ヴァージニア大学の研究者らは、バットマンの悪役ミスター・フリーズにヒントを得た冷却光線(Freeze Ray)装置の実現化への道筋を見付けた事を報告している。だがこの装置は悪役のための武器というよりは、宇宙船や高高度ジェット機内の電子機器を冷却を目的として開発されているようだ。
プラズマを利用した冷却光線
今回、ヴァージニア大学機械・航空宇宙工学のPatrick Hopkins教授が発見した冷却ソリューションは、プラズマを利用したものだ。教授は、これを用いて宇宙船や高高度ジェット機内の電子機器のオンデマンド表面冷却を実現したいと考えている。
「宇船内の多くの電子機器は熱を持つが、冷却する手段がありません。それが1番の問題です」と、Hopkins教授は述べている。
Hopkins教授は、「空軍や宇宙軍では、真空である宇宙空間や、冷却できる空気がほとんどない大気圏上層部にいます。だから、電子機器はどんどん熱くなる。冷却剤の積載量を増やすと重量が増え、効率が落ちるからです」と、宇宙空間や高高度の航空機に於ける冷却装置の問題点を指摘する。
Hopkin氏は彼らの考案した冷凍光線が冷却装置の軽量化に繋がると考えている。
米空軍は冷却光線の可能性を高く評価しており、同教授のExSiTEラボ(Experiments and Simulations in Thermal Engineering)に、この技術を最大限に活用するための研究費として3年間で75万ドルを提供している。
研究室は今後、Hopkins氏のUVAスピンアウト企業であるLaser Thermalと提携し、プロトタイプ装置を製作する予定だ。
物質の第4の状態:プラズマの可能性
我々の身の回りに存在する物質は、固体、液体、気体という3つの状態で存在している。しかし、物質には、プラズマという第4の状態があり、これは意外にも宇宙で最も一般的な物質の形態でもある。なぜなら、宇宙で輝く多くの恒星はプラズマでできているからだ。
だが、もちろん地上でもプラズマを見ることが出来る。例えば落雷やネオンサイン、かつてPioneerから発売されたプラズマテレビなどで見たことがあるだろう。テクノロジーへの応用も進んでおり、空軍の高速ジェット機のエンジンもプラズマの応用が使われている。プラズマは燃焼を助け、スピードと効率を向上させるのだ。
そして今回、Hopkins教授は宇宙船の内部でプラズマを利用する事を計画している。
航空電子機器や宇宙電子機器の典型的なソリューションは、電子機器から放熱器に向かって熱を伝導させる「コールドプレート」である。しかし、高度な電子機器の場合、それだけでは必ずしも十分ではない。
Hopkins教授は、温度変化に応じて動き回るロボットアームのようなもので、ホットスポットを破壊する短い電極を近づけるような改良が必要ではないかと考えている。
「このプラズマジェットはレーザービームのようなもので、極めて局所的な稲妻のようなものです」と、Hopkins教授は語る。
プラズマのパラドックス
プラズマは太陽の表面と同じくらい高温に達することができるが、プラズマには熱力学第二法則に反するような奇妙な性質がある。プラズマが物質の表面に衝突すると、加熱する前に冷却するのだ。
Hopkins教授と彼の共同研究者である米海軍研究所のScott Walton氏は数年前、パンデミックが発生する直前にこの思いがけない発見をした。
「私が専門としているのは、本当に、本当に速く、本当に、本当に小さな温度を測定することです」と、Hopkins氏は、特殊な熱記録を記録できる特注の顕微鏡装置について語った。
実験では、セラミックに包まれた中空の針を通して、ヘリウムから生成されたプラズマの紫色のジェットを発射した。ターゲットは金メッキの表面である。研究者たちが金を選んだのは、金が不活性であることと、集束ビームによる表面のエッチングをできるだけ避けたかったからである。
「プラズマのスイッチを入れると、プラズマが当たった場所の温度を即座に測定でき、表面がどのように変化するかを見ることができました。そして、最初は表面が冷え、その後温度が上昇するのがわかりました」と、Hopkins教授は説明する。
「なぜこのようなことが起こるのか、何度も何度も繰り返し起こったので、私たちはあるレベルで困惑していました。というのも、私たちのような精度で温度変化を測定できた先行文献がなかったからです。これほど早く測定できた例はないのです」。
不思議な冷却のメカニズム
どうしてこのような冷却現象が起きるのか?当時UVAの博士研究員であったJohn Tomko氏と協力し、海軍の研究所でテストを続けた結果、最終的に彼らが突き止めたのは、表面の冷却は、炭素と水分子からなる、極薄で見えにくい表面層を爆破した結果であるに違いないということだった。
同じようなプロセスは、泳いだ後に冷たい水が皮膚から蒸発するときに起こる。水分子の蒸発が熱エネルギーを奪うのだ。
Hopkins氏の顕微鏡は、”時間分解光熱測定”と呼ばれるプロセスで動作し、”サーモフレクタンス “と呼ばれるものを測定する。
基本的に、表面物質が高温のとき、低温のときとは異なる方法で光を反射する。特殊なスコープが必要なのは、そうしないとプラズマが直接触れる温度計を消してしまうからだ。
高精度な測定の結果、プラズマパルスに冷却は、数マイクロ秒の間、数度温度を下げることが可能なことが判明した。これは映画のミスター・フリーズのように一瞬で対象物を凍結させてしまうような劇的な変化をもたらすものではないかもしれないが、電子機器の冷却と考えれば十分な性能だ。
だが彼らは、より冷たく、長持ちする反応をもたらすために研究を続けている。
冷却光線の改良
以前は、海軍から借りた装置(非常に軽量で安全なため、学校のデモンストレーションによく使われていた)を使っていたが、空軍の助成金のおかげで、Hopkins氏の研究室は独自のセットアップができるようになった。
研究チームは、オリジナルの設計にどのようなバリエーションがあれば装置を改良できるかを研究している。また、プラズマがターゲットとするガス、金属、表面コーティングについて検討している。
「私たちはまだヘリウムを使って研究しているので、異なる気体の使用についてはまだ本格的に研究していません。これまで、金や銅などの金属や半導体を使った実験を行ってきましたが、それぞれの材料は、プラズマがその異なる性質とどのように相互作用するかを研究する上で、独自の遊び場を提供してくれます」と、博士課程在籍のDaniel Hirt氏は説明する。
彼らは、加えてよりコンパクトで軽量のプロトタイプを作成することを目指している。
論文
参考文献
- University of Virginia: Way Cool: UVA Professor Developing ‘Freeze Ray’ Technology for the Air Force
- via NewAtlas: Plasma pulses promise real-life ‘freeze ray’
研究の要旨
界面や境界における電荷、熱、電磁場の基本的なキャリア間の結合相互作用は、幅広い技術を可能にするエネルギッシュなプロセスを生み出す。これらの結合キャリア間のエネルギー伝達は、しばしば熱境界抵抗によって定量化される、これらの表面における熱放散をもたらし、その結果、コンピューティング、通信、ヘルスケア、クリーンエネルギー、電力リサイクル、センシング、製造などにおいて変革的な利益を提供し続けている現代のナノテクノロジーの機能性を牽引している。本総説の目的は、超高速かつナノスケールのエネルギー伝導と、界面近傍または界面を介した異なる熱キャリアの結合による熱伝達メカニズムについて報告された最近の研究を要約することである。電子、振動子、光子、ポラリトン(プラズモンポラリトンとフォノンポラリトン)、分子の様々な組み合わせによるエネルギーと運動量の結合によって、結果として生じる界面熱伝達と温度勾配を駆動する、固体、液体、気体、プラズマの界面における結合熱伝達メカニズムについて概説する。このようなエネルギーキャリアを結合させた界面熱輸送過程は比較的最近の研究であるため、このような新しい分野をさらに発展させる機会がいくつか存在する。
コメントを残す