NASAのゴダード宇宙飛行センターでは、市販のAIソフトを使って、ミッション用に「進化した構造」と呼ばれる特注の部品を設計している。この構造は、重量は軽く、高い構造荷重に耐え、人間が設計した部品の開発にかかる時間の何分の一かで開発できるという。
研究技術者のRyan McClelland氏は、「見た目はどこか異質でエイリアンのようですが、実際に機能を見てみると、とても納得がいきます」と語っている。
コンピュータ支援設計の専門家は、ミッションの要件から出発して、部品が機器や宇宙船に接続する面を描く。次にAIソフトウェアが、生命がDNAの突然変異をテストするように、必要な性能目標に照らしてテストする。何百万世代にもわたって、ここに少し金属を追加し、あそこを少し削って、その部品が前世代よりも強いか弱いか、軽いか重いかをチェックするのである。
そして、人間が直接設計することができないような形状を、驚くほど短時間(高性能のクラウド処理にアクセスできれば2〜3時間)で完成させる。その「進化した構造」は、自然の生成物と驚くほど似ていて、ストレスが多いところでは徐々に太くなり、ストレスが少ないところでは徐々に細くなっていく構造を描く。支持構造も不要なところは無駄を省き、負荷の経路に沿うようになる傾向がある。最終的にエイリアンのような、奇妙な骨格と有機的な外観を持ち始めるという。
進化した構造体は、より高い構造荷重に耐え、重量が軽くなり、わずか1週間で製造できるようになった。また、人の手を借りずに済むので、設計者はミッションの他の部分に取り組む時間を増やすことが出来ると言う。
「実際にリスクを低減できることがわかりました。応力解析の結果、アルゴリズムが生成した部品には、人間の設計で発生するような応力集中がないことがわかりました。ストレスファクターは、熟練した人間が作った部品の10倍近く低いのです」とMcClelland氏は説明する。
McClelland氏によると、これらの進化した構造は、標準的な部品と比較して最大で3分の2の重量を削減でき、故障のリスクも低減できるという。
既に、火星サンプルリターンミッションをはじめ、宇宙望遠鏡、宇宙気象観測装置、惑星観測装置、気球観測所など、幅広いプロジェクトで使用されているという。下の画像はその一例で、今年打ち上げ予定の気球搭載望遠鏡EXCITE(EXoplanet Climate Infrared TElescope)の背面のチタン製足場だ。主鏡を支える炭素繊維板と、アルミニウム製の極低温室内に収められた赤外線受信機を繋いでいる。
EXCITEプロジェクトに取り組んでいるゴダード宇宙飛行センターの物理学者であるPeter Nagler氏は、「私たちは、非常に厄介な設計要件を持つ領域をいくつか持っています。私たちの設計者にとって、特定のインターフェースと厳密な荷重仕様の組み合わせが課題となっていました。」と、述べている。「これらの材料は、熱膨張特性が大きく異なります。「どちらの素材にもストレスを与えないような界面が必要だったのです。」
NASAのように、プロジェクトで部品を共有することが少ない組織では、大量かつ安価な製造のための設計よりも、カスタムメイドの軽量化設計から得られるものの方がはるかに多い。そのため、この技術はとても適しているという。
「オートバイや自動車の会社であれば、生産するシャーシの設計は1つだけかもしれません。そして、それを大量に生産することになるでしょう。ここNASAでは、毎年何千もの特注部品を作っています。」と、McClelland氏は述べている。
また、McClelland氏は、このプロセスに積層造形法を導入することを強く望んでいる。そうすれば、プロセスはさらに加速され、この種の特注部品の重量とコストをさらに削減できるかも知れない。また、複雑な可動部品の印刷も可能になる。もちろん、宇宙で部品を印刷するというアイデアもあります。
「これらの技術によって、NASAや商業パートナーは、通常のロケットには搭載できないような大きな部品を軌道上で作ることができるようになるかもしれません。月や火星にある材料を使って、月や火星での建設を容易にすることもできるのです。」
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