脳は、あなたの体の活動のほとんどを制御する役割を担っている。その情報処理能力によって学習することができ、記憶の中心的な保管場所でもある。しかし、記憶はどのように形成され、脳のどこにあるのだろうか?
神経科学者は、脳の中央部にある海馬、脳の最上層にある大脳新皮質、頭蓋骨の底にある小脳など、記憶を保存する脳のさまざまな領域を特定したが、それらの領域の中で記憶と学習に関わる特定の分子構造を特定するには至っていない。
生物物理学者、物理化学者、材料科学者からなる我々のチームは、記憶がニューロンの膜にある可能性を示唆する研究を行っている。
神経細胞は、脳の基本的な作業単位だ。神経細胞は、他の細胞に情報を伝達し、身体を機能させるように設計されている。シナプスと呼ばれる2つの神経細胞の接合部と、シナプス間のシナプス間隙と呼ばれる空間で起こる化学反応が、学習と記憶に関与している。
シナプスは、情報を伝達するシナプス前神経細胞と、情報を受け取るシナプス後神経細胞の2つの膜で構成されている。それぞれの膜は、タンパク質やその他の生体分子を含む脂質二重層で構成されている。
この2つの膜の間で起こる変化は、一般にシナプス可塑性と呼ばれ、学習と記憶の主要なメカニズムとなっている。シナプス可塑性は、膜に含まれるさまざまなタンパク質の量や膜の構造を変化させることで、学習と記憶の主要なメカニズムとなっている。
シナプス可塑性は、ミリ秒から数分程度の短期的なものと、数分から数時間以上の長期的なものとに分類されることがある。短期可塑性ではシナプス前膜とシナプス後膜の間で起こる化学的プロセスが、やがて長期的なシナプス可塑性につながっていく。
脳が情報を処理し保存する主な方法は、シナプスのこのような長期的な変化であると科学者は考えているため、膜の脂質二重層に記憶が保存されている可能性があると考えたのだ。
その結果、単純な脂質二重膜のモデルに電気刺激を与えると、脳の研究で使われる刺激と同じように、長期的な変化を引き起こすことが分かった。この結果のユニークな点は、一般に神経細胞タンパク質が存在しない単純な膜モデルで変化を起こすことができたことにある。さらに、このモデルでは、電気刺激を与えなくとも、長期的な可塑性が約24時間持続した。このことは、神経細胞膜が記憶の保存に関与している可能性を示唆している。
今回の発見は、生物学的記憶の分子基盤を理解するためのモデルとして、脂質二重膜の利用を支持するものである。また、脂質二重膜は、人間の脳の構造と機能を模倣してコンピュータのメモリ部分を構成するニューロモルフィックコンピューティングのプラットフォームとしても機能する可能性がある。
さらに、脂質二重膜は、さまざまな神経疾患の治療ターゲットとなる可能性がある。脳内のどこに、どのように記憶が保存されるかを突き止めることは、学習と記憶の理解に革命をもたらすだけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病などの病気に対する新しい治療法の開発にもつながるだろう。
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