パリに拠点を置く冷却(中性)原子アプローチ量子コンピューティングのスタートアップPasqalは、シリーズB資金調達ラウンドで1億ユーロを調達した。量子プロセッサーメーカーは、この新たな資本を活用して、短期的には1,000量子ビットの量子コンピューター、長期的には耐障害性アーキテクチャの構築に向けて、研究開発をさらに発展させる予定だという。2019年以降、同スタートアップは合計で、現在1億2,500万ユーロを超える資金を調達している。
Pasqalの1億ユーロのシリーズBラウンドには、シンガポールのTemasekが主導し、、欧州イノベーション評議会(EIC)ファンド、Wa’ed Ventures、Bpifranceが、そのLarge Venture Fundを通じて参加した。既存の投資家としては、Quantonation、Defense Innovation Fund、Daphni、Eni Nextが支援を続けている。
2019年初頭に設立されたPasqalだが、昨今数多く設立されている量子コンピューティングのスタートアップの中で注目を集めているのは、同社のアプローチが他社と異なっている点であろう。Pasqalは、「冷却原子型」と呼ばれる、量子コンピューティングの実現というアプローチを取っている。
IonQのようなイオントラップ型や、IBMの超伝導アプローチとは異なり、冷却原子型は「第三の量子コンピュータ」と呼ばれ、注目されている。この冷却原子型量子コンピュータの中核の技術は「光ピンセット」と呼ばれる手法で原子を操作して計算するものだ。
たった1個の原子を保持する技術を構築することは、それなりの困難を伴ったが、現在ではほとんど解決されており、むしろその利点が際立ってきている。このアプローチの利点は、数百個の原子を同時に捕らえることができれば、非常に高密度の量子ビットのマトリックスを作ることができ、さらにホログラフィック手法を用いれば、特定のアルゴリズムに必要な3次元空間内の配置を変更することができる点だ。しかも、これらはすべて室温で実現できる。このため、従来の量子プロセッサーというよりも、FPGA(Field-Programmable Gate Array)に近いと言える。また、2022年に量子もつれの研究でノーベル賞を受賞したAlain Aspect氏が、Pasqalの共同設立者のひとりであることも特筆に値するだろう。
Pasqal社の共同創業者でCEOのGeorges-Olivier Reymond氏によると、同社はすでに一度に300個以上の原子を制御できることを実証しているという。「レーザービームの中に原子を1つだけ入れて、それをモニターしたり制御したりするのは非常に難しいことです。しかし、一度それを達成すれば、ほとんど簡単にそれをスケールアップすることができ、好きな形のアレイを作ることができます。」と彼は説明する。この量子ビットは、そのコヒーレンス時間と忠実度において、イオントラップ型量子ビットに似ているが、この柔軟性と、量子ビットの間に数ミクロンしかない、非常に密なアレイにこれらの原子を詰め込む能力が、この技術に優位性を与える可能性があると指摘しました。
Raymond氏によれば、こうした基本的な機能のいくつかを備えた現在、チームは量子制御システムの構築に取り組んでおり、量子アルゴリズムの実装を開始できるようにしているとのことだ。また、量子制御ハードウェアの構築に注力しているスタートアップ企業はあるが、いずれも中性原子に最適化されていないため、同社は独自にシステムを構築することにしたと指摘する。
Reymond氏は、「我々は、顧客の商業的利益を引き出すことができる量子コンピュータを提供する明確な道を進んでおり、今回の投資ラウンドは、2024年までにこの目標を達成するために役立ちます。今回の資金調達は、中性原子技術が現実の量子アプリケーションを実現するための最高のプラットフォームであることを証明するものであり、その可能性が一流の投資家に認められたことを誇りに思います。」と、述べている。
この顧客とは、Fortune 500に掲載されているような有名企業だ。同社は最近、世界最大の協同組合金融機関であるCrédit Agricole CIBとの共同研究を発表し、Pasqalの技術が複雑な金融最適化問題を従来のコンピュータと同じくらい正確に解決できることを実証している。
化学大手のBASFは、Pasqalの技術を天候予測に利用する方法を研究している。
また、BMWは、Pasqalのアルゴリズムを利用して、衝突試験やより軽量な部品や素材の開発に使用できる複雑なシミュレーションを簡素化しようとしている。
その他のクライアントには、Siemense、AirBus、LG、Johnson and Johnson、Thalesなどがある。
Quantonation社のマネージングパートナーであるChristophe Jurczak氏は、Pasqal社がまもなく量子コンピューティングの「世界的リーダー」として台頭してくると信じて投資したと語った。「Quantonationは、Institut d’Optiqueからスピンオフして以来、同社をサポートしてきました。これはQuantonationのポートフォリオの中で最初のスケールアップであり、フランスの研究の卓越性とフランスの量子エコシステムの競争力を如実に示しています。」
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