レーザーによるポジトロニウムの冷却にCERN、東大らが成功、世界の成り立ちを紐解く事に繋がる重要な成果

masapoco
投稿日 2024年2月28日 18:29
202402 029 02

世界中の多くの研究者らが参加した欧州原子核研究機構(CERN)のAEgIS実験の成果として、物質と反物質から等しく構成されるエキゾチック原子であるポジトロニウムのレーザー冷却の実証に成功し、画期的な進歩を遂げた事が報告されている。これは、物質と反物質の理解を深めるための大きな一歩となる偉大な成果だ。

私たちや私たちを取り巻く世界は物質でできている。反物質もまた、宇宙が誕生したときに同量作られたが、現在では宇宙でごく少量しか見つかっていない。

科学者たちは、なぜ反物質が現在の状態にあるのか、そして物質も同じような運命をたどるのかを理解しようとしている。これはまた、宇宙の起源をたどるのにも役立つだろう。

ポジトロニウムは、電子とその反物質である陽電子からなるユニークな原子で、ハドロン核が存在しないため、量子状態と遷移の極めて精密な数値計算が可能であり、科学的研究にとって理想的な系である。しかし、陽電子は非常に希少であり、見つけるのは難しい。そこで研究者たちは、陽電子を閉じ込める方法を探してきた。

ポジトロニウムは、通常数百ナノ秒という短時間で互いに消滅し合うという過渡的な性質を持ち、またその速度も速いため、その性質を実験的に研究しようとする科学者にとっては、伝統的に手ごわい挑戦となってきた。

ポジトロニウムの重要性とは?

水素は、物質の領域で知られている最も単純な原子構造である。陽子と、その周りを公転する電子からなる。反物質では、ポジトロニウムが最も単純な原子構造である。軌道上に電子がある一方で、同じ軌道を占める正電荷を帯びた粒子、陽電子もある。

AEgISの研究チームは、水素の反物質である反水素と、その出発物質であるポジトロニウムの生成に取り組んでいる。反陽子の雲にポジトロニウムをビーム照射することで、チームはポジトロニウムが陽電子を反陽子に譲り、反水素を形成すると確信している。

CERNの反物質工場の研究者たちは、陽電子と反陽子の両方を作ることができる。しかし、陽電子の寿命は非常に短い。秒の1420億分の1でガンマ線に自壊する。陽電子を研究するのに十分な時間を確保するため、科学者たちは陽電子を高熱状態から冷却して閉じ込めようとしている。

ポジトロニウムの冷却

AEgIS共同研究による最近のブレークスルーは、広帯域レーザー冷却を採用することでこれらの課題を克服した。この技術は、特別に調整されたレーザー光から陽電子原子への運動量移動を伴うもので、レーザーの方向にある陽電子アンサンブル全体の冷却を可能にする。このアプローチは、より選択的な狭帯域ドップラー冷却法とは異なり、この分野における重要な革新である。

陽電子のレーザー冷却に成功したことで、AEgIS実験の反水素形成に向けた取り組みが大幅に強化されるだけでなく、量子電磁力学の精密実験や陽電子を用いた等価原理の検証など、まったく新しい道が開かれる。さらに、陽電子ビームの形成やボーズ-アインシュタイン凝縮の探索が可能になり、慣性実験や巨視的量子物体の研究の幅が広がる。

東京大学も独立して報告

一方で、東京大学工学部助教の周健治氏率いる日本の高エネルギー加速器研究機構のチームも、陽電子の雲の温度を約1ケルビン(-272℃)まで下げ、電子と陽電子の速度と分布を全体的に大幅に減少させることに成功した事を報告している。

周氏の研究チームは、粒子の減速に合わせてレーザーを調整するチャープ冷却と呼ばれる手法を使い、試料内の粒子運動分布を縮小した。

レーザー冷却は、これ以前にも反物質原子の冷却に使われている。3年前の実験では、科学者たちは狭い周波数帯域で発光する狭帯域レーザーを使用した。今回はその代わりに広帯域レーザーを使用し、陽電子試料の大部分を冷却することができた。さらに、冷却は外部電場や磁場なしで達成されたため、大がかりな実験セットアップなしで結果を再現することが容易になった。

この研究がエキサイティングなもうひとつの理由は、エネルギー生成など将来の応用への道を開くものだからである。陽電子と電子が結合すると、莫大なエネルギーが放出される。このエネルギーは、医療用画像診断やガン治療、さらには光速に近い宇宙船の動力源として利用できる、とBBCは報道している。

AEgISコラボレーションのスポークスマンであるRuggero Caravita博士は、:「2015年にAEgISで初めてポジトロニウムの原子励起に立ち会ったとき、反物質物理学者の30年以上にわたる夢を実現できるのは我々だと思いました。関係者全員の努力のおかげで、それは今、現実のものとなりました」と、述べている。「反物質のボーズ-アインシュタイン凝縮は、基礎研究にとっても応用研究にとっても信じられないようなツールになるでしょう」。


論文

参考文献



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