アールト大学の研究者は、既存の技術より約100万倍速く動作する「光キラリティー論理ゲート」を開発した事を発表した。これは、次世代コンピューティングにおける超高速処理の実現に繋がる可能性を示す重要な研究である。
- 論文
- Science Advances : Chirality logic gates
- 参考文献
我々が普段利用しているPCやスマートフォンに搭載されているプロセッサは、論理ゲートによって構成されている。これが、コンピューターのデジタルな計算である「0」と「1」という2つの値を表すが、最新のプロセッサでは、この論理ゲートを数十億個組み合わせることで膨大な計算を行っている。
AIデータセットの評価やアルゴリズムの推論ソーシングなど、次世代のデータ処理ニーズに対応するためには、コンピューティングの論理ゲートはこれからも常に速度の向上が求められる。
従来のコンピューターに搭載されているプロセッサは、これを電子をシャッフルして動作させる電子式で動作していたが、電子による制御は早晩限界を迎えると見られており、科学者たちは、次世代コンピューティングのデータ処理・転送の要求を満たすために、光子を用いた光ロジックゲートの開発を進めてきた。アールト大学の研究者らは、これを新しいアプローチにより小型する事に成功したという。
光コンピュータは以前にも作られたことがあるが、複雑なハードウェアを必要とし、特定の用途に限定されるものだった。Zhang教授によると、この新しいゲートは、既存の製造技術を使って厚さわずか0.65ナノメートルの二硫化モリブデン結晶の単層から作ることができ、小さなパッケージで普遍的なタスクを実行するように設計することが可能だという。
また、光子は抵抗なく動くため、より少ないエネルギーで同じ作業を行うことができる。
同チームがこの極めて高速な処理を実現したアプローチでは「キラリティー」が重要になってくる。キラリティーとは、「掌性」とも呼ばれ、私たちの右手と左手のような、ふたつの鏡像型をもつ分子や物体の性質を指す。光ビームは、それが螺旋状の波面になるとき、左回りまたは右回りの極性が生じ、キラルな状態となるが、今回の研究ではこの特性が利用されたのだ。実験では円偏光ビームに感応する結晶材料を介して、円偏光ビームの回転方向を制御している。
光ビームの回転方向は、通過する結晶の形状によって決まり、時計回りか反時計回りのどちらかに曲げられる。光キラリティー論理ゲートでは、光ビームの時計回り、反時計回りの方向によって論理関数が決定される。その後、光学フィルターなどを用いて、これらのゲートを構築することで、従来のゲートを再現することができる。
研究チームは、XNOR、NOR、AND、XOR、OR、NANDと呼ばれる従来の論理ゲートを再現した光ゲートが動作することを実証し、これらすべてがデータに対して異なる演算を実行することを明らかにした。また、これらの演算は直列ではなく並列に行うことが可能であることを示し、計算の効率と速度を大幅に向上させる道を開く可能性があることを示した。
この多機能論理ゲートは、電子論理ゲートをさらに進化させ、現在よりも高度で複雑な多機能論理回路を実現することが可能である。
Zhang教授は、「将来的には、全光学式コンピュータが実現することを願っています。最大の利点は、光チップが従来のチップに比べて超高速であることです。また、電子デバイスが抵抗によりエネルギーを消費するのに対し、光は並列処理の能力があり、エネルギー消費量も少ないのです。」と語る。
Zhang氏は、既に量子コンピューティング研究の共通分野の1つは、すでに光子を用いてデータを伝送している事もあり、今後の研究で、光論理ゲートが、古典と量子のハイブリッドコンピューターか、光量子論理ゲートを作るためにどのように使われ得るかを調査するとしている。
研究の要旨
データ転送や処理の高速化・効率化への要求がますます高まる中、光コンピューティング戦略は次世代コンピューティングの研究の最前線に位置づけられている。本発表では、キラリティーの自由度を利用したユニバーサル・コンピューティング・アプローチを報告する。結晶対称性を利用したよく知られたキラル選択則を利用して、バルクシリカ結晶と原子レベルの薄さの半導体でこのコンセプトが実現できることを示し、超高速(100fs以下)全光キラリティー論理ゲート(XNOR, NOR, AND, XOR, OR, NAND)および半加算器を作製した。また、1つのデバイスで複数のゲートを同時動作させ、電気的に制御することを実現し、キラリティーゲートのユニークな利点を検証している。キラル選択則を用いた論理ゲートの最初のデモは、光キラリティーが将来の光コンピューティングに強力な自由度を提供する可能性を示唆している。
コメントを残す