私たちは、時間を川や矢印、カレンダー上の連続した箱の配列として認識している、過去に原因があり、未来に結果があるというのが基本的な流れと直感的に認識している。だが、物理学者の中には、“未来が過去に影響を与える”可能性を唱える人々がおり、その考えは徐々に広まっているようだ。
未来が過去に影響を与える「逆因果律」とは
逆因果律とは、未来の事象が過去の事象に影響を及ぼすという因果関係の概念だ。一般的に、我々は原因が先にあり、結果が後に起こるという因果関係を当然だと思っている。しかし、逆因果律では、通常の因果関係とは逆で結果が先行し、原因が後に起こることになる。
このような考え方は非常識だと感じるかも知れないが、実は量子物理学や相対性理論では可能性があることが示唆されている 。例えば、量子もつれや遅延選択量子消しゴム実験などでは、未来の観測や操作が過去の粒子や波動の状態に影響を与えるような現象が観測されている 。また、時間的閉曲線やワームホールなどでは、時間を遡って移動する可能性があることが理論的に予測されている。
哲学では、原因と結果の区別は観察者に依存するものであり、必ずしも時間的順序に一致しないという主張がある。
最近、ボン大学名誉教授でケンブリッジ大学トリニティ・カレッジの名誉フェローであるHuw Price氏と共同で、「逆因果律」に関する論文を最近執筆したサンノゼ州立大学のKenneth Wharton氏は、この未来が過去に影響を与えるという考えが、原子という小さなスケールで存在する量子物理学で観察される奇妙な現象のいくつかを説明する糸口になると考えている。
Wharton氏はMotherboardの取材に対してこう語っている。「物理学者や哲学者、そして人間にとって、時間や因果関係に対する本能は、最も深く、最も強い本能であり、諦めたくないものであることがわかりました」
逆因果律をよりよく理解するために、ある思考実験が提案されている。これは、量子もつれに関係のあるものだが、アリスとボブというキャラクターが、量子もつれ状態にあるそれぞれの粒子を測定した結果、距離が離れているにもかかわらず、これらの物体に奇妙な相関関係があるという設定だ。
この話は、粒子が遠く離れていてもリンクする非局所的な量子効果が存在することを意味すると解釈されている。しかし、逆因果律の支持者は、粒子が過去から出現した相関関係を示すと提案している。つまり、アリスとボブが自分の粒子に対して行う測定は、過去のそれらの粒子の特性に影響を与えるというのだ。
「この2点間には、魔法のような非局所的なつながりがあるのではなく、もしかしたら、過去を通してのつながりがあるのかもしれません」と、Wharton氏は語る。「過去に起こった出来事と、将来選択する設定に相関があるようなモデルでは、それは逆因果関係にあります」
だが、ここで注意しておきたいのは、逆因果律はタイムトラベルとは違う考えであると言うことだ。逆因果律モデルは、人間を含む信号や物体が過去に送られる可能性を予測するものではない。
「実際、私たちは過去に信号を送ることができないからです。もし、そうすることができたら、あらゆる種類の乗り物やパラドックスを生み出す可能性があるからです。そのようなことがないようなモデルにする必要があります」と、ウェスタン大学のロットマン哲学研究所の博士研究員Emily Adlam氏は述べている。
そうではなく、逆因果律モデルは、未来の状況が過去の状態と相関することを可能にするメカニズムが存在することを示唆しているという。Wharton氏と、Price氏が先日発表した内容によれば、このシナリオは、局所性と現実主義に対する脅威を取り除くことが出来るとのことだ。
そして今、研究者の間では、この逆因果律モデルが物理学の基本的な疑問に答える可能性があるとの考えが広まってきている。
Wharton氏とPrice氏は、この逆因果律が、物理学の究極的な統一理論への道筋を示すと期待をしている。
「今、物理学が直面している問題は、成功した理論の2つの柱(相対性理論と量子力学)が互いに会話していないことです。1つは空間と時間に基づくもので、1つはこの巨大な量子波動関数のために空間と時間を脇に置いている。これに対する解決策は、議論することなく誰もが同意しているようですが、重力を量子化することです。それが目標なのです。『もし、物事が本当に空間と時間の中にあって、空間と時間の中で量子論を理解すればいいのだとしたらどだろう』と言った人はほとんどいません。それは、人々が目を向けていない、すべてを統一する全く新しい方法となるでしょう」と、Wharton氏は述べている。
Price氏は、この逆行性が、量子力学と古典物理学(特殊相対性理論を含む)の間の「緊張をなくす」ことを最終的に解決する新しい手段を提供することができると同意した。
「逆因果律は、通常の量子力学の説明における波動関数のいわゆる『認識論的』見方を支持するもので、波動関数はシステムに対する我々の不完全な知識を符号化したものに過ぎないという考え方です。アインシュタインやシュレーディンガーが初期に考えたように、波動関数のいわゆる崩壊を情報の変化として理解することが容易になるのです。この点で、量子力学の(一見)非古典的な特徴を、物理的に実在するものにはならないとすることで、さらに取り除くことができると思います」と、Price氏は期待を示す。
研究者らは、逆因果律について研究を続けており、最終的には、過去に影響を与えることができる未来について、肯定的または否定的な証拠を提供する実験技術を提案する可能性があるだろう。
Wharton氏は、「目標は、より一般的なモデルを考え出すことです。しかし、より多くの物理学者が、未知の選択肢としてこれを真剣に受け止めていることに、私は胸を打たれています。我々はそれを探求すべきなのかもしれません」と、述べている。
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