宇宙の大部分を構成するダークエネルギーの正体はブラックホールにある可能性が示される

The Conversation
投稿日 2023年2月17日 5:03
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ブラックホールは、宇宙の大部分を構成する謎のエネルギー形態を説明する物になると、天文学者が発表した。「ダークエネルギー」の存在は、星や銀河の観測から推測されてきたが、それが何であるか、どこから来るのか、誰も説明することが出来なかった。

私たちの身近な世界を構成している物質(マター)は、宇宙に存在するすべてのもののわずか5%に過ぎない。さらに27%は暗黒物質で、光を放出したり反射したり吸収したりしない、通常の物質の影のような存在である。しかし、宇宙の大部分(約68%)はダークエネルギーである。

今回、ブラックホールがダークエネルギーの源であることを示す新たな証拠が、『The Astrophysical Journal Letters』誌に発表された。この研究は、ハワイ大学が中心となって9カ国17名の天文学者によって行われたものだ。また、英国ではSTFC RAL Space、The Open University、Imperial College Londonに所属する研究者が共同研究を行った。

90億年にわたる宇宙の歴史の中で、天文学者は「宇宙論的カップリング」の最初の証拠を発見した。

ブラックホールに真空エネルギー(ダークエネルギーの一種)が含まれているかもしれないという考えは、特に新しいものではなく、実際、1960年代にまで遡って理論的に議論されていた。しかし、今回の研究では、このエネルギー(したがってブラックホールの質量)が、宇宙結合の結果、宇宙が膨張するにつれて時間とともに増加すると仮定している。

研究チームは、宇宙のダークエネルギーがこの過程にどれだけ起因しているのかを計算した。その結果、ブラックホールは、現在宇宙で測定されている暗黒エネルギーの総量を説明できる可能性があることが分かった。この結果は、現代の宇宙論における最も基本的な問題の1つを解決する可能性がある

急激な膨張

私たちの宇宙は、約137億年前にビッグバンによって誕生した。この時空の爆発によるエネルギーで、宇宙は急速に膨張し、すべての銀河が互いに飛び交うようになった。しかし、宇宙のあらゆるものに重力が作用するため、この膨張は徐々に緩やかになると予想されている。

1990年代後半にハッブル宇宙望遠鏡が奇妙なことを発見するまで、私たちはこのような宇宙に住んでいると考えていた。遠くで爆発する星を観測したところ、過去の宇宙は実は今よりもゆっくりと膨張していたことが分かったのだ

つまり、宇宙の膨張は、誰もが思っていたように重力によって減速していたのではなく、加速していたのだ。これは非常に意外なことで、天文学者はその説明に苦労した。

そこで、「ダークエネルギー」と呼ばれるものが、重力よりも強く物事を押し広げているのではないかという説が唱えらた。このダークエネルギーは、アインシュタインが提案し、後に破棄された数学的構成要素、すなわち重力に対抗して宇宙が崩壊しないようにする「宇宙定数」に非常によく似ていたのだ。

恒星の爆発

では、ダークエネルギーとは何なのだろうか?その答えは、宇宙のもうひとつの謎である「ブラックホール」にあるようだ。ブラックホールは、大質量の星が爆発し、その寿命が尽きるときに生まれるのが一般的だ。このような激しい爆発では、重力と圧力によって、大量の物質が小さな空間に圧縮される。例えば、太陽と同じくらいの質量の星であれば、数十キロの空間に押し込められることになる。

ブラックホールの引力は非常に強く、光さえも逃がすことができない。ブラックホールの中心には特異点と呼ばれる場所があり、そこでは物質が無限の密度で押し潰されている。しかし、特異点は数学的に存在しないはずのものである。

銀河の中心にあるブラックホールは、星が激しく死ぬときに生まれるブラックホールよりもはるかに巨大である。これらの銀河の「超巨大」ブラックホールは、太陽の質量の数百万倍から数十億倍もの重さがあるのだ。

すべてのブラックホールは、物質を蓄積したり、近づきすぎた星を飲み込んだり、他のブラックホールと合体したりして、大きくなっていく。そのため、宇宙が古くなればなるほど、ブラックホールは大きくなると考えられている。

今回の論文で研究チームは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールを調べ、これらのブラックホールが数十億年の間に質量を増していることを明らかにした。

根本的な見直し

研究チームは、星形成のない楕円銀河の観測結果を、過去と現在で比較した。これらの銀河は燃料を使い果たしているため、この間にブラックホールの質量が増加しても、物質が蓄積されてブラックホールが成長する通常の過程には当てはまらない。

そこで研究チームは、これらのブラックホールには実は真空のエネルギーがあり、宇宙の膨張と「結合」して、宇宙の膨張に伴って質量が増加することを提案した。

このモデルは、宇宙のダークエネルギーの起源となる可能性をきちんと示している。また、ブラックホールを研究する際に問題となる数学的な問題も、中心部に特異点が存在する必要がないため回避することが出来る。

研究チームはまた、宇宙のダークエネルギーが、この結合の過程にどれだけ起因しているかを計算した。その結果、現在宇宙で測定されているダークエネルギーすべてを説明するのに必要な量の真空エネルギーを、ブラックホールが提供することは可能であることが分かったのだ。

これは、宇宙のダークエネルギーの起源を説明するだけでなく、ブラックホールとその宇宙での役割についての理解を根本的に見直すきっかけになると思われる。

このアイデアを検証し、確認するためには、空の観測と理論の両面から、さらに多くの作業を行う必要がある。しかし、私たちはついに、ダークエネルギーの問題を解決する新しい方法を目にすることが出来るかも知れない。


本記事は、Chris Pearson氏と、Dave Clements氏によって執筆されThe Conversationに掲載された記事「Black holes may be the source of mysterious dark energy that makes up most of the universe」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。



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