ブラックホールほど宇宙において異質で魅力的な存在はないだろう。なんでも吸い込んでしまうこの天体は、これまでの研究からエネルギーを放出することも判明しているが、中国・天津大学のZhan-Feng Mai氏とRun-Qiu Yang氏による新たな研究では極小のブラックホールがバッテリーや原子炉として利用可能であることが示唆されている。(実際に可能かどうかは別として)
この研究は、シュヴァルツシルト・ブラックホール(電荷も角運動量も持たないブラックホール)を想定している。実際、取り出されるエネルギーはブラックホール内部からではなく、ブラックホールのすぐ外側からだ。
研究者らは、シュヴァルツシルト・ブラックホールに荷電粒子を落とすことで、ブラックホールに静電場を持たせることができる事を発見した。
バッテリーは非電気エネルギーを電気エネルギーに変換する。原子炉は核反応の力を利用してエネルギーを生産する。そして小さなブラックホールは、理論的にはその両方を実現できると研究者らは主張している。
「ブラックホールが非常に強い重力を持っているという事実を考慮すると、興味深い疑問が生じる。少なくとも理論的に考えると、ブラックホールの重力力を利用して電気エネルギーを生成する、つまりブラックホールをバッテリーとして利用することは可能なのだろうか」と、研究者らは論文で述べている。
だが極小ブラックホールには問題がある:ホーキング輻射だ。ホーキング輻射とは、ブラックホールの事象の地平線とその近傍の量子場との相互作用によってブラックホールが失う質量のことである。ブラックホールが小さければ小さいほど、ホーキング輻射によって質量が速く失われる。ブラックホールが十分に小さければ、比較的早く完全に蒸発してしまう。これは実に一瞬の出来事で、そのため周囲の空間から何かを取り出すことは困難であると考えられる。
だが、研究者らは、ある質量以上の極小ブラックホールに、電気エネルギーを発生させるような方法で物質を補給し、再充電できることを突き止めた。質量が1015キログラムから1018キログラムの原子サイズのブラックホールであれば、荷電粒子を補給することでこのエネルギーを生み出すことができるはずだという。
計算では、この電池は、質量の最大25%を電気エネルギーに変換することができるようだ。このサイズなら容易に小型の携帯電話に収めることができるが、実現するには小惑星の重さを持ち上げる能力が必要である。
チームは、このような電池を完全に充電し、放電することがブラックホールの法則に違反せずに可能であることを示したが、永遠に稼働可能なシステムではない。ブラックホールが各サイクル後に拡大するため、最終的にはそれを含むキャビティのサイズに達し、電池としての利用が不可能になる。
電池だけでなく、ブラックホールを利用して高効率でエネルギーを生成する別の方法もある。チームは、アルファ(α)放射線をブラックホールに投げ込むことにより、電気を生成できることに気づいた。これはヘリウムの原子核であり、放射性崩壊の一般的な産物である。
チームは、この放射線がブラックホールに向けられた場合、アルファ放射線の質量の25%を電子の反物質バージョンである陽電子から遠ざかる運動エネルギーに変換することが可能であることを示した。「このプロセスは、α崩壊の運動エネルギーを最大数百倍に増幅することができる。興味深いことに、このようなブラックホールリアクターの最適な質量は、原始ブラックホール由来の暗黒物質の窓内に位置している」と、チームは論文で述べている。
このようなブラックホールの存在はまだ証明されておらず、それらを含む方法がわからないという要因もあるが、それらを見つけて制御できるようになれば、高効率の電気が実現するかもしれない。
論文
- Physical Review D: Using black holes as rechargeable batteries and nuclear reactors
参考文献
研究の要旨
本論文では、シュヴァルツシルト・ブラックホールを充電池や原子炉として利用するための物理的プロセスを提案する。充電可能な電池として、制御可能でゆっくりとした方法で、最大でも入力質量の25%を利用可能な電気エネルギーに変換することができる。我々は、その内部抵抗、放電効率、最大出力、サイクル寿命、および完全に利用可能なエネルギーについて研究している。原子炉として、「α粒子+ブラックホール→陽電子+ブラックホール」という効果的な核反応を実現し、25%のα粒子の質量を陽電子の運動エネルギーに変換することができる。このプロセスは、自然崩壊で利用可能な運動エネルギーを数百倍に増幅する。原始ブラックホールの中には、ダークマター中に相当な密度を持つものがあると考えられているので、この論文の結果は、そのようなブラックホールを起源とするダークマターが、エネルギーを供給するための原子炉として利用できることを示唆している。
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