国際純粋・応用物理学連合(International Union of Pure and Applied Physics:以下 IUPAP)は、同連合主催の写真コンテスト「IUPAP 100 Photo Contest」の受賞者を発表した。
“At a glance”部門1位受賞は「Chasing Ghost Particles at the South Pole」牧野 友耶 氏撮影
“At a glance”部門の1位受賞作品は、日本人の牧野 友耶氏による作品「Chasing ghost particles at the South Pole」となった。牧野氏は、厳しい南極の冬の間、アイスキューブ・ニュートリノ観測所で観測を続けてる際の様子だ。同観測所では、毎年2人の越冬隊員が選ばれ、望遠鏡オペレーターとして1年間南極に派遣される。アイスキューブ・ニュートリノ観測所は、そこにある深さ3,000mの氷床を利用した世界最大のニュートリノ望遠鏡である。1立方キロメートル以上の氷の奥深くに、5000個の極めて感度の高い光学センサーが配置され、ニュートリノの微弱な信号を探し求めている。同作品は、そんな観測所と満点の星空とオーロラが映し出されたものだ。一面に続く雪の大地が地球ではないどこか別の惑星と錯覚させられるほど非現実的な光景だ。
第2位の受賞作品は、Arpan Chowdhury氏による作品「Foldscope–A revolutionary microscope」だ。フォールドスコープとは、1枚の紙とレンズという簡単な部品から組み立てることができる光学顕微鏡のことで、医療や実験のリソースや資金が乏しい発展途上国や低開発国において、安価で簡単に科学的な道具を利用できるようにすることを目的とした発明品だ。物理学を身近でわかりやすいものにするために、安価な科学用具の流通を促進する理念「frugal science(質素な科学)」の一翼を担っている。
第3位の受賞作品は、Richard Germain氏による「Surface Tension」だ。表面張力の様子を写し出した作品だが、表面に小さな黒い正方形が描かれたライトボックスの配列で、ピンと水面を照らしている。変形した表面はピンの周囲で凸面鏡として機能し、ライトボックスの格子を縮小した虚像を映し出している。格子のゆがんだ様子が、時空のゆがみを表しているような不思議な作品だ。
“Beyond our eyes”部門の受賞は「Anatomy of a Drying Drop」Paul Lilin氏撮影
“Beyond our eyes”部門の1位受賞作品は、Paul Lilin氏による作品「Anatomy of a Drying Drop」だ。水とナノ粒子を含むミリメートル単位の液滴をガラス表面に付着させ、そのまま乾燥させる。水滴から水が蒸発すると、ナノ粒子が集合して薄い固体状の堆積物ができ、やがて水彩画の顔料のように水滴の領域全体を覆っていく。この写真は、赤のカラーフィルターとカメラを取り付けた顕微鏡で、薄暗い拡散光下で堆積物を下から撮影したものとのことだ。放射状のひび割れが花のような模様をつくっているが、これは古代の絵画に見られる “姥捨て “のようなもので、このひび割れは “姥捨て “を意味する。これは、乾燥中にナノ粒子が移動し、再配列することによって形成されるものである。
第2位の受賞作品は、Guowen Sun氏による「Blooming Life」だ。これは、走査型電子顕微鏡で撮影された水熱法で合成された金属酸化物材料(CoO)である。著者は、この美しい形状に衝撃を受け、すべての科学研究者がこの花のように前向きな姿勢ですべてに立ち向かい、物理の美、物質の美、物事の知を感じて落ち着くことができるように願っている。
第3位の受賞作品は、Isabel Sánchez氏による「Surviving by drops」だ。環境走査型電子顕微鏡(ESEM)を用いて、植物の表面の様子を写し出したものだ。”Moricandia arvensi “という花の湿った柱頭乳頭(ピンクがかった色)に花粉(オレンジ色)がくっつく様子が見て取れる。
この写真コンテストは、プロとアマチュアの写真家、そして科学の学生と研究者を対象として行われた。画像はそれぞれが、物理学の研究・教育、日常生活における物理学の影響、物理学が関与している出来事やプロセスに関連するものであることが参加の条件とのことだ。
科学系の写真コンテストは、我々が普段想像できない光景を見せてくれる。先日も、グリニッジ王立博物館が主催している天文写真コンテストの候補作が出そろったことをお伝えしたが、そちらも素晴らしい候補作の数々が出ているので、是非一度ご覧いただきたい。
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