水素はパワフルでクリーンな燃料だ。酸素のある状態で燃やすと、熱としてエネルギーが放出され、自動車や船舶の動力源になったり、食物を調理したりすることができる。また、水素は、酸素と共に燃焼させても、大気中に放出できる最も無害な分子である水が生成されるのみであり、クリーンだ。では、そんなに良いものなら、なぜもっと用いられないのだろうか?理由は簡単で、水素を大量に生産するのは難しく、コストがかかるからだ。
だがこのたび、太陽エネルギーを使って水から水素を製造する方法が発見された。その効率は9%以上と、従来の10倍も効率的に水素を生産する事が出来るとのことだ。
この新たな装置は、自然のプロセスを模倣して水素を集める。そのプロセスとは、「光合成」だ。
この研究を主導したミシガン大学のZetian Mi教授は、「最終的には、人工光合成デバイスは自然の光合成よりもはるかに効率的で、カーボンニュートラルへの道筋をつけることができると考えています」と語っている。
化学の授業で、水から水素と酸素をつくる方法を学んだことがあるかも知れない。コップに塩水を入れ、電池の両極に銅線または白金線を接続し、その両端を水の中に入れる。やがて、一方の極に水素の気泡が、もう一方の極に酸素の気泡が現れる。
この簡単な装置では、電気エネルギーによって、水分子中の酸素原子と水素原子が分離される(水は2個の水素原子と1個の酸素原子でできていることを思い出してほしい)。また、電流を作るのに電池の代わりに太陽電池を使えば、太陽光で水分子を分解することも可能だ。
この単純な装置を、大規模かつ低コストで水素を製造できるものにしようと、化学者たちは何十年にもわたって努力を続けてきた。だが実は、まだ成功していない。その理由はよく知られているが、ここで説明するのは難しい。このプロセスは、太陽エネルギー(写真)を使って電気(電気)を発生させ、化学反応(化学)を起こし、水中の水素と酸素を分離することから、光電気化学と呼ばれている。
近年では、光触媒という別の方法の開発も進められている。この方法では、触媒(酸素と水素を分離して水分子の分解を促進するが、変化せず消費されない分子)と太陽光が使われる。
装置は極めてシンプルで、底に触媒を取り付けた密閉式の透明フラスコに、水を入れるだけ。このフラスコには、レンズで集光された太陽光が直接照射されている。すると、触媒によって太陽エネルギーが水の分子を分解し、酸素と水素が分離され、気体として放出されるので、簡単に分離することができるのだ。水を沸騰させるのとほぼ同じだが、沸騰の場合、放出される気体は水蒸気(この場合、水の分子は水素に酸素がくっついたまま)である。光触媒の場合、放出されるガスは水素と酸素という異なる分子の混合物である。
簡単に行われる様に思われるが、その秘密は、反応を可能にする分子である「触媒」にある。何十もの科学者グループが、この反応を迅速かつ効率的に行うための触媒を何年もかけて作り出そうとしてきたのだ。そして今回、ようやく理想的な触媒が発見されたのだ。
この触媒は、シリコン表面に、窒化インジウムガリウム(InGaN)のナノ構造を成長させる事で形成される。光は半導体ウエハーに取り込まれ、自由電子と正孔(光によって電子が放出されたときに残る正電荷の空間)に変換される。この電子と正孔を利用して反応を起こすのが、1/2000ミリメートルの大きさのナノスケールの金属球であり、ナノ構造体中に散りばめられている。
スクリーンの上に設けられた断熱層によって、温度は摂氏75度に保たれている。この温度は、反応を促進するのに十分な温度であると同時に、半導体触媒が効果的に機能するのに十分な温度を保っている。
最も素晴らしいのは、このシステムが、水を追加し、フラスコに太陽光を当て続ける限り、触媒を消費することなく、無限に機能することだ。水道水、海水、蒸留水を使用でき、効率は9.2%(入射した太陽エネルギーの9.2%を水素として回収)とのことだ。
また、この装置は太陽光を取り込むための半導体にダメージを与えることなく、太陽光を集光する能力も備えている。プレスリリースによると、この半導体触媒は、使えば使うほど性能が向上し、太陽光を化学反応に利用する際に通常発生する劣化に耐えることができるそうだ。
この研究の筆頭著者で、ミシガン大学電気・コンピュータ工学部研究員のPeng Zhou氏は、「低光量でしか動作しないいくつかの半導体と比較して、100倍以上も小型化することができました。我々の技術で製造した水素は非常に安価になる可能性があります。」と述べている。
次のステップは、水素と酸素を商業的に大量に生産できるようにシステムをスケールアップすることである。このステップに成功すれば、人類は光と水を利用して、無限に水素を作り出せるようになるだろう。環境面でも全く問題のないサイクルだ。バッテリー電気自動車の普及が進められているが、バッテリー材料のリチウムの供給懸念から、実は一部で水素自動車の開発が進められている事もあり、今後水素の需要は更に増すことが予想される。あとは、この科学的発見が全人類に消費される技術に転換されるのを待つしかない。
論文
参考文献
- University of Michigan: Cheap, sustainable hydrogen through solar power
- Interesting Engineering: Self-healing semiconductor withstands light equal to 160 suns to produce hydrogen
研究の要旨
地球上で最も豊富な天然資源である太陽光と水から水素燃料を製造することは、カーボンニュートラルへの最も有望な道筋の一つだ。太陽光を利用した水素製造の中には、例えば光電気化学的水分解のように、腐食性の電解質を必要とするものもあり、性能の安定性や環境の持続可能性が制限される場合がある。一方、光触媒水分解により、太陽光と水からクリーンな水素を直接製造することもできる。しかし、光触媒水分解の太陽熱利用効率は非常に低いままである。私たちは、純水、太陽光、窒化インジウムガリウム光触媒を用いて、9.2%という高いSTH効率を達成する方法を開発した。この戦略の成功は、最適な反応温度(約70℃)で動作させることにより、水素-酸素の順方向進化を促進し、水素-酸素の逆方向再結合を抑制する相乗効果に由来するもので、これまで無駄になっていた太陽光の赤外線を直接利用することができるようになった。さらに、この温度依存の戦略により、広く入手可能な水道水や海水から約7%のSTH効率が得られ、257ワットの自然太陽光を利用した大規模光触媒水分解システムにおいても6.2%のSTH効率が得られた。本研究は、太陽光と水から効率的に水素燃料を製造する実用的なアプローチを提供し、太陽光水素製造の効率ボトルネックを克服している。
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