英国ロンドンにある、Google(Alphabet)傘下のAI企業 DeepMindは、幼児の学習方法にヒントを得て、人間の赤ちゃんと同じように考え、反応を示す新たなAIを開発したことを発表した。
人間が本能的に知っている概念をAIに身につけさせることに成功
人工知能(AI)は、例えば囲碁を打ったり、病気を予測したりと、ある分野ではすでに人間の能力を大きく上回っているが、やはりまだ人間を完全に置き換えるまでには至っていない。
例えば、幼い赤ちゃんでも、ある物体が別の物体の後ろから一瞬現れた後に、その物体が別の場所から再び現れてはいけないことを本能的に知っている。そのようなマジックを見せられると、赤ちゃんは驚いた反応を示すだろう。
しかし、このような単純な連続性のルールは、他の基本的な物理法則とともに、AIにとってはそれほど直感的なものではなかった。このたび、赤ちゃんがどのように学習するかという研究にヒントを得て、人間の赤ちゃんと同じように考えることができる「PLATO」というAIが発表された。
PLATOは、“Physics Learning through Auto-encoding and Tracking Objects”の略で、物体の位置や速度などの物理的特性を内部表現するように設計されている。
私たちが幼い頃から理解している3つの重要な概念がある。それは、物体がある場所から別の場所にテレポートするのではなく、途切れることなく軌道をたどる「連続性」、2つの物体が互いに貫通するのを防ぐ「固さ」、物体の形状の「持続性」というものだ。
研究チームはこれに加えて、不変性(形状など物体の性質が変化しないこと)と方向性慣性(物体が慣性の原理に従って動くこと)の2つの概念を含めたデータセットで、PLATOを学習させた。
これらの概念は、ボールが地面に落ちたり、互いに跳ねたり、他の物体の背後に消えて再び現れたりする映像で表現された。これらの動画を見せることでPLATOを学習させた。その後にテストを行ったという。
学習した物理法則を無視した「ありえない」シナリオの動画を見せると、PLATOは驚き(あるいはそれに相当するAI的な表現)を表すようになったという。
この現象は、28時間という比較的短いトレーニング期間でも起こった。技術的には、幼児研究と同じように、研究者はAIが学習した概念を理解していることを示すVoE(Volation-of-expectation)シグナルの証拠を探していたのである。
「私たちのオブジェクトベースモデルは、特定のプローブイベントが発生しないビデオデータで学習したにもかかわらず、研究した5つの概念すべてにおいて強固なVoE効果を示しました」と、研究者は発表した論文に記している。
研究チームは、今度はトレーニングデータとは異なるオブジェクトを使用して、さらなるテストを行った。ここでもPLATOは、起こるべきことと起こってはならないことをしっかりと理解し、基本的な学習知識をもとに学習・拡張できることが示された。
しかし、まだ生後3ヶ月の赤ちゃんのようなレベルには達していない。また、対象物がないシナリオや、テストモデルと学習モデルが類似している場合には、AIによる驚きが少なかった。
さらに、PLATOが学習したビデオには、物体とその動きを3次元的に認識するためのデータが追加されていた。
全体像を把握するためには、まだ何らかの内蔵知識が必要なようだ。この「生まれつきか、育ちか」という問題は、発達科学者がまだ乳児に抱いている疑問である。この研究は、人間の心についての理解を深めるだけでなく、より優れたAI表現を構築するのにも役立つだろう。
「我々のモデリングは、少なくともいくつかの直観的物理学の中心的概念が、視覚学習によって獲得され得るという概念実証を提供します」と研究者らは書いている。
PLATOは幼児の行動モデルとして設計されているわけではなく、「人間の赤ちゃんがどのように学習するかという仮説を検証できるAIへの第一歩になるかもしれない」と、Deep Mindの神経学者で論文の著者でもあるLuis Pilotoは述べている。「我々は、これが最終的に認知科学者によって、幼児の行動を真剣にモデル化するために使用されることを望んでいます。」
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