燐光性有機発光ダイオード(PHOLED)の新たなブレークスルーにより、有機ELダイオード(OLED)の効率が大きく改善され、それに加えてより忠実な色再現性能を持ったディスプレイの登場も期待出来そうだ。
現在、OLEDはテレビ、携帯電話、コンピューター画面における画像投影の最先端とみなされている。従来のLCDと比較して、発熱も少なく、薄型化が可能であり、鮮明な画像、深い黒のレベル、広い視野角を持つOLEDディスプレイはスマートフォンやテレビの高価格帯の製品に採用されている。だが、寿命や明るさの点では、LCDと比較すると必ずしも優れているわけではない。
従来のOLEDディスプレイでは白色光を生成するために効率の悪い蛍光OLEDに依存していた。ここにエネルギーの損失があったのだ。だが、新たな青色PHOLEDの登場によってこの状況は一変するだろう。
「長寿命の青色PHOLEDを実現することは、20年以上前からディスプレイ業界と照明業界の焦点でした。おそらく、有機エレクトロニクスの分野が直面している最も重要かつ緊急の課題でしょう」と、ミシガン大学教授で論文の著者の1人であるStephen Forrest氏は述べている。
彼らの新技術は、テレビやコンピュータのディスプレイメーカーに、PHOLEDを使って可能な限り最高で最も効率的な画面を作る可能性を提供できると述べている。プレスリリースによると、この技術は、「同じような濃い青色を発する他のデザインに比べ、青色光強度の90%を10~14倍長く維持できる」とのことだ。
理論上100%の効率を誇るPHOLED
なぜ青色PHOLEDがそこまで重要なのかは、従来のOLEDの発光と比較してみると分かりやすい。
OLEDは、電気エネルギーを直接光子に変換する。これには、陰極、陽極、発光層など、複数の層が含まれている。OLEDに電流が流れると、電子が陰極から、正孔が陽極から離れ、中央の発光層で再結合して励起子を形成し、崩壊する際に光または熱を放出する。
分子のスピン状態の配置によって、このプロセスは2種類の励起子、すなわち一重項と三重項を生成することがある。一重項は通常三重項に比べて3対1で少ないが、これが問題になる。なぜなら、従来の(つまり蛍光の)OLEDでは、一重項のみが光子を放出し、三重項はそのエネルギーを熱として放出するため、非効率的だからだ。蛍光OLED素材を使用するディスプレイは、入力される電気エネルギーの25%しか光に変換できない。余分な熱はデバイスの寿命を縮める可能性があるのだ。
OLEDを構成する有機化合物の混合物に重金属を加えると、スピン状態が変化し、三重項励起子も光を放出するようになる。その結果、燐光性有機発光ダイオード(PHOLED)が生まれるのだ。これは理論上100%の効率を誇り、有害な熱を生成しない。
赤色PHOLEDは20年前から、緑色は10年前から利用可能だったが、3色の中で最も高いエネルギーレベルを持つ青色を作成することは長年の課題だった。
これまでの最高の青色PHOLEDは照明にもディスプレイにも使用できるほどの耐久性はなかった。米国エネルギー省はこの青色PHOLEDの長寿命化の研究に資金を投じており、目標は50,000時間としていたが、ミシガン大学の研究者らはこの目標を達成し、商用利用への道筋を付けたのだ。
青い光を作るには、電気が重金属を含む燐光有機分子を励起する。励起された分子は発光する前に接触することもあり、その場合、2つの分子の蓄積エネルギーがすべて1つの分子に移動する。青色光のエネルギーは非常に高いので、1つの励起分子の2倍のエネルギーが伝達され、化学結合を切断し、有機物質を分解することができる。
この問題を回避する1つの方法は、より広い色のスペクトルを放出する材料を使うことで、励起状態のエネルギーの総量を下げることである。しかし、そのような材料は深い青色ではなく、シアン色や緑色に見えるものだった。
ミシガン大学の研究者らは、シアン色の材料を2枚の鏡で挟むことでこの問題を回避した。鏡の間隔を完璧に調整することで、最も深い青色の光波だけが持続し、最終的には鏡室から放出される。
有機発光層の光学特性を隣接する金属電極にさらに調整することで、プラズモン-励起子-ポラリトン(PEP)と呼ばれる新しい量子力学的状態が導入された。この新しい状態は、有機材料が非常に高速で発光することを可能にし、励起状態が衝突して発光材料が破壊される機会をさらに減少させるのだ。
「われわれのデバイスでは、電子輸送材料の励起状態が、光波と金属陰極の電子振動と同期しているため、PEPが導入されます」と、物理学と電気・コンピューター工学の博士課程に在籍する研究共著者Claire Arneson氏は語っている。
時期は未定だが、近々登場する可能性
関係者によると、”青色PHOLEDを使ったディスプレイ画面は、デバイスのバッテリー寿命を30%延ばす可能性がある”という。また、発熱も抑えられるため、周囲の電子機器の寿命が延びるはずだ。
この新技術が実験室から生産ラインまで到達する明確なスケジュールはない。しかし画質とともに、これまでのLEDや量子ドットOLEDのブレークスルーと同様に、PHOLEDテレビは思っているよりも早く登場するだろう。
論文
参考文献
- University of Michigan: Blue PHOLEDs: Final color of efficient OLEDs finally viable in lighting
研究の要旨
燐光有機発光ダイオード(PHOLED)は、高効率、輝度、色調可変性を特徴とし、ディスプレイと照明の両方の用途に適している。しかし、青色PHOLEDの動作寿命の短さを克服することは、有機エレクトロニクスの分野で最も困難で価値の高い問題のひとつである。PHOLEDの寿命が短いのは、高エネルギーで長寿命の青色三重項が消滅し、分子解離が起こるためである。パーセル効果(微小共振器内での放射減衰率の向上)は、三重項密度を減少させ、破壊的な高エネルギー三重項-ポーラロンや三重項-三重項消滅の発生確率を減少させることができる。ここでは、青色PHOLEDにおけるポラリトン増強パーセル効果を紹介する。われわれは、プラズモン-励起子-ポラリトン(PEPs)がパーセル効果の強度を著しく増大させ、青色PHOLEDの50 nm厚の発光層で平均2.4±0.2のパーセルファクターを達成することを発見した。LT90(PHOLEDの輝度が初期値の90%まで減衰する時間)は、従来のPHOLEDに使用した場合と比較して5.3倍向上した。色度座標を(0.14, 0.14)と(0.15, 0.20)のディープブルーにシフトすると、パーセル増強デバイスは、同様にディープブルーのPHOLEDに比べて10~14倍の改善を達成し、ある構造では、現在までに報告されている最長Ir錯体デバイス寿命LT90 = 140 ± 20 hに達した。ポラリトン増強パーセル効果とマイクロキャビティ工学は、濃い青色のPHOLED寿命を延ばす新たな可能性を提供する。
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