保証し、量子コンピューティングの進歩に直面しても、データの安全性を確保する方法を提供する。
また、IBMは、このセキュリティの移行を理解し、サポートするために、IBM Quantum Safe Roadmapを発表している。これは、ますます高度化する量子安全技術に向けた技術のマイルストーンを示したIBM初の青写真であり、暗号アジリティを通じて組織が予想される暗号標準や要件に対応し、新たな脆弱性からシステムを保護できるよう設計されている。
このロードマップは、3つの重要なアクションで構成されている:
発見する:発見:暗号の使用法を特定し、依存関係を分析し、CBOMを生成する。
観察する:脆弱性の暗号化姿勢を分析し、リスクに基づいて修復の優先順位を決定する。
変換する:クリプトアジリティと組み込みの自動化により、修復と軽減を行う。
Moor Insights & Strategy の CEO 兼創業者である Patrick Moorhead氏 は、「量子コンピューティングの時代が急速に現実味を帯びる中、現在の古典的なシステムやデータを保護するために、量子安全技術を導入することが不可欠である」と述べている。「量子時代のデータ保護に必要なのは、世界トップクラスの量子技術と高度な暗号技術の専門知識であり、重要インフラ向けの製品開発における数十年の経験です。これらの柱はIBMが得意とするところであり、業界をリードする量子安全ロードマップと移行を簡素化する新技術を備えた今、量子安全な旅が世界的に進むことを期待しています」。
IBMのセキュリティに関する深い専門知識と実用的なソリューションの開発へのコミットメントにより、IBM Quantum Safeは量子安全技術のゴールドスタンダードとなる可能性を秘めている。
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