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“波”を使ったアナログコンピュータが、従来のコンピュータよりも優れた未来予測を可能にする

コンピュータは、人間のように過去から学び、次に起こることを予測することができるのだろうか?最先端のAIモデルがこの偉業を達成できると聞いても驚かないかも知れないが、少し変わった、もっと水槽のようなコンピューターはどうだろう?

私たちは、従来の論理回路プロセッサの代わりに流水を使い、「リザーバーコンピューティング」と呼ばれるアプローチで未来の出来事を予測する、小さな概念実証のコンピュータを作った。

ベンチマークテストでは、このアナログコンピュータは、入力データの記憶や将来の事象の予測に優れており、場合によっては高性能なデジタルコンピュータよりも優れていることもあった。

では、その仕組みはどうなっているのだろうか?

池の中の石を投げる

アリスとボブの2人の子供が、池の端で遊んでいるとする。ボブは大小の石を一度に一つずつ、一見ランダムに水中に投げ入れる。

大きな石と小さな石は、それぞれ異なる大きさの水の波を作る。アリスは石が作る水の波を見て、波が次にどうなるかを予想することを学び、そこからボブが次に投げる石の見当をつけることができるようになる。

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ボブは池に石を投げ入れ、アリスは波を見て次の展開を予測しようとする。(著者提供)

リザーバーコンピュータは、アリスの脳の中で起こっている推論プロセスをコピーする。過去の入力から学習して、未来の出来事を予測することができるのだ。

リザーバーコンピュータは、ニューラルネットワーク(脳の神経細胞の構造に緩やかに基づいたコンピュータプログラム)を使って最初に提案されたが、単純な物理システムで構築することも可能だ。

リザーバーコンピュータはアナログコンピュータである。デジタル・コンピュータがデータを「0」と「1」の2値の急激な変化として表現するのとは対照的に、アナログ・コンピュータはデータを連続的に表現する。

データを連続的に表現することで、アナログコンピュータはデジタルコンピュータよりも、ある種の自然現象(「カオス時系列」と呼ばれる予測不可能な連続現象)をうまくモデル化することが出来るのだ。

予測する方法

リザーバーコンピュータを使ってどのように予測を行うかを理解するために、過去1年間の毎日の降雨量の記録と、バケツいっぱいの水が身近にあるとしよう。バケツは私たちの「計算リザーバー」になる。

バケツに毎日の雨量記録を石で入力する。小雨の日は小さな石を、大雨の日は大きな石を投げる。雨が降らない日は、石を投げない。

それぞれの石は波を作り、バケツの中で他の石が作った波と相互作用して、ドロドロになる。

このプロセスの最後に、バケツの中の水の状態から予測ができる。波と波の相互作用によって大きな新しい波が発生すれば、リザーバーコンピュータは大雨を予測すると言える。しかし、もし波が小さければ、小雨しか降らないと予想される。

また、波が互いに打ち消しあって、静止した水面を形成することもある。その場合は、雨は降らないと考えて良い。

貯水池が天気予報をするのは、バケツの中の波と雨のパターンが、同じ物理法則に従って時間をかけて進化していくからだ。

他の多くの自然現象や社会経済的プロセスも同様である。つまり、リザーバーコンピュータは、金融市場やある種の人間活動さえも予測することができるのだ。

より長く続く波

だが、「バケツ一杯の水」のリザーバーコンピューターには限界がある。一つは、波が短命であることだ。気候変動や人口増加のような複雑なプロセスを予測するには、より耐久性のある波動を持つ貯水池が必要になる。

一つの選択肢として、「ソリトン」がある。これは自己強化型の波で、形を保ちながら長い距離を移動する。

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私たちのリザーバーコンピューターは、飲料水の噴水に見られるような孤立波を使っていた。 (著者提供)

リザーバーコンピューターには、ソリトンのようなコンパクトな波が使われている。このような波は、お風呂の流し台や水飲み場などでよく見かけるものだ。

私たちのコンピュータでは、少し傾いた金属板の上を薄い水の層が流れている。小さな電動ポンプで流速を変化させ、ソリトン波を発生させる。

波の大きさを正確に測定するために、紫外線で水が光るように蛍光物質を加えた。

ポンプは、アリスとボブが遊ぶゲームにおける落石の役割を果たすが、孤立波は水面の波に対応する。孤立波は、バケツの中の水の波よりもずっと速く動き、長生きするので、私たちのコンピューターはより高速にデータを処理することが出来る。

では、その性能はどうなのだろうか?

私たちは、カオスでランダムなデータのベンチマークセットについて、過去の入力を記憶する能力と予測を立てる能力をテストした。その結果、このコンピュータは、すべてのタスクを非常にうまくこなしただけでなく、同じ問題を課された高性能デジタルコンピュータを凌駕する結果を得ることが出来たのだ。

また、同僚の Andrey Pototskyと共同で、孤立波の物理的特性をより深く理解するための数学的モデルも作成した。

次に、このコンピュータをマイクロ流体プロセッサーとして小型化する予定だ。水波は、あらゆるスマートフォンに使われているシリコンチップと同じように動作するチップの中で計算ができるようになるはずだ。

将来的には、気候変動や山火事、金融市場などの分野で、現在のスーパーコンピューターよりもはるかに低コストで、信頼性の高い長期予報を作成できるようになるかも知れない。

また、デジタルデータを使用しないため、サイバー攻撃にも強い。

私たちのビジョンは、ソリトンベースのマイクロ流体リザーバーコンピューターによって、世界中の農村や遠隔地のコミュニティにデータサイエンスと機械学習がもたらされることだ。しかし、今のところ、私たちの研究活動は続いている。


本記事は、Ivan Maksymov氏によって執筆され、The Conversationに掲載された記事「Researchers built an analogue computer that uses water waves to forecast the chaotic future」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。

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