機械に直接つないだ脳を何時間も生存させることに成功

masapoco
投稿日 2023年11月18日 13:27

テキサス大学サウスウェスタン医療センターの研究チームは、『Scientific Reports』誌の中で、脳の血流を体から分離し、数時間にわたって脳を生きた状態で機能させることができるという新たなデバイスの開発に成功した事を報告している。研究者らによると、この技術は、他の身体機能からの影響を受けずに人間の脳を研究する新しい方法を提供する可能性があり、脳への自然な血流をよりよく模倣する心肺バイパスマシンの設計に役立つ可能性もあるとのことだ。

UTサウスウェスタン大学のEugene McDermott人間成長発達センターで神経学、小児科学、生理学の教授を務めるJuan Pascual博士は、「この新しい方法は、身体から独立した脳に焦点を当てた研究を可能にし、これまでにない方法で生理学的な疑問に答えることを可能にします」と語っている。

研究チームは2頭のブタを麻酔下に置き、バイタルサインを記録するモニターにつないだ。その後、頭蓋骨を切り開いて脳に電極プローブを取り付け、脳と体の他の部分をつなぐ重要な動脈を切断し、脳の自然な血流を再現するように設計されたソフトウェアによって制御されたチューブとポンプからなる体外拍動循環制御装置(EPCC)と呼ばれる装置に接続した。

実験が行われている5時間、脳活動とその他の測定値に最小限から変化がないことが確認出来たという。

この研究の意義は、肉体が機能しなくなった人間の脳を取り出して、意識だけを生きながらえさせるようなSF的なものも将来的には考えられるだろうが、より現実的な部分では、肉体という変数を排して脳への入力を操作することで、純粋な脳機能がどのように変化するかを研究することを可能にするのだ。

例えば、Pascual博士の同僚たちは、他の要因がない場合の低血糖(低血糖)の影響をよりよく理解するために、すでにこのシステムを使用しているという。実験動物に食物摂取を制限したり、インスリンを投与することによって低血糖を誘発することはできるが、身体は代謝を変化させることによって、これらのシナリオのいずれかを部分的に補うことができ、これはひいては脳を変化させる。対照的に、この新しい装置では、研究者は脳に送られる血液中のグルコース含有量を直接変化させることができ、その影響を研究することが出来る。

将来の応用という点では、研究チームは、血液を連続的に体内に送る既存の心肺バイパス装置とは対照的に、新しいプロセスが人間の心臓のように血液を送り出すことも視野に入れている。人間の心臓のように作動する心肺バイパスがあれば、既存のバイパス装置による合併症を避けることができる、と研究チームは推測している。


論文

参考文献

研究の要旨

脳への選択的な血管アクセスは、代謝トレーサー、薬理学的研究、および胸部、腹部、四肢からの体性影響から分離して神経特性を明らかにすることを目的としたその他の研究において望ましい。しかし、現在の脳循環を人工的に制御する方法では、個々の神経細胞の活動を維持しながらも、脈動に依存した血管シグナル伝達や、皮質電図のような神経ネットワーク現象を消失させることができる。そこでわれわれは、機械的に脳血流動態を完全に制御できるようにし、ブタ本来の脳灌流を再現あるいは変更できるようにすることを目指した。この目的のために、頭部への血流を外科的に全身循環から分離し、改変した大動脈または腕頭動脈を介して完全な体外拍動性循環制御(EPCC)を行った。この制御は、EPCC前に個々に測定された血圧、流量、拍動性をほぼ本来の値に数時間維持するコンピュータ化されたアルゴリズムに依存していた。連続的な脳皮質電気泳動と脳深部電極の記録は、覚醒時のヒト脳皮質電気泳動が提供する標準値と比較して脳活動を評価するために用いられた。EPCC下では、この活動は、脳酸素化、脳圧、脳温、微視的構造と同様に、本来の循環状態に比べて変化していないか、あるいはほとんど変化していなかった。このように、われわれのアプローチは、神経活動とその循環操作を、生体の他の大部分から独立して研究することを可能にした。



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