遺伝子編集を用いて網膜色素変性症のマウスの視力を回復させる事に成功した事が、『Journal of Experimental Medicine』誌に発表された。
網膜色素変性症は、徐々に視力が低下していく疾患群に付けられたもので、ヒトの失明の重大な原因の一つだ。子の病気には、50の遺伝子の100以上の部位が関連しているとされている。今回の研究では、網膜の視覚情報伝達に不可欠なPDE6βkという酵素の変異をターゲットにした。
科学者たちは、光を感知する桿体・錐体視細胞を支える目の非神経細胞層である網膜色素上皮に影響を与えるレーバー先天性黒色症などの遺伝子疾患を患うマウスの視力回復にゲノム編集を採用した。
網膜色素変性症を含むほとんどの遺伝性失明は、網膜色素上皮ではなく、神経視細胞の遺伝子異常から生じる。
研究者らは、PESpRYと呼ばれる遺伝子編集のCRISPRシステムを使用し、遺伝子の変異を修正することを可能にした。PESpRYとは、ゲノムのあらゆる場所に存在するさまざまな種類の遺伝子変異を修正するためにカスタマイズすることができるものである。彼らは、ゲノムの変化によってマウスの網膜で酵素の活性が回復し、光受容体の死滅を防いで光に対する正常な電気反応を取り戻したと述べている。
また、遺伝子の変異を修正した後、いくつかの行動テストを行い、マウスが老齢になっても視力の向上を維持していることを確認したとのことだ。
武漢科技大学のKai Yao教授は、「神経網膜細胞、特に不健康な、あるいは死にかけた光受容体のゲノムを編集することができれば、これらのゲノム編集ツールが網膜色素変性症などの病気の治療に応用できる可能性について、より説得力のある証拠が得られるでしょう」と述べている。
Kai氏は、PESpRYシステムの安全性と有効性をヒトで確認するためには、さらなる研究が必要であることを強調している。しかし、この研究は、この革新的なゲノム編集戦略の生体内での適用可能性と、多様な研究・治療状況、特に網膜色素変性症のような遺伝性網膜疾患の治療への可能性を示す実質的な証拠を示すとしている。
論文
- Journal of Experimental Medicine: Vision rescue via unconstrained in vivo prime editing in degenerating neural retinas
参考文献
研究の要旨
網膜色素変性症(RP)は、網膜光受容体の進行性かつ不可逆的な消失を引き起こす遺伝性網膜ジストロフィーである。我々は、プライムエディター(PE)の汎用性とSpCas9バリアント(SpRY)のPAMの制約を受けないことを特徴とするゲノム編集ツール(PESpRYと称する)を開発した。Pde6b関連RPマウスの網膜を、PESpRYをパッケージングしたデュアルAAVシステムで形質転換し、非NGG PAM(GTG)を用いたin vivoゲノム編集を行った。変異が修正されると、進行していた細胞損失は逆転し、視細胞の大幅な救済と機能的なPDE6βの産生につながった。治療したマウスは、網膜電図に有意な反応を示し、受動的回避テストと能動的回避テストの両方で良好な成績を示した。さらに、視覚刺激による視運動反応に明らかな改善が見られ、視覚誘導による水迷路課題を効率的にこなすことができた。本研究は、RP関連遺伝子の変異による視力低下を、変性網膜における制約のないin vivoプライムエディターによって予防できることを示す有力な証拠である。
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