欧州原子核研究機構(CERN)は、2022年7月5日に開催したセミナーにおいて、大型ハドロン衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider)を用いた実験により、これまでにない3つの素粒子が観測されたことを報告した。この発見は、我々を構成する素粒子について、更なる理解に繋がる可能性があると言う。
新たな「粒子動物園」の開幕か
クォークとは、素粒子のグループの一つである。アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムの6種類があり、通常、これらが2個や3個で結合して、原子核を構成する陽子や中性子のようなハドロンを形成する。例えば、陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個の合計3つのクォークでできたハドロンの一種(バリオン)だ。
しかし、まれに4クォークや5クォークの粒子、すなわち「テトラクォーク」や「ペンタクォーク」が出来る事がある。これらは、「エキゾチック(異種)ハドロン(Exotic Hadron)」と呼ばれ、、約60年前に従来のハドロンと同時にその存在が予言されていたが、実際にLHCbなどの実験によって観測されたのは2000年代に入ってからだ。
過去20年間に発見されたエキゾチックハドロンのほとんどは、チャームクォークとチャーム反クォークを含むテトラクォークまたはペンタクォークで、残りの2〜3個のクォークはアップ、ダウン、ストレンジクォークまたはそれらの反クォークだった。しかし、この2年間で、LHCbは異なる種類のエキゾチックハドロンを発見している。2年前には、2つのチャームクォークと2つのチャーム反クォークからなるテトラクォークと、チャーム反クォーク、アップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジ反クォークからなる「オープンチャーム」テトラクォークが発見されたのである。さらに昨年は、2つのチャームクォークとアップクォークとダウンアンチクォークからなる「ダブルオープンチャーム」テトラクォークを世界で初めて発見している。オープン・チャームとは、チャームクォークを含むが同等の反クォークがないことを意味する。
LHCb の共同研究チームが本日発表した発見には、新しい種類のエキゾチックハドロンが含まれている。最初の発見は、負の電荷を持つB中間子の「崩壊」の分析から得られたもので、チャームクォーク、チャーム反クォーク、アップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークからなるペンタクォークである。ストレンジクォークを含むペンタクォークはこれが初めての発見だ。この発見は、素粒子物理学で粒子の観測を主張するのに必要な5標準偏差をはるかに超える、15標準偏差という驚異的な統計的有意性を持っている。
2種類目は、二重に電気を帯びた2つのテトラクォークだ。これは、チャームクォーク、ストレンジアンチクォーク、アップクォークとダウンアンチクォークからなるオープンチャームテトラクォークで、正電荷と中性のB中間子の崩壊の共同分析で、中性のものと一緒に発見された。この新しいテトラクォークは、標準偏差6.5(二重荷電粒子)および8(中性粒子)の統計的有意差で観測され、テトラクォークのペアが初めて観測されたことを意味するものである。
LHCbの物理学コーディネーターであるNiels Tuning氏は、「解析をすればするほど、より多くの種類のエキゾチックハドロンが見つかっています」と語っている。「私たちは、ハドロンの『粒子動物園』が発見され始め、最終的に1960年代の従来のハドロンのクォークモデルにつながった1950年代と同様の発見の時期を目撃しているのです。私たちは、”粒子動物園2.0 “を作っているのです。」
「新しい種類のテトラクォークとペンタクォークを発見し、その特性を測定することは、理論家が、その正確な性質がほとんど知られていないエキゾチックハドロンの統一モデルを開発するのに役立ちます。」と、LHCbスポークスマンのChrisParkes氏は言う。「また、従来のハドロンをよりよく理解するのにも役立つでしょう。」
ある理論モデルは、エキゾチックハドロンを、強く結合したクォークの単一ユニットとして記述するが、他のモデルは、分子のような構造で緩く結合した標準ハドロンのペアとして想定している。エキゾチックハドロンが片方なのか、もう片方なのか、あるいは両方なのかは、時間が経ってエキゾチックハドロンの研究が進めばわかるだろう。
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