これまで何度も噂が流れては登場しなかった「フラットデザイン」のApple Watchは、まったく新しいラインの「Apple Watch Ultra」として登場した。過酷な環境での利用を想定して作り上げられたApple Watch Ultraは、しかしもちろん探検家やダイバーのためだけのものではない。これまでのモデルよりも優れたバッテリー持続時間、正確なルート追跡とペース計算を可能にする2周波GPSなども搭載し、ランナーに向けても魅力的なモデルだ。そして、何よりも新しくなったフラットデザインと、チタン合金ボディの素材感と耐久性は、エクストリームスポーツと全く無縁な筆者だが、総じて満足度は高かった。ただ、価格が高いこと、サイズが大きいことは小柄な、特に女性には持て余すこともあり、オススメ出来ないポイントかも知れない。
オススメポイント
- 真新しいフラットディズプレイデザイン
- サファイアガラスで傷が付きにくいディスプレイ
- 大きく明るいディスプレイの視認性の良さ
- Apple Watchで最高のバッテリー持続時間
- 既存の45mmサイズバンドも流用可能
残念だったポイント
- 価格(特に円安の影響大)
- カラーバリエーションがない
- 巨大なサイズ
Apple Watch Ultra レビュー:デザイン
まず開封して驚くのは、そのサイズだ。明らかに大きく存在感のある外観は、新しいフラットデザインと相まって、どこか「iPhone 14 mini mini mini」のように見えなくもない。
また、画面が大きいだけでなく、重い。Apple Watch Ultra の重量はなんと 61.3グラムもあり、 Apple Watch Series 8 ステンレス スチール 45mm シリーズ(51.5グラム)よりもおよそ10グラム、アルミニウムモデル(38.8グラム)より20グラムほど重くなっている。ちなみに、Samsung の Galaxy Watch 5 Pro(46.5グラム)よりも約15グラム、Pixel Watch(36グラム)より25グラム重い。最重量級のスマートウォッチだ。
とはいえ、この重量はボディがチタン素材で構成されていることから、見た目よりは重く感じないだろう。(チタンの比重が4.5程度。ステンレス鋼は7.9)
また、ディスプレイもサファイアガラスが用いられており、傷が付きにくく、ボディ素材のチタン合金の剛性とあいまって、裸での運用も全く問題なさそうだ。美しいボディそのままで気兼ねなく使えるのは、このApple Watch Ultraの大きな魅力かも知れない。
ただし、睡眠時にも装着しておくには少し重く、ごつすぎるのも事実だ。筆者は結局の所、メインをApple Watch Ultraにし、睡眠時はサブの古いApple Watch Series 7を使う事に落ち着いている。
デザインの大きな変化はフラットディズプレイに留まらない。まず、オレンジ色の大きなボタンが増えている事に気付くことだろう。これはこれまでのサイドボタンとはまた別のものとなり、「アクションボタン」と呼ばれる、新しい機能を備えたものだ。
また、デジタルクラウンの周りがせり出したチタンボディで囲まれており、意図せずクラウンを押してしまわないようになっている。デジタルクラウン自体も従来よりも30%大きくなっており、溝が荒くなっている(手袋をしたままでも使えるように)こともあるため、この改良は理にかなったものだろう。
また、このクラウンが押しにくくなっている事は、意外と普段使いでもメリットになっている。筆者はこれまでのApple Watchシリーズで感じていた不満として、サイクリングでハンドルを握っていて手首をひねった際に誤ってクラウンを押してしまうことが多々あり、結局クラウンを向かって左向きになるように設定し直して使っていたが、そうすると今度はクラウンが回しにくいという問題もあり、これが不便に感じていた。だが、このApple Watch Ultraでは、サイクリング中に手首をひねってもクラウンを誤って押してしまうことがなく、安心して使えるためこれまでの不満が払拭され、大変満足している。
ただ、ボタン配置には不満も残る。今までのApple Watchでは、クラウンと押すときはボディの両端をつまむようにして、クラウンを押すことが多かったが、Apple Watch Ultraで同じような動作をすると、誤ってアクションボタンも押してしまいそうになる。ホームボタンも同様だ。最初は慣れるまで時間がかかるかも知れない。
バンドに関して、今回、筆者は新たに追加された「アルパインループ」を選択した。実際に試着してみた結果、これが1番しっくりきたからだが、当初の懸念として、ポリエステル製のベルトで、伸縮性もなく、皮膚との摩擦による不快感を想定していたが、1日通してはめていても全く不快感はなかった。シリコンバンドやブレイデッドソロループ程の快適性はなかったが、耐久性はこちらの方が高そうだ。ただ、着脱は慣れるまでコツが必要だった。
そしてこのアルパインループの特徴だが、不思議なことに肌に接触する面に縫い目が全くないのだ。表はチタン製のフックを引っかけるために、波状になったバンドが、本体のバンドに縫い付けられているようだが、反対側に縫い目がない。そのため、縫い目が肌にこすれて不快になることがないような配慮がされている。こういった面もApple製品は仕事が細かいなと感じさせられる所だ。
- デザイン評価:4.5/5
- 特徴評価:4.5/5
Apple Watch Ultra レビュー:機能面
大きく機能的に変わった部分と言えば、前述した「アクションボタン」の追加だろう。
このアクションボタンは、あらかじめ機能を登録しておくことで、ボタンを押すだけでその機能を呼び出すことが出来ると言う代物だ。機能は主にスポーツに関するものだが、例えばアクションボタンを押すだけで、すぐにワークアウトを開始することが出来るように設定出来るのだ。
加えて、アクションボタンでアクティビティを開始する際は、時計がGPS信号を検出した上で開始する事が出来る「即時開始」に対応している。これまでのApple Watchでは、ランニングなどにおいて、特に開始位置が正確に記録されていなかったと言う事が多く見られたが、そこはUltra、よりプロ向けと言うことで、極力誤差を少なくし、より正確な競技の計測が可能となっている。新たに、2つのGPSに対応したと言うことで、位置検出の精度自体も上がっており、マラソンの競技者などにとっても有り難い機能だろう。
アクションボタンはそれ以外にも、ショートカットを対応させて、ワンタッチで特定のルーティンを起動させることが出来たり、懐中電灯機能や、Apple Watch Ultraから搭載された、非常サイレンをアクションボタンから起動させることが出来る様にもなっている。特にサイレン機能は、夜間ランニングをしている女性などは安心にも繋がる機能かも知れない。
もう一つ大きな機能としては、画面が大きくなったことにより、新たなApple Watch Ultra専用文字盤の「ウェイファインダー」が利用できるようになった事が挙げられる。情報量が多いのもメリットだが、単純にこの文字盤がカッコイイのだ。歴代のApple Watchの文字盤で、個人的にはダントツで気に入ったのはこの「ウェイファインダー」だった。
機能的にも優れた文字盤で、最大8つのコンプリケーションを設定できるスペースと目盛り盤に埋め込まれたコンパスを備えており、冒険家にも最適だろう。
また、この文字盤はデジタルクラウンを回すことで、夜間モードに切り替えることが可能になっており、赤くなった文字盤は夜間でも読み取りやすいような配慮がなされている。夜のジャングルなどでも安心して利用できそうだ。(筆者は恐らく一生行く事がないだろうが)
ただし、Apple Watch Ultraは、ガラス面はかなり大きいのだが実際にディスプレイを比べてみると、「49mm」という数字ほどには、表示領域が大きくないことが分かる。特に、従来モデルの45mmとでは、並べて見ると表示されるものの大きさには、そこまで劇的な変化がないのだ。これは、Apple Watch Ultraのベゼルがかなり大きいのも原因となっている。
また、新たにApple Watch Ultra専用に「水深」 という新しいダイブ アプリもあるが、これはテストする機会がなかった。このApple Watch Ultraでは、標準の Apple Watchを使用した場合の 2倍の深さ(40m)まで潜ることができるようになっている。Apple は Huish Outdoors と協力して、Apple Watch Ultra を手首に装着できるダイビング コンピューターに変えようとしているようだ。
バッテリーもちは、やはりかなり良い。朝の5時に装着し、夜の7時過ぎまで1日装着していたが、バッテリーの残量は77%だった。途中30分ほどランニングをしたり、半日外出し、屋外で表示する機会が多かったため、ディスプレイ輝度も恐らく最大輝度で表示する機会も多く、通常よりもバッテリーの消費は多かったと思うが、それでもこのバッテリー残量ということで、公称36時間は伊達じゃなさそうだ。
また、watchOS 9.1で導入された新たな機能に、「ワークアウト中に自動で低電力モードにする」という機能のおかげで、そこまで精密な計測が必要でない日常的なエクササイズの記録ならば、バッテリー消費をおさえつつ利用することも可能になっている。
- 機能評価:4.5/5
- 特徴評価:4.5/5
Apple Watch Ultra レビューまとめ
耐久性に優れた美しいボディ、新たなアクションボタン、そしてより優れたバッテリー持続時間のおかげで、Apple Watch Ultraは、本格的なトレーニングを行う人にとって史上最高のApple Watchになったと言えるだろう。登場以来一貫してあまり大きくデザインの変わらなかったApple Watchに初めて大きなデザイン変更が行われたモデルでもあり、マンネリを打破することに一役買っている事と思う。ただ、GarminやPolarなどの本格スポーツウォッチに比べると、まだいくつかの機能が欠けており、バッテリー持続時間についても1週間充電なしで使えるスマートウォッチなどに比べると、「Apple Watchにしては」もつようになったレベルだ。
ゴツい見た目なども、正直ジムのエクササイズで使うには少し邪魔になるかも知れない。機能的には、Apple Watch Series 8でも十分だろう。では、Apple Watch Ultraを買う意味はどこにあるのだろうか?
実際にウルトラマラソンなどを走るにはまだまだ心許ないようだが、この優れたボディの耐久性は、激しいトライアスロンや、泥・砂まみれになるレースなどで付けていても、それらを全く寄せ付けない強さを兼ね備えている。実際、砂まみれのレースでもほとんど傷付かなかったようだ。普段使いで傷が付くこともまずないだろう。ケースを付けて大事に使うApple Watchではなく、その本来の美しさを裸のままで安心して使いたいなら、このApple Watch Ultraはかなりオススメだ。
また、意外なことに、Apple Watch UltraのApple Care+加入料金は、12,800円(記事執筆時点)と、Apple Watch Series 8(10,700円)にくらべてそこまで高くない。そして、もし壊れた場合に新品同等品に交換できるエクスプレス交換サービスも10,700円と割と良心的だ。そう考えると、かなり長く使える高品質なApple Watchとして、1つの選択肢になるのではないかなと、個人的には考える。
だが、そのためだけに果たしてiPhone 14が買えるような金額を出せるかどうかと言うと、難しいところだろう。ただ、筆者は実際に持ってみて、この圧倒的に高品質な作りにはやはり満足感を覚えた。そうなるともはや自己満足の世界だが、実際の所その要素はかなり大きい。と言うか、筆者も当初は「こんなの必要ないだろう」と思っており、実際にその機能の多くを使いこなせていないが、別にいいのだ。「持ってる」という自己満足が、自己肯定感を高めるのに一役買ってくれていると、一人満足しながら、海にも潜らず、山にも登らずに街中で使っている。
今なら、他のApple Watchとは全く違うデザインで、人目を惹くこともあり、“ドヤれる”Apple Watchとしてもオススメ出来そうだ。
裸で使える頑丈さが魅力だが、それでもやはり綺麗な外観を保ちたいならカバーは必須だ。
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