Appleが提供する電子書籍サービス「Apple Books」において、人間ではなく、AIによる人工音声によって録音されたオーディオブックが提供されるようになった。オーディオブックには、”Narrated by Apple Books“との表記がなされ、AIによるナレーションであることが一目で分かるようになっている。
この取り組みは、Apple Booksストアで販売されるオーディオブックの数を拡大するための一環だ。同社では、独立系の作家や大規模な出版社に、AI音声合成モデルを用いて執筆した本を音声化するためのオプトインを募っている。
The Guardianによると、Appleは過去数カ月間に独立系の書籍出版社に接触し、デジタル録音にかかる費用は負担するが、売上に応じて著者にロイヤリティを支払うと伝えたという。出版社の中には、これに同意するところもあれば、同意しないところもあった。しかし、これはApple社の努力の始まりに過ぎず、後にさらに追加される可能性がある。おそらく、これを行うのはAppleだけではないだろう。電子書籍とオーディオブックの両方を提供するGoogleとAmazonは、以前からこの可能性について公言していた。
Appleはこの最初のリリースでは、まだジャンルについて特定の分野に絞っているようだ。本のジャンルごとに、特定のAI音声が付くようになっている。フィクションやロマンス系の本は、”Madison”と “Jackson”が、ノンフィクションや自己啓発のジャンルの本は、”Helena”と “Mitchell”が(いずれもデジタル音声に付けられた名前)がナレーションを担当する予定だ。
SFやスリラーなど、その他のジャンルの書籍には現在対応していない。
実際のAI音声のサンプルは、こちらのページで試聴可能だ。現在は英語の音声しかないが、一聴した限りでは、これがAIによるものだとは気付きにくいほど完成度の高い物になっている。これは、Siriに使われているリアルタイム機械学習合成音声のクオリティを遙かに上回るクオリティだ。
著者への注意点として、オーディオブックの生成は、ボタンを1回押すだけの自動的なものではない。Appleによれば、投稿された本が合成された形で利用できるようになるには、1カ月ほどかかるという。少なくとも初期段階では、Appleとそのパートナーが、生成されたAIトラックを手作業でレビューして、出版前の品質保証を行っているようだ。
AIナレーションのオーディオブックへの変換は、完全なオプトイン方式で行われる。著者はオーディオブック版を制作する権利を所有している必要があり、(今のところ)原書は英語で書かれている必要がある。
Apple BooksのAIナレーション版が作成された場合、著者は後で人間のナレーション版を作成することができ、他の配信者と自由に他のオーディオブック版を作成することができる。
オーディオブックは巨大なビジネスであり、その売上と人気は近年急増している。しかし、一部の独立系出版社や自費出版作家が成功しても、オーディオブックはほとんど大手出版社や、そう、技術系プラットフォームの市場であった。
この発展の潜在的なプラス面は、オーディオ版の予算がなかったかもしれない出版物や著者が、オーディオブックを利用できるようになることだ。しかし、最近の多くのAIアプリケーションと同様に、この開発は、このビジネスで働く人間のナレーターがどうなるかという疑問と、誰が最も利益を得るかという懸念を抱かせる。もしAIナレーターが読者に受け入れられ、楽しまれるようになれば、Appleをはじめとする技術系企業が、自分の作品をできるだけ多くの人に見てもらいたい、聴いてもらいたいと願う出版社や作家に対して持つ影響力が大きくなる可能性があるだろう。
Source
- Apple Books for Authors: Every book deserves to be heard.
- via MacRumors: AI-Narrated Audiobooks Now Available in Apple Books
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