金融市場の日々の変動から脳内のニューロンの複雑な網の目まで、複雑さは私たちの身の回りに溢れている。
このようなシステムのさまざまな構成要素がどのように相互作用しているのかを理解することは、その挙動を予測しようとする科学者にとって基本的な課題である。これらの相互作用をつなぎ合わせることは、複雑な手がかりから暗号を解読するようなものである。
ノイズの多い無線チャンネルを研究するエンジニアから、相互作用するニューロンのネットワークにおける発火パターンを研究する神経科学者に至るまで、科学者たちはこのために何百種類もの方法を開発してきた。各手法は、複雑なシステム内の相互作用のユニークな側面を捉えている。しかし、目の前にある特定のシステムに対して、どの方法が正しいかをどうやって知ることができるのだろうか?
『Nature Computational Science』誌に掲載された新しい研究では、複雑系における相互作用パターンを測定するための何百種類もの方法を統一的に検討し、どの方法が与えられた系の理解に最も有用かを見つけ出す方法を開発した。
科学的オーケストラ
複雑系の科学は複雑である。複雑系を研究するさまざまな方法を比較し、組み合わせる科学は、さらに複雑である。
しかし、我々が行ってきたことを考える一つの方法は、それぞれの科学的手法が、科学オーケストラで演奏される異なる楽器であると想像することである。異なる楽器が、異なる音色で、異なるスタイルで、異なるメロディーを奏でている。
私たちは、どの科学機器がどのタイプの問題解決に最も適しているかを理解したかった。また、すべての機器を調和した全体となるように導けるかどうかも知りたかった。
これらの方法を初めてフルオーケストラとして発表することで、私たちを取り巻く世界のパターンを読み解く新しい方法を見出したいと考えた。
数百のメソッド、1,000以上のデータセット
オーケストラを開発するために、私たちは手に入る限りのデータセットから、相互作用を計算するための200以上のメソッドを分析するという途方もない作業を行った。これらのデータセットは、株式市場や気候から、脳の活動や地震、川の流れや心臓の鼓動に至るまで、実に幅広いテーマをカバーしている。
合計で1,000以上のデータセットに237の手法を適用した。このような多様な科学システムに適用したときに、これらの手法がどのように振る舞うかを分析することで、私たちは初めて「調和を奏でる」方法を発見したのである。
オーケストラの楽器が通常、弦楽器、金管楽器、木管楽器、打楽器として編成されているのと同じように、工学、統計学、生物物理学といった分野の科学的手法にも、伝統的なグループ分けがある。
しかし、私たちが科学オーケストラを組織してみると、科学機器はこの伝統的な組織とは驚くほど異なる方法でグループ化されていることがわかった。まったく異なる方法が、驚くほど似たような形で互いに作用しているのだ。
これは、チューバ奏者のメロディーがフルートのそれと驚くほど似ていることを発見したようなものだが、それまで誰もそれに気づかなかった。
私たちの奇妙で素晴らしい新しいオーケストラ・レイアウト(ピッコロ奏者の隣にチェロ奏者とトランペット奏者を配置することもある)は、科学全体からメソッドをグループ化する、より “自然な”方法を表している。これは、分野横断的な研究のためのエキサイティングな新しい道を開くものである。
現実世界でのオーケストラ
私たちはまた、フル編成の科学的オーケストラを実世界の問題に適用し、その効果を確かめた。そのひとつは、スマートウォッチからのモーションデータを使って、「バドミントンをしている」「走っている」といった活動を分類する問題であり、もうひとつは、脳スキャンデータから異なる活動を区別する問題であった。
適切に編成された科学的手法の完全なアンサンブルは、単独の手法よりもパフォーマンスが向上することを実証した。
別の言い方をすれば、名人芸的なソロが常に最良のアプローチというわけではない!さまざまな科学的手法がアンサンブルとして協調的に働くことで、より良い結果を得ることができるのだ。
この研究で導入された科学的アンサンブルは、我々の複雑な世界を形成する相互作用システムをより深く理解することを可能にする。そしてその意味は、病気における脳のコミュニケーションパターンの解明から、スマートウォッチのセンサーデータの改良された検出アルゴリズムの開発まで、広範囲に及ぶ。
世界についての多様な考え方を同時に取り入れた新しい科学的オーケストラを指揮するために、科学者たちがどのような新しい音楽を奏でるかは、時間が解決してくれるだろう。
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