Apple Watch Series 7が購入から2年経ち、バッテリーがへたってきた事もあって、Apple Watchをそろそろ買い換えようかと、Apple Watch Series 9の発表前から検討はしていた。
だが、今年のiPhone 15シリーズと共にApple Watch Series 9が発表された時、正直そのあまりの代わり映えのなさから、やはり買い換えることはやめて来年のSeries 10まで待とうかとも考えた。ただ、新機能の「ダブルタップ」と新たなS9チップの高速化による快適な操作性を体感してみたいと言う気持ちもあり、また、ガジェット好きとしては試さずにはいられないと思い、今回買い換えてみることにした。そして購入して1か月使ってみた結果をレビューし、共有してみたいと思う。
ちなみに結論から言えば、Series 7、Series 8を使っているユーザーならばバッテリーに問題がある等でなければ買い換える価値は全くないと言っていいだろう。全体として批判的な内容になると思うので、その点はご了承頂きたい。
デザインは前2モデルと同様
2021年に登場したApple Watch Series 7は、本体サイズはそのままにディスプレイ表示領域を広げたモデルであり、このデザインはSeries 8でも受け継がれている。そして今年のSeries 9も同様のデザインとなっているが、変更点と言えば輝度が2倍の最大2,000nitになっている点が大きな変化だ。
デザイン面での見て取れる変更点は全くないが、素材に関してはApple Watch Series 9のアルミニウムケースには100%リサイクルされたアルミニウムが使われているという。内部パーツにも多くの再生素材が用いられており、発表会の役員層での寸劇で触れられていた環境保護への取り組みを着実に実行した、初めてのカーボンニュートラルな製品がこのApple Watch Series 9である。そうした環境への配慮という面で製品を評価したいユーザーには刺さる内容かも知れない。
再生素材だからといって、これまでの製品と質感などは何ら変わるものではないのでその点は心配いらない。喜んで環境保護に貢献しよう。
今回筆者が購入したシリコンバンドの「Nikeスポーツバンド・ミッドナイト」も再生フルオロエラストマーが含まれており、それが逆に唯一無二のデザインを生み出しており、アクセントになっている。(見ようによってはゴミが付いているようにも見えてしまうが……)
ただ、環境への配慮を考えるならば、そもそも2~3年足らずでバッテリーがへたってしまうのはどうかと思うので、Appleにはこの点をもう少し改善して欲しいところだ。実際、バッテリー以外はApple Watch Series 7は全く問題なく動作していたので、長持ちするバッテリーか自分で交換できる事の方が本質的には環境には優しいのではないかと思われる。
S9チップの高速化はほとんど感じられない
頭脳であるSiP「S9」チップは、今回S5以来の大幅な刷新となっている。これまでのSチップは、ナンバーだけ変わったが中身は特に変更がなかったのが実状であった。だが、今回のS9はA16ベースの4nmプロセスで製造されているようで、性能はS8比で2倍を実現しているという。
これによって実現されたのが、Siriの応答性が上がった事と、新たなジェスチャー「ダブルタップ」の実現だ。ダブルタップについては後述するとして、Siriを含めた操作性について比較してみよう。
正直なところ、画面をタップする際の動作については「速くなってる!」と体感出来る様な変化は皆無であり、それは裏を返せばSeries 7でも優れたUI動作を実現しているwatchOSの優秀さ、軽量な動作の証でもある。
ただし、公平さを期すならば、確かにSiriは多少速くなっている。特に、インターネットへの通信を必要としない(検索などを伴わない)指示に関しては、着実に速くなった印象だ。例えば、「タイマーを3分設定して」と言った指示も、Series 7だとそう言ってからタイマーが開始されるまでに5秒以上かかっていたが、3秒くらいに短縮されている。だが、それも意識して見なければ見分けは付かないだろう。瞬時に判断と言ったレベルにまではまだ至っていない。
Siri自体はそこまで使うものでもないので、この速度アップの恩恵にいくら投資できるかという点で評価が分かれるだろう。
筆者はS9チップへの移行による劇的な変化を多少は期待していたので、このあまりの変化のなさにガッカリしたのが正直なところだ。高性能なチップを利用した、より高度なアプリの登場も期待したい所だが、内蔵チップでアプリ側が利用の可否を選別することもないと思われるため、そうしたアプリの登場は十分にS9チップが浸透してからの事になりそうな気もする。
センサー類の精度も大きな変化はなさそうだ。ワークアウト時のカロリー消費がSeries 7とは若干異なる値を示すようにも感じられたが、誤差の範囲にも睡眠状態の測定や血中酸素濃度などの値も特に変化は見られず、新しくしたからと言って精度が上がるということもなかった。これが、来年発売のApple Watch X(10)では睡眠時無呼吸症候群の検出などが搭載されるとも噂されているため、そうした面でも待つのが良いかも知れない。
明るいディスプレイでもバッテリーもちは変わらず
Apple Watch Series 9 ディスプレイは、ピーク輝度がこれまでの1,000nitから 2,000nitに増加した。この明るさは、昨年のフラッグシップApple Watch Ultraの明るさに匹敵する (ちなみに、今年のApple Watch Ultra 2は3,000nitに増加した)。晴天の屋外での視認性がこれによってアップしており、地味ながら大きな改善ではある。同時に、ディスプレイを1nitまで暗くすることもできるため、常時表示オン時のディスプレイ消費電力は少なくなっている。
驚いたのは、より明るいディスプレイとより強力な新しいプロセッサーを搭載しているにもかかわらず、バッテリー持続時間が改善されている点だ。Apple は、Series 9 のバッテリー持続時間はSeries 7や8と同じ18時間 (低電力モードでは 36 時間) と公称されているが、実際使ってみると、Series 9のバッテリーもちはかなり良かった。常時表示のディスプレイをオンにしたままにして、時計を使用して複数のワークアウトを追跡している場合でも、1日の終わりに時計のバッテリーが 60%残っている日もあった。Series 7では、購入当初から1日の終わりにバッテリー残量が50%以上であることはなく、2年使った最近では30%〜40%のバッテリー残量で終わる事が多かったので改善された点だろう。バッテリー容量が増えていないにもかかわらず持続時間が向上しているは、新しいS9 SiPの効率性と、常時表示のディスプレイの明るさが1nitまで低下したことによるものと考えられる。
「ダブルタップ」は使い方次第か
watchOS 10.1導入された「ダブルタップ」だが、現状は以下の機能で使う事が出来る。
- どの文字盤からでもスマートスタックを開き、スタックのウィジェットをスクロールする。
- 電話に応答する、通話を終了する。
- 通知からメッセージを表示する、もう1回ダブルタップしてさらに長い通知をスクロールする、音声入力で返信する、メッセージを送信する。
- タイマーを一時停止する、再開する、終了する。
- ストップウォッチを止める、再開する。
- アラームをスヌーズにする。
- ミュージック、ポッドキャスト、オーディオブックを再生する、一時停止する。
- コンパスアプリで新しい高度の表示に切り替える。
- カメラアプリのカメラリモートを使ってiPhoneで写真を撮る。
- 自動ワークアウトリマインダーから測定を開始する、終了する。
- 通知から、他社製アプリを含むメッセージアプリのメッセージに返信する、リマインダーをスヌーズするなどの主アクションを実行する。
反応は良好で、画面を点灯させてから指先で空をダブルタップすると起動する。
ただし、どこで何が使えるのかは覚えておく必要があるだろう。何でもかんでもダブルタップ出来るわけではない。
筆者は、自転車通勤をしているが、ワークアウトの開始をわざわざアプリを起動して開始するというのが面倒なため、走り出してしばらくした頃に自動ワークアウトリマインダーから通知が来るのを待って、その通知から日々のサイクリングの記録を付けている。Apple Watch Series 9やUltra 2では、この通知が来たときにダブルタップをすればすぐにワークアウト記録を開始出来るので、これは重宝した。Apple Watch Series 9にして最も良かったと思うのがこの点だ。
もう一つ有用だったのが、遠隔撮影時に、リモート接続したiPhoneカメラのシャッターを押すのにもダブルタップが使える点だ。集合写真などでわざわざApple Watchの画面を見てボタンを押す必要もなく、ポーズを決めてからダブルタップすればシャッターが押されるのは中々便利だった。ただし、Apple Watchで遠隔撮影を行う機会が年に何回あるかというレベルなので、このためにダブルタップ機能を求めてApple Watch Series 9に買い換えるかと言えば微妙なところだ。
逆にダブルタップの用途として、Appleの広告動画などでクローズアップされていた、朝の目覚ましアラームをダブルタップでスヌーズする機能だが、寝ぼけている状態では意識してダブルタップをする事に中々慣れず、そもそもなぜかダブルタップしても止まらない事が多々あり、結局画面をタップする方が手っ取り早いと思ってしまい、全く活用出来ていない。
1か月くらい慣れるかどうかと思って使っているのだが、どうも半分寝起きで働かない頭ではこの不自然な動きに慣れることはなかった。
来年まで待てば良かった
現時点で最高のスマートウォッチを新しく買うとしたら、間違いなくApple Watch Seires 9をオススメする。そもそもAndroidユーザーならば、Google Pixel WatchやGalaxy Watchという他の選択肢もあるところ、iPhoneユーザーにはApple Watch以外の良い選択肢がないということもあるが。
ただし、Apple Watch Series 7よりも古いSeries 6などを使っているユーザーではないならばSeries 9にはアップグレードを正当化するほどの魅力はないと言わざるを得ない。Appleが大きなデザイン変更や、新しいセンサー類を搭載し、これまでにない魅力的なヘルスケア機能を搭載しておらず、微妙な処理能力の変更やディスプレイの明るさ向上などでお茶を濁している現状ならばなおさらだ。逆に言えば、Series 6やSeries 5等、またはSEユーザーならばアップグレードとしては大きな飛躍が望める事だろう。これ単体で見ればやはり完成度の高い製品である事も確かだ。
噂レベルでしかないが、2024年発売予定のApple Watch Series 10(またはX)ではバンドの取りつけ方法が刷新され互換性がなくなることや、デザインの大幅な刷新、新しいヘルスケア機能の搭載も囁かれており、大きな変更が期待出来ることからも、Series 7や8からのアップデートを迷っているユーザーに対しては今回は“待ち”であるとお伝えしておきたい。
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