国防高等研究局(DARPA)は、新しい量子システム設計を探求するための「Underexplored Systems for Utility-Scale Quantum Computing(US2QC)」プログラムという新しい試みを発表し、Microsoft、Atom Computing、PsiQuantumを支援者として選定したことを発表した。
DARPAのUS2QCプログラムを率いるJoe Altepeter氏は、「専門家の間では、従来の設計に基づく実用規模の量子コンピュータがまだ数十年先に実現するか、あるいはもっと早く実現できるかは意見が分かれていますUS2QCの目標は、未踏の量子コンピュータシステムから戦略的な奇襲を受ける危険性を減らすことです。」と、プレスリリースの中で述べている。
量子コンピューターが既存の暗号化方式を無効にするという考えは何年も前からあり、量子安全暗号化方式への投資を促してきた。しかし、少なくとも我々が知っている限りでは、その効果が証明されたことはない。
US2QCプログラムでは、DARPAはこれらの企業と協力し、「実用規模」の量子コンピュータの設計コンセプトを開発する際に資金を提供する。これは、科学プロジェクトの域を超え、コスト以上の計算価値を生み出すことができる量子システムのことを指す。
Altepeter氏によると、3社はいくつかの基準に基づいて選ばれた。「私たちは昨年、近い将来(10年以内)に有用な量子コンピュータを構築するための真に革命的なアプローチを持っていると考える人がいれば、その人の意見を聞きたいと呼びかけたのです」と彼は説明した。
最終的にMicrosoft、Atom、PsiQuantumの3社が選ばれたが、当然のことながら、量子コンピュータの実用化に向けた技術については、政府機関はヘッジを掛けている。そのため、各ベンダーは微妙に異なるアプローチをしている。
例えば、Atom社は、レーザーで制御された冷却原子の配列で構成されるスケーラブルな量子コンピューティングプラットフォームに取り組んでいる。一方、PsiQuantum社はGlobalFoundries社と共同で、シリコンフォトニクスを量子コンピューティングに応用し、フォトニック量子ビットの格子を用いてエラー訂正を実現しようとしている。
最後に、3社の中で最大のMicrosoftは、トポロジカル量子ビットアーキテクチャを用いた量子システムの開発を進めており、同社によれば、100万量子ビットのシステムをクローゼットに収まる程度に縮小することが可能になるとのことだ。
方式 | 原理 | 長所 | 短所 | 取り組んでいる組織 |
---|---|---|---|---|
シリコン量子ドット | シリコン内の電子を利用 | 集積化しやすく、冷却器を小型化できる | 電子スピンの制御が難しい | Intel、日立、理研、産総研imec 等 |
超伝導 | 超伝導物質の電化や電流を利用 | ・システム構築が容易 ・高速な演算が可能 | 環境ノイズに弱く、大型の冷却器が必要 | IBM、Google、Rigetti Computing他 |
イオントラップ | 空中に浮遊したイオンの電子を利用 | ・量子ビットの状態が安定 ・室温で稼働できる | 操作や集積化が難しい | IonQ、AQT、Quantinuum他 |
光子 | 光子の振動を利用 | ・ノイズに強い ・室温で稼働できる | ・光子損失によるエラーが多い ・集積化が困難 | Xanadu、PsiQuantum、東大他 |
冷却原子 | レーザーで制御した冷却原子を利用 | ・量子ビットの状態が安定 ・室温で稼働できる | 集積化が難しい | AtomComputing、Pasqal他 |
量子ビットは、量子システムにおける演算の基本単位である。しかし、この量子ビットを利用する仕組みは、設計によって異なる。
「このプログラムの最終的な成果は、Win-Winのものです。この戦略的に重要な技術分野で米国が商業的なリーダーシップを発揮し、国家安全保障が不意を突かれないようにするためです」とAltepeter氏は語った。
量子コンピューティングに投資しているのは、米国だけではない。中国は自国の量子システムを積極的に開発している。今年初め、ある研究論文が、中国が2048ビットのRSA暗号を破る寸前であるという懸念を煽った。
この論文では、Claus Peter Schnorrが最近発表したファクタリングアルゴリズムを量子近似最適化アルゴリズムに適用すると、わずか372個の物理量子ビットを持つシステムを使ってRSA-2048暗号を破ることができると示唆されている。
これは、富士通の研究者が最近試算した、RSA暗号を104日間で破るために必要な1万量子ビットと2兆2300億量子ゲートを大幅に下回るものだ。現状最高の量子ビット数を誇るシステムであるIBMのOspreyシステムは433量子ビットの計算能力を持っている。
この論文の結論の信頼性については研究者の間で意見が分かれているが、量子コンピュータが政府を混乱させる可能性があることは、特に米中関係が悪化し続ける中、明らかに注目されている。
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