電気自動車に対する懸念の中で、最も一般的なもののひとつが、電気自動車用バッテリーパックの製造に必要な材料に関するものだ。ニッケル・コバルト・アルミニウム(NCA)電池の主要成分であるコバルトやニッケルなどの鉱物は比較的不足しているため、自動車メーカーはNCAからリン酸鉄リチウム(一般にLFPと呼ばれる)にシフトしている。しかし、LFPにも供給上の問題がある。特に、肥料やソーラーパネル用バッテリーなど、他の資源が同じ原料をめぐって競合している場合にはなおさらだ。
だが、今回ノルウェーにて新たに発見されたリン鉱石鉱床は、今後数十年間の供給不安の解消に役立つ可能性がある。ノルウェー南西部にあるNorge Miningという鉱山会社が771億トンのリン鉱石を発見し、専門家はこの供給量をもってすれば、およそ50年間、EVバッテリー、太陽電池、肥料の需要を賄えると見積もっている。
ノルウェーの巨大鉱床
米国の推計によると、リン鉱石の最大の埋蔵量は約500億トンで西サハラ地域にあり、次いで中国(32億トン)、エジプト(28億トン)である。今回のノルウェーのリン鉱石鉱床はこれまで最大の物を大きく上回る埋蔵量だ。
ノルウェーでの新たな鉱床の発見は、生産国が関税を引き上げたり輸出制限を課したりすれば、環境保護への取り組みが停止しかねない欧米諸国にとって、大きな救いとなるだろう。
昨年のロシアによるウクライナ侵攻の後、リン鉱石の供給が途絶した事実もあり、EUはリン鉱石を、戦略的なものではないにせよ、「重要な」原材料とみなしている。
ノルウェー地質調査所は、鉱床が地下約300メートルまで広がっていると推定していた。しかし、探鉱段階でNorge Mining社は2つのゾーンで掘削を行い、鉱床が4,500メートル以上まで広がっていることを発見した。
ただし、現在利用可能な技術では4,500メートルの深さまで掘削することはできないため、Norge Miningはその3分の1、すなわち1,500メートル近い深さの鉱床のみを評価することにした。
これらの数字に基づき、同社は現在、この地域に700億トンのリン鉱石が埋蔵されていると推定している。
採掘への斬新なアプローチ
しかし、この鉱物を採掘する上での課題は、技術ではなく地域の政策にある。リン鉱石の採掘は炭素を大量に消費するプロセスであり、ヨーロッパでは鉱石採掘がもたらす汚染を理由にその処理から遠ざかっている。
これは、リン精製産業が現在、中国、ベトナム、カザフスタンなど、規範がそれほど厳しくない国に立地している理由のひとつでもある。このように、リンは輸送の電化や太陽エネルギーの電力への変換を促進するのに役立つかもしれないが、その生産は環境に優しいものではない。
そのためNorge Miningは、このプロセスからの排出を削減するために、炭素の回収と貯蔵のような技術を検討している。今回の発見は、ヨーロッパにとって、いかに奇抜に聞こえるかもしれないが、採掘において最高の環境基準を達成できることを実証する好機である。
更にこの鉱床にはバナジウムとチタンも含まれており、それぞれクリーンエネルギーと航空宇宙産業への応用が期待されている。
今回の報告を受けて、ノルウェー政府とEU政府には、これから先、EUや世界にとってバッテリーやソーラーパネルを作るための鉱物の調達に役立つ許可を出すことが求められている。
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