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サセックス大学とUniversal Quantumの研究者は、量子ビット(qubits)が量子コンピュータのマイクロチップ間での直接転送を、記録的な速度と精度で実現しできることを初めて実証し、チップを組み合わせて、より強力な量子コンピュータを実現するための道筋を切り拓いた。これは、社会にとって極めて重要な複雑な問題に取り組むために十分な大きさと能力を備えた量子コンピュータを構築する上での困難な課題を解決する、極めて画期的で重大な成果だ。

現在最高レベルの量子コンピュータは、100量子ビットレベルのものであるが、スーパーコンピュータでも解決できないような困難な問題を瞬時に解決できるような夢の量子コンピュータの実現には、数百万量子ビットが必要となる。この桁違いのスケールアップを実現するためには、量子チップを組み合わせることが必要不可欠と考えられているが、接続したチップ間での量子情報の転送では、情報の劣化によるエラーが問題となっていた。

『Nature Communications』誌に掲載された「A high-fidelity quantum matter-link between ion-trap microchip modules」と題された論文の中で、研究者らは「UQConnect」と名付けた新しく強力な技術を使って、量子ビットがある量子コンピュータマイクロチップモジュールから別のモジュールへ前例のない速度と精度で移動できることを実証している。これにより、チップを組み合わせて、より強力な量子コンピュータを作ることができるようになったのだ。

サセックス大学とUniversal Quantuのチームは、99.999993%の成功率と2424/sの接続率で量子ビットを転送することに成功した。この数字はいずれも世界記録であり、これまでの解決策よりも桁違いに優れている。また、世界最高速でモジュールを接続しながら、量子ビットが0にも1にも同時になれるなど、量子ビットの「奇妙な」量子性が輸送中に損なわれないことも検証した。

UK Scientists make major breakthrough in developing practical quantum computers
(Credit: University of Sussex)


研究を主導したサセックス大学の量子テクノロジー教授であり、Universal Quantumのチーフサイエンティスト兼共同創業者のWinfried Hensinger教授によると、このブレークスルーは、現在ある最高のコンピュータでは不可能な、現実世界の複雑な問題を解決できるシステムへの道を切り拓くものだという。 「量子コンピュータが成長するにつれ、最終的にはマイクロチップのサイズに制約されるようになり、チップに搭載できる量子ビットの数が制限されるようになります。そのため、量子コンピュータが業界の問題を解決できるほど強力になるには、モジュラーアプローチが重要であることを私たちは知っていました。ジグソーパズルのように2つの量子コンピュータチップを接続することができ、しかもそれが非常にうまく機能することを実証したことで、何百、何千もの量子コンピュータチップを接続してスケールアップする可能性が出てきました。」と、述べている。

オックスフォードシャーのディスコットに新設された国立量子コンピューティングセンターの所長で、サセックスの研究グループとは独立した立場にあるMichael Cuthbert教授はBBCの取材に対して、この開発を「実に重要な実現への一歩」と評した。しかし、実用的なシステムを開発するためには、さらなる研究が必要であると述べている。

「将来必要となるタイプの量子コンピュータを構築するためには、親指の爪ほどの大きさのチップを接続することから始めて、ディナープレートほどの大きさのものを手に入れる必要があります。サセックスの研究グループは、そのステップで安定性と速度を確保できることを示しました。しかし、現実的で有用な計算を実行するためには、このディナープレートを繋いで、サッカー場ほどの大きさのマシンにスケールアップする仕組みが必要で、そのスケールに対応する通信技術はまだ利用できません。」

サセックス大学の実験を担当した博士課程の学生、Sahra Kulmiya氏は、この技術を次のレベルへ引き上げるための挑戦の準備はできているという。

「これはもう、単なる物理学の問題ではありません」と彼女はBBC Newsに語った。

「工学的な問題でもあり、コンピュータサイエンスの問題でもあり、数学的な問題でもあるのです。量子コンピューティングの実現にどれだけ近づいているかを語るのは本当に難しいですが、私は、量子コンピューティングが私たちの日常生活にどのように関係してくるかを楽観的に考えています。」

Universal QuantumのCEO兼共同創業者であり、サセックス大学の量子テクノロジー上級講師であるSebastian Weidt博士は、「私たちのこだわりは、人々が自分の仕事の分野に革命を起こすことができるようなツールを提供することです。Universal Quantumとサセックス大学のチームは、私たちのビジョンを実現するために、ここで本当に信じられないことをやってのけたのです。これらのエキサイティングな結果は、Universal Quantumの量子コンピュータが、量子コンピュータの多くの人生を変えるアプリケーションを開放するのに十分なほど強力になる、驚くべき可能性を示しています。」と、述べている。


論文

参考文献

研究の要旨

大規模な量子コンピュータ(QC)では、システムのスケーラビリティが重要であり、様々なハードウェアプラットフォームで追求されている。トラップされたイオンに基づく量子コンピュータでは、量子電荷結合素子(QCCD)のようなアーキテクチャが、1つのデバイス上の量子ビットの数を拡張するために使用されている。しかし、1つの量子コンピューティングモジュールに搭載できるイオンの数は、使用されるチップのサイズによって制限される。そのため、モジュール方式が極めて重要であり、個々のモジュール間の量子接続が必要だ。ここでは、隣接する量子コンピューティングモジュール間でイオン量子ビットを転送する量子マターリンクのデモンストレーションを紹介する。隣接するモジュール間のイオン輸送は、2424 s−1の速度で実現され、輸送中のイオン損失に伴う不忠実度は7 × 10−8以下である。さらに、このリンクは量子ビットの位相コヒーレンスに大きな影響を与えないことを示す。この量子物質リンクは、QCCDデバイスの相互接続のための実用的なメカニズムを構成している。本研究により、実用規模の耐故障性量子計算が可能なモジュール型量子コンピュータの実装が容易になると期待される。

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