中国政府は、米国による技術的制裁(特に半導体関連)の影響を軽減すべく、国内のハイテク大手であるAlibabaとTencentにオープンソースの命令セットアーキテクチャ (ISA)「RISC-V」に基づくチップの設計を依頼していると伝えられている。
英国・Financial Timesの報道によると、中国政府が同国の技術大手2社を開発に「参加させた」とのことだ。とはいえ、中国のRISC-Vに対する積極的な動きは今に始まったことではない。
2018年には、中国国内に中国开放指令生态(RISC-V)联盟と中国RISC-V产业联盟の2つのアライアンスが立ち上がっている。これらは、中国政府工信部が中心になっており、中国の大学や研究所などが理事を、そしてさまざまな企業がメンバーになっており、RISC-Vの命令セットをさらにリッチにするためのアライアンスおり、同国のRISC-Vに対する意気込みが感じられる。
中国は政府、企業ともに、RISC-Vに力を入れている。RISC-VのISAを管理・拡張するRISC-V Internationalでは、プレミアメンバーの57%が中国系企業や研究所からの参加となっているのだ。
なぜ、中国政府がRISC-Vアーキテクチャでの開発を促進するのか?そもそも、現在ほとんどのPCに用いられているIntelやAMDの製造するCPUはx86という命令セットアーキテクチャを採用し、iPhone、Androidスマートフォン向けCPUはArmアーキテクチャを採用しているが、このどちらもが多くの特許に守られており、これを用いたCPUの開発には、多額のライセンス料となっている。それに引き換え、オープンソースであるRISC-Vを用いれば、そういったライセンス料金を支払う必要もなく参加する事が出来る。こういった背景があるのだろう。
Financial Times紙によると、AlibabaとTencentは、中国政府が設立した企業や研究機関の新しいコンソーシアムの一員であり、オープンソースの RISC-V 命令セットアーキテクチャ (ISA) をベースにしたチップの新しい知的財産を生み出すことを目指しているとのことだ。つまり、中国は将来のチップの基礎となるコア設計やその他のシリコンビルディングブロックを作り上げようとしている。
中国政府は、RISC-Vを、独自開発のArm ISAよりも安全な代替品と見なしており、Arm ISAが将来的に米国の制裁対象となることを懸念している。AlibabaとTencentはすでに独自のArmベースのチップを発売しているが、両社も中国におけるArmの将来について危惧する声があるらしい。
Alibabaは2018年に、RISC-Vのチップを開発するグループ企業T-HEADを5000万元(10億円)の資本金で立ち上げている。T-HEADは、組み込みマイコンのXuanTieシリーズを2020年から出荷している。
同紙は、AlibabaとTikTokを所有する中国のByteDanceが、AIやデータセンター向けのRISC-Vチップを開発する計画をすでに進めていると報じている。これは、これまでのAlibabaにおけるRISC-V計画の、ほとんどがエッジおよびIoTデバイスに限定されていたものを考えると、大きな飛躍と言える。
T-HEADのあるシニアエンジニアは、同社の目標は「最も先進的な製品で“Armチップ”を置き換えることだ」と同紙に語っている。Financial Times紙はまた、Tencentのエンジニアの言葉を引用し、Armを「今はリスクが高すぎる」とした。
中国のある関係者は、コンソーシアムのRISC-Vの取り組みが「正しい軌道」に乗っていると評価する一方で、ISAの断片化の問題がArmの設計を置き換える取り組みを遅らせていると付け加えている。
中国が北京オープンソースチップ研究所を設立したのは、米国が主導する制裁から逃れるためにRISC-Vを採用した同国の最新のステップである。中国は、地政学的な懸念から2020年に本部を米国からスイスに移転したISAの統括団体RISC-V Internationalを通じて、過去数年にわたってRISC-Vの開発に大きく関与してきている。
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