ここ数年、重力波の発表がないことにお気づきだろうか?レーザー干渉計重力波観測装置(LIGO)は、3年間の観測休止期間を経て、本日5月24日から20ヶ月間の観測を開始する。
LIGOは過去3年間オフラインで、いくつかの重大な新しいアップグレードを受け取った。「量子スクイーズ」と呼ばれるアップグレードは、重力波を感知する能力を向上させるために検出器のノイズを低減させるものだ。
天文学者は、このアップグレードによってLIGOの感度が2倍になると期待している。これにより、ブラックホールの合体をよりはっきりと見ることができるようになり、さらに、より暗い合体や遠くの合体を見ることができるようになるかも知れない。あるいは、今まで見たことのない新しい種類の合体を検出することもできるかも知れないのだ。
LIGOをさらに強力にするのは、ヨーロッパのVirgoと日本の大型低温重力波望遠鏡KAGRAという2つの重力波観測施設が加わることだ。
重力波とは、宇宙を旅する小さな波紋のことである。ブラックホールの衝突、中性子星の合体、星の爆発など、極端な加速度で動く巨大な物体によって引き起こされる。
重力波が物体を通過するとき、物体内の粒子の相対位置がわずかに移動し、その移動によって初めて重力波を検出することが出来る。しかし、そのずれは微々たるものだ。
LIGOには、ワシントン州ハンフロッドとルイジアナ州リビングストンにある2つの検出器がある。それぞれの検出器は2本のコンクリートパイプで構成されており、根元で接合され(巨大なL字型になる)、約4kmにわたって互いに垂直に伸びている。パイプラインの内部では、2本の強力なレーザービームが一連の鏡に反射して、各アームの長さを極めて正確に測定することが出来る。強い重力波がLIGOを通過すると、鏡は素粒子レベルで、陽子の幅の数千分の一だけ変化する。
2015年以降、LIGOは3回の観測ランを完了した。最初のランは約4ヶ月、2回目は約9ヶ月、3回目はCOVID-19のパンデミックにより施設が閉鎖されるまでの11ヶ月の間、観測を行った。2回目のランから、LIGOはVirgoと共同観測を行っている。
2020年3月の3回目の観測終了までに、LIGOとVirgoの共同研究者は、ブラックホールと中性子星の合体による重力波を約90個検出した。
LIGOのチームメンバーであるChad Hanna氏は、The Conversationに寄稿し、300m(1,000フィート)の光キャビティを追加する新しい量子スクイーズのアップグレードについて説明した。スクイーズとは、光の量子的性質を利用して、検出器のノイズを低減させるものだ。Hanna氏は、このアップグレードと使用するソフトウェアの改善により、LIGOチームは以前よりはるかに弱い重力波を検出できるようになると述べている。
「私とチームメイトはLIGOコラボレーションのデータサイエンティストで、LIGOデータを処理するために使用するソフトウェアと、そのデータから重力波の兆候を認識するアルゴリズムの様々なアップグレードに取り組んできました 」とHanna氏は書いている。「これらのアルゴリズムは、何百万ものブラックホールと中性子星の合体現象の可能性を示す理論モデルに一致するパターンを検索することで機能します。改良されたアルゴリズムは、以前のバージョンのアルゴリズムよりも、データのバックグラウンドノイズから重力波のかすかな兆候をより簡単に選び出すことができるはずです」。
カリフォルニア工科大学のKimberly Burtnyk氏は、今回のアップグレードで、LIGOチームは、連星中性子星合体の「感度目標」を160-190メガパーセク(Mpc)、つまり、LIGOが2つの中性子星の衝突を検出できると期待できる距離とした。Virgoの目標感度は80-115 Mpcで、KAGRAは「ユニークで前途多難な検出技術を採用しており」、1 Mpc以上の感度で動作するはずだ。
「もちろん、ブラックホールの衝突のような、より激しく、より大きなイベントは、宇宙のもっと深いところから検出可能です」とBurtnyk氏は言う。「しかし、我々は、すべての重力波に対する我々の感度を表す手段として、中性子星の合体を検出できる距離を使っています」。
Hanna氏はまた、今後数ヶ月の間に、現代の天体物理学の限界を押し広げるような、3つの施設間のいくつかの「マルチメッセンジャー」観測が行われるはずだと述べている。
この記事は、NANCY ATKINSON氏によって執筆され、Universe Todayに掲載されたものを、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)に則り、翻訳・転載したものです。元記事はこちらからお読み頂けます。
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