観測史上最大の16億テスラという途方もない磁力を放つ星が発見

masapoco
投稿日 2022年7月16日 5:23
pulsar artist

地球からおよそ2万2千光年離れた天の川の彼方に、人類がこれまで見た中で最も強い磁力を持つ星が発見された。

Swift J0243.6+6124と呼ばれるこのパルサーは、なんと16億テスラもの磁力を持つことが分かった。これは、GRO J1008-571A 0535+262というパルサーの周りで発見された、約10億テスラのこれまでの記録を打ち破り観測史上最強となる

ちなみに、一般的な冷蔵庫のマグネットは約0.001テスラだ。人々が生活の中で触れる機会がありそうな最強の磁石であるMRI装置ですら3テスラ程度なのだ。

これまでに人類が作り出した最強の磁力は、東京大学が100マイクロ秒というわずかな時間しか持続できなかったが、1200テスラの磁力を発生させた記録がある。実験の様子は以下の写真のようだが、それでもいかに壮絶な物か分かるだろう。

16億テスラというのがいかに驚異的な物かご理解頂けるだろう。人類にはいまだ不可能な体積に詰め込まれた巨大な物体が、信じられないような速度で回転し、電子をとんでもない速度に加速するような、そんな状態が必要なのである。

Swift J0243.6+6124と呼ばれる連星系は、中性子星が伴星からガスを吸い上げ、その周りに円盤状の物質が形成されているものだ。この円盤の中のプラズマが磁力線に沿って中性子星の表面に落ち、巨大なX線フレアを発生させるている。星は自転しているので、私たちから見ると、このフレアは脈打つように見える。これらを総合して、X線降着パルサーと呼ばれる特殊な中性子星の姿が浮かび上がってくる。

Swift J0243.6+6124は、以前から注目に値する星と見なされていた。パルサーとして知られていたSwift J0243.6+6124は、我々の銀河系で唯一、超高光度のカテゴリーに入るX線源だったのだ。その明るさは、より強い磁場と相関していると長い間考えられてきたが、これまで超高光度X線降着パルサーの磁場を直接測定したことはなかった。

天文学者は、X線スペクトルを調べることで、これらの天体の磁場を測定することが可能になった。プラズマからの電子は、X線の一部を吸収し、他を散乱させるので、磁場の強さを計算するのに使える手がかりを入手できたのだ。

2017年に中国が打ち上げたX線観測装置Insight-HXMTは、天体物理学者たちに、遠方からの放射でこのようなサインを捉える方法を提供し、2020年のGRO J1008-57フィールドでの電子エネルギーの測定につながる。

幸い、Insight-HXMTの打ち上げ後に発生したSwift J0243.6+6124の爆発的な活動により、X線スペクトルに埋もれたサイクロトロン共鳴散乱の特徴で、自身の高強度磁場の様子も垣間見ることが出来たという。

中国科学院、中山大学、ドイツ・チュービンゲン大学の研究者たちは、この特徴を解析し、電子のエネルギーを計算すると、これまでの記録保持者の90キロ電子ボルト、100キロ電子ボルトを凌駕する146キロ電子ボルトという驚異的な結果を観測したとのことだ。

Swift J0243.6+6124は銀河系で唯一の超高輝度X線パルサーであり、その磁場を正確に測定することは、表面付近で何が起こっているのかを知る上で重要な意味を持つ。

中性子星の一種であるSwift J0243.6+6124のようなパルサーは、原子が地球上で作ることのできないような形状に押し潰されてできている。その磁気特性は、非常にコンパクトな地殻がどのように振る舞うかを説明する様々なモデルを除外したり支持したりするのに役立っている。

特に、この中性子星の磁気の性質は、その磁場が複数の極からなる複雑なものである可能性を裏付けている。

とはいえ、これは、直接測定された最強の磁場かもしれないが、宇宙で最も強い磁場には遠く及ばないだろう。マグネターと呼ばれる中性子星は、100億テスラの磁場を持つと推定されている。



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