FacebookがMetaに改称し、「メタバース」に年100億ドルの投資を行うことを発表していたり、メタバース関連の土地が何億円もの価格で取引されているなど、にわかにメタバース界隈が賑わってきていますが、メタバースは今後どうなっていくのでしょうか?
Moralis社の共同創設者兼CEOの、Flip Martinsson氏がVenture Beatに寄稿した記事で、同氏は「短期的にはメタバースに関連した変化は見られないが、ほとんどすべての業界にとってメタバースが自身の将来にどのように関わってくるのか考えることが重要だ」と述べています。
Venture Beat : The metaverse could drive the next big tech opportunity
メタバースとは何なのか?
メタバースといえば、2000年代初頭に一時期もてはやされた、「Second Life」を思い出される方もいるかもしれません。自分自身に似せた(似せなくてもいいですが)アバターを使って、仮想空間で交流を図ったりするのがイメージしやすいでしょうか。または、アニメ「ソード・アート・オンライン(SAO)」に登場するような、VR(バーチャルリアリティ・仮想現実)だったりするでしょうか。
これについて、Martinsson氏は下記のように語っています。
メタバースを支える技術は一つではありません。大まかに言えば、ブロックチェーン、暗号通貨、仮想現実・拡張現実、人工知能、IoT(モノのインターネット)などがそれを構成する技術になるでしょう。また、合意された定義もありません(これは、メタバースとは何であるかを尋ねられたときに、誰もが異なる説明をしているように見える理由の説明にもつながるかもしれません)。
Flip Martinsson via Venture Beat
実際に「これがメタバースだ!」という定義もまだ曖昧ですし、メタバースを提供する企業によっても微妙にニュアンスが異なるようです。
様々な企業がメタバース関連の投資を行い、今後の覇権を握ろうとしているように、世界で統一された一つの新しい仮想世界が作られるということではなく、それぞれの企業ごとに自社の顧客を囲い込むためのメタバースを構築していくのが今後の流れになっていくのではないでしょうか。GAFAMなどの大手ハイテク企業がそれぞれ自社の開発したメタバースをそれぞれの顧客に提供し、その中でコミュニティが生まれ、それぞれの経済圏が発展していくのが将来のメタバースのあり方のような気がします。
一見複数のメタバースが乱立するのは世界の分断化みたいでどうなんだろうと思いますが、メタバースを提供する企業にとっては囲い込みこそがメタバースを自前で提供する最大の理由であり、収益化という観点からもおそらくそうなっていくのではないかと。App StoreやPlay Storeみたいに、プラットフォームを提供することのうまみを考えれば理にかなっていますね。
またそれ以外にも、自社の顧客にあった環境作りが出来るというのも、それぞれ自前のメタバースを用意する理由の一つになりそうです。
オンラインには多様なコミュニティがあり、それらのコミュニティに特化した環境を設計することで、より良い体験が可能になります。そして、より良い体験は、より大きなエンゲージメントを生み出します。
Flip Martinsson via Venture Beat
ゲームとメタバースの関係
ゲームとメタバースというのは、一見別物のように見えるかもしれませんが、実は両者は切っても切れない関係なのです。
実際にメタバースが普及したとして、人々を飽きさせないために、そしてその中で大規模な収益を上げたり、定期的なエンゲージメントを獲得するためにどうしたらいいでしょうか?それについて最重要ともいえる要素が「ゲーム」というコンテンツとそれに付随するコミュニティです。
ゲーム業界は、収益の面で最大かつ最も急成長しているエンターテインメントになっています。2021年には、映画業界の2倍の1,800億ドルもの市場規模になっています。ユーザー数で見れば、世界で30億人規模になってきているともいわれ、今後、ゲーム内取引の市場は2025年までに744億ドルを超えると予測されています。
2022年1月にMicrosoftがActivisionBlizzardを、テック系では過去最大となる690億ドルで買収したと報じられました。今後のゲーム業界の成長を考えるとこの巨額の買収額も納得いく部分があるかもしれませんが、それにしても巨額ですよね。これについてMicrosoftは「この取引は、我々に『メタバースのためのブロック』をもたらしてくれる」と語っており、今後のメタバース戦略において重要なピースの一つとしてMicrosoftはゲームコンテンツとそれに付随するコミュニティを手に入れたものと考えると「なるほどな」と思わせられます。
NFTとメタバース
メタバースについては、GAFAMなどの巨大IT企業の動きが活発に報じられていますが、実は様々な企業やブランド(そしてもちろん個人も)、今後のメタバース普及による自身への影響を考え、早期参入を模索しているようです。
これについて、例えば人気ゲームの「フォートナイト」が良い例かも知れません。「フォートナイト」は、基本無料のゲームですが、ユーザーがキャラクターのコスチュームや武器のスキン、特殊な動き(ジェスチャー)を得るために課金をする事が出来るようになっています。
ここで重要なのは、あくまで「見た目」が変えられるだけで、ゲーム内で武器の性能が良くなったり、キャラクターが強くなったりと言うことは全くないと言うことです。
フォートナイトというゲームは、こういった、言ってしまえば「外見の要素に対する課金だけ」で成り立っているゲームなのですが、その売上はすさまじく、2020年の1年だけでなんと「5,000億円」もの売上をたたき出していたそうです。
フォートナイトのアバター・スキン(ファッション)から、デジタル・アクセサリーの購入(小売)、ゲーム内のライブ・コミュニティ・イベントの作成(ソーシャルメディア)という一連の「経済圏」を見て、様々な企業は、メタバースがまったく新しいデジタル経済を切り開く可能性があると見ているのです。
そして、この新しいデジタル経済を紐解く鍵は、「NFT」にあるとされています。
「NFT」については、2021年に日本でも流行語大賞の候補に挙がった事そうですが、実際この流行語大賞が毎年全くあてにならないという過去の例に漏れず、恐らくほとんどの人がNFTに付いては聞いたことがないのではないでしょうか。(実際、私の妻も、もちろん両親も、そして職場の同僚も知りませんでした)
NFTについてご存じでない方の為に簡単に説明しますと、NFTとは、「Non-Fungible Token」の略で、日本語に直訳すると『非代替性トークン』ですね。
非代替性とは、『唯一無二の』とか、『替えが効かない』という意味です。そして、トークンとは、『データや通貨、モノ、証明』などの意味があります。
NFTとはつまり、『それが唯一無二であることを照明することが出来る技術』ということです。
では、それがなぜ新しいデジタル経済圏にインパクトをもたらすのでしょうか。それは、NFTが、非流動資産に流動性をもたらし、そして所有権についての考え方を根本から変えてしまうからです。
ユーザーとブランドにとってのNFTの魅力は単純です。ユーザーは購入したデジタル資産を所有し、ブランドはデジタルアイテムが再販された場合に、有利な再販市場の分け前を得ることができます。各NFTの所有権と譲渡はブロックチェーン上に記録・追跡されるため、アセットのオリジナル作成者は販売・再販のたびにロイヤリティを得ることができます。
Flip Martinsson via Venture Beat
プレイヤーがフォートナイトでアバタースキンを購入しても、それを所有しているわけではありません。会社からライセンスを受けて保有しているに過ぎません。セーブデータを失えば、スキンも失います。記録はなく、回収もできないことが多い。そして現実世界でも、例えば、バレンシアガのコートを購入し、それを売ったとしても、ブランドには還元されません。
しかし、NFTを通じて、ユーザーは購入したデジタル資産を所有することができ、ブランドはその資産の個人売買から常に何かしらの手数料を受け取ることが出来る様になり、これまでにはなかった、まったく新しい収益源を開拓することができるようになる。こう考えると、NFTがもたらす変革の大きさが何となくイメージできるのではないでしょうか。
所有権と再販記録は別として、NFTはすでに、より公平なデジタル経済を実現する為に普及を始めており、メタバースと現実世界の両方でさまざまな新しい収入源を開放する可能性を秘めています。
メタバースとの関係について考えることが最も重要
Martinsson氏は、2022年はあまり変化のない年になるのではないかと予想しています。ですが、今後の変化に備えておく必要はあるとも語っています。
私は、2022年にはメタバースの影響は大半の企業で最小になると考えていますが、ほとんどすべての業界にとって、メタバースが自分たちの将来にとって何を意味するかを考えることが不可欠だと思います。適応しない企業は、徐々に、そして一度に、早期参入者に負けてしまうでしょう。今後数年間、メタバースがより統一され、民主化され、断片化されなくなると、最も早く適応したビジネスが最も強くなるのでしょう。
Flip Martinsson via Venture Beat
今後メタバースが成長し普及した場合、それはインターネットの普及、またそれに伴い発生したSNS等の普及と同じかそれ以上のインパクトを与える可能性があります。その流れに乗り遅れないように、また流れに上手く乗って自分たちの利益や将来に繋げていくためにも、メタバースについて知っておくこと、そして今後の動きに注視していくことが重要かも知れません。
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