SF小説で使い古されたネタのようだが、若い血液を高齢者の体に注入すると、老化した心臓や筋肉、そして思考回路までもが強くなる「若返り効果」があることは、既に実験によって判明している。
血液が年齢とともにどのように変化するかを研究しているコロンビア幹細胞研究所の所長であるEmmanuelle Passegué博士は、「血液システムの老化は、多くのタンパク質、サイトカイン、細胞の媒介となるため、生物にとって多くの悪い結果をもたらします。40年前の血液システムを持つ70歳の人は、寿命が延びないまでも、健康寿命が延びる可能性があります。」と、声明の中で述べている。
とはいえ、若い血液を手に入れるにしても限りがあること、倫理的な問題も生じてくるだろう。
今回、コロンビア大学、ケンブリッジ大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者らによる新しい研究では、既存の関節炎治療薬が血液幹細胞を効果的に若返らせ、若々しい輸血の効果を模倣することができることを発見した。
『Nature Cell Biology』誌に「Stromal niche inflammation mediated by IL-1 signalling is a targetable driver of haematopoietic ageing」と題されて掲載された研究の中で、大学院生のCarl Mitchell氏とPassegué氏は、関節リウマチの治療薬として知られている抗炎症剤が、「マウスで時間を戻し、造血系に及ぼす加齢の影響の一部を逆転させることができる」ことを発見している。
血液細胞は、骨髄に存在する幹細胞によって作られる。この造血幹細胞は、時間の経過とともに、赤血球の減少(貧血)や免疫細胞の減少(感染症リスク上昇)を引き起こす。
既に2021年に発表された論文で、Passeguéとそのチームは、運動やカロリー制限食でマウスの古い造血幹細胞を若返らせようと試みている。だが、これはうまくいかなかった。さらに、古い幹細胞を若い骨髄に移植したが、これも失敗した。
そこで、Mitchell氏とPassegué氏は、幹細胞の環境である骨髄を詳しく調べてみた。「血液の幹細胞はニッチに住んでいます。この特殊な局所環境で起こることが、問題の大きな部分を占めているのではないかと考えたのです」とMitchell氏は語っている。
さらに詳しく調べたところ、IL-1Bと呼ばれるある特定の炎症シグナルが、血液幹細胞の障害に重要であることが判明した。このシグナルは、関節リウマチなど他の炎症性疾患にもすでに関与しているため、これを標的とした薬剤がすでに広く使用されている。
そこで、研究チームは高齢のマウスにアナキンラという関節炎治療薬を用いてIL-1Bをブロックしたところ、血液幹細胞がより若く健康な状態に戻ることが確認出来たのだ。その結果、ニッチの状態が改善され、血液幹細胞の機能が向上し、血液細胞の再生が促進されたという。この治療法は、マウスがすでに高齢になったときだけでなく、生涯を通じて薬を投与すると、さらに効果的だったのだ。
もちろん、この研究はまだ始まったばかりであり、動物実験の結果が必ずしも人間に反映されるとは限らない。しかし、研究チームは、この薬がすでにヒトで使用されていることから、臨床試験が早急に実現する可能性があると楽観視している。
「IL-1Bの働きを阻害する抗炎症薬で高齢者を治療すれば、より健康的な血液生産を維持するのに役立つはずです」とPassegué氏は述べている。
論文
- Nature Cell Biology: Stromal niche inflammation mediated by IL-1 signalling is a targetable driver of haematopoietic ageing
参考文献
- Columbia University Irving Medical Center: Will Revitalizing Old Blood Slow Aging?
研究の要旨
造血老化は、再生能力の低下と造血幹細胞(HSCs)からの偏った分化によって特徴付けられ、血液産生に障害をもたらす。骨髄ニッチからのシグナルは血液産生を調整するが、古いニッチの造血老化への寄与はまだ不明である。我々は、ニッチと造血の両方のリモデリングを促進する炎症環境の特徴を明らかにした。骨内膜の骨形成細胞の数と機能の減少、および中心骨髄のLepR+間葉系ストローマ細胞の拡大が、洞脈系の血管系の悪化と関連していることが分かった。これらは、劣化し炎症を起こした古い骨髄ニッチを形成する。ニッチの炎症は、古い造血幹細胞や多能性前駆細胞の緊急骨髄形成経路を慢性的に活性化させ、骨髄分化を促進し、造血器再生の妨げになる。さらに、損傷した骨内膜によるインターロイキン-1β(IL-1β)の産生が、中心骨髄の炎症性性質を促進し、古い血液系に有害な結果をもたらすことを、トランス的に作用していることを明らかにする。特に、ニッチの悪化、造血幹細胞の機能不全、再生不全は、すべてIL-1シグナルを遮断することで改善することができる。この結果は、ニッチ炎症の主要なメディエーターであるIL-1を標的とすることが、加齢に伴う血液生産を改善するための扱いやすい戦略であることを実証している。
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