何度か当サイトでも取り上げた、物理学会で物議を醸している「量子ドライブ」と呼ばれる推進剤を使わない推進システムのテストが失敗したようだ。
この実験を行ったRogue Space Systems社はプレスリリースの中で、SpaceX社のFalcon 9ロケットで軌道に運ばれたBarry 1号キューブサットが、電力システムの継続的な問題に悩まされていたと説明している。
IVO limited社が開発した量子ドライブを使ったテストでは、エンジンが衛星の軌道を変更できるかどうかを実証するはずだった。しかし、軌道上で2ヶ月以上経過した後、何らかの理由でテストは開始されず、2月9日に衛星との通信が途絶えたと伝えられている。
「RogueのBarry 1衛星はLEOP(打ち上げ・初期軌道段階)を通過することができなかった。悲しいことに、我々はドライブのスイッチを入れることすらできなかったのだ!」とIVOの創設者であり社長のRichard Mansell氏はThe Debriefに語った。
とはいえ、もしテストが実際に行われていたとしても、多くの科学者らの予想通り量子ドライブは何も実現しなかった可能性もある。というのも、量子ドライブは「リアクションレス・ドライブ」と呼ばれるタイプのエンジンだからだ。
ニュートン物理学によれば、推進剤を使わない推進は不可能なので、このような装置は機能しない。それにもかかわらず、IVOの量子ドライブは、1ワットの電力で52ミリニュートンの推力を発生させることができると主張している。
推進剤の問題点は、枯渇することだ。また、推進剤は重く、宇宙船の重量の大部分を占めるため、設計上の制約があるだけでなく、打ち上げコストも上昇する。それを必要としないとなれば、それは宇宙旅行において極めて魅力的ではある。
量子ドライブはそのために、量子力学の不気味な性質を利用することで、宇宙船が推進剤を捨てることができると主張していた。だがこれまでのところ、宇宙でのテストはおろか、大規模なテストでも実証されたものはない。そしてもしこれが実現すれば、運動の第2法則に反するため、我々の物理学の理解を根本から改めなければならないものでもあった。
Mansell氏は、今回の挫折にめげることなく、そして物理法則にもめげることなく、IVOは量子ドライブの軌道テストをさらに実施する予定だと語った。
「ドライブの全体的な構成は変わりません。Barry 1号のテストを待つ間、私たちはドライブの改良を続けてきました。これらの改良は、宇宙へ行く次のセットの一部となります」と、Mansell氏は述べている。
さて、多くの期待と懐疑の中、長い待機の後に起動する前にキューブサットが壊れてしまった事は神のイタズラか、予定されたものだったのかは不明だが、我々の知らない世界を垣間見せてくれる何かがまだあるのかも知れないと言う淡い期待を抱かずにはいられないのもまた確かだ。
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