従来の方法に比べて劇的に高速で安価に金属にナノ構造を印刷する画期的な方法が開発された

masapoco
投稿日
2024年1月21日 17:27
printing of metal nanostructures3

ジョージア工科大学Sourabh Saha助教授の研究グループが、光の力を利用して信じられないほど小さな金属ナノ構造を印刷する画期的な方法を開発した。現在、これと同じタスクを達成する方法はいくつか存在するが、時間がかかる上に法外に高価なコストを必要とするテクノロジーに依存してきた。今回の彼らの成果は、これを大幅に高速かつ安価な物にするもので、ナノテクノロジーの進歩を含め、幅広い産業、商業、科学的応用において革命的な技術進歩を可能にする可能性を秘めた画期的なものだ。

技術の進歩に伴い、科学者やエンジニアは、髪の毛の何百倍も小さいナノスケールで金属を印刷する(ナノパターニングとして知られている)必要性が高まっている。これは、発電やセンシングのような極めて高度なナノテクノロジーや、以前はSFの世界にしか存在しなかった斬新な医療処置において、特に顕著である。

こうした金属ナノ構造を印刷する現在の方法には、フェムト秒レーザーとして知られる非常に強力な光源が使用されている。このような実験室レベルの装置は通常数千万円もするため、プロセスにはコストがかかる。また、金属ナノ構造のプリントは非常に時間がかかる。この2つの制限により、この種の高度なデバイスやコンポーネントのナノスケール製造のスケールアップは事実上不可能となり、その用途はほとんど実験室レベルに留まってしまっている。

「科学界として、我々はこれらのナノ材料を迅速かつ手頃な価格で十分に製造する能力を持っていません」と、Saha助教授は説明する。

Saha助教授と、同じ研究室で博士課程に在籍するJungho Choi氏は、こうした状況を根本的に疑うことから始めた:「私たちが答えたかった疑問は、『ナノスケールの印刷に本当に高強度フェムト秒レーザーが必要なのか』ということです。私たちの仮説は、私たちが望むタイプの印刷を得るためには、その光源は必要ないというものでした」と、Saha氏は述べている。こうして彼らは、現在利用可能な方法よりもはるかに高速で安価な、光の力を利用して物体を印刷する方法を探求することにした。

従来のプロセスよりも速く、格段に安い

Saha助教授らは、フェムト秒レーザーと同様の方法で集光できる低コストで低強度の光を探し、安価に利用可能なスーパールミネッセント発光ダイオード(SLED)を選んだ。

SLEDはフェムト秒レーザーの10億分の1の強度で発光するため、必要な電力を大幅に削減できる。そしてSLEDは市販もされており、入手も容易であるため、これを利用して金属ナノ構造を印刷する事が出来るのならば画期的な事だ。

SLEDを用いることに決定したSaha氏らは、次にデジタル画像を光学画像に変換してガラス面に表示する投影システムを設計した。このシステムはデジタル・プロジェクターと同じように作動するが、よりシャープな焦点の画像が得られる。彼らは、欠陥の少ないシャープな焦点の画像を生成するために、スーパールミネッセント光のユニークな特性を活用した。

次に二人は、金属塩から自分たち用にカスタマイズした印刷インクを作り、さらにインクが効果的に光を吸収できるように化学物質を加えた。投影システムからの光が溶液に当たると、化学反応が起こり、塩溶液が金属に変化した。金属ナノ粒子はガラスの表面に付着し、金属粒子の凝集がナノ構造を作り出す。これは投影型の印刷であるため、点ではなく、構造全体を一度に印刷することができる。

そして結果として、低照度の光でも投影型ナノスケール印刷が可能であることが可能であることをSaha氏らは実証した。

彼らのSLPプロセスは成功しただけでなく、電力使用量の削減と生産時間の短縮という2大目標も達成した。実際、SLEDのコストは約3,000ドルであるため、彼らの方法は従来の方法の480倍速く、35倍安いという。

今回、Saha氏らが実証した、SLEDを利用したスケーラブルな投影型ナノスケール印刷は、多くの最先端ナノテクノロジーに革命をもたらす可能性がある。著者らは、このプロセスは、法外に時間がかかり高価な技術やプロセスに頼ってきた分野を変革する重要なブレークスルーになりうると述べている。

「現在、このような高価な技術を利用できるのは一流大学だけで、しかも共有施設にあり、いつでも利用できるわけではありません。私たちは、ナノスケール3Dプリンティングの能力を民主化したいと考えており、私たちの研究が、低コストでこの種のプロセスへのアクセス拡大の扉を開くことを願っています」と、Saha助教授は述べている。

今後、研究チームは、このシステムが、光学、プラズモニクス、その他金属ナノ構造を利用するあらゆる分野で特に役立つと考えている。また、光の力を使ってナノスケールの物体をスケーラブルに印刷する革命をリードすることで、全人類に広範な利益をもたらす可能性があるとも考えている。

「コストとスピードという指標は、極小構造物の製作や製造に取り組む科学界では、非常に過小評価されてきたと思います。現実の世界では、これらの指標は、研究室での発見を産業界に還元する際に重要です。これらの指標を考慮した製造技術があって初めて、ナノテクノロジーを社会的利益のために十分に活用することができるのです」。


論文

参考文献

研究の要旨

金属ナノ構造の直接印刷は非常に望ましいが、現在の技術ではナノスケールの解像度を達成できなかったり、高価で時間がかかりすぎたりする。溶媒和された金属イオンの金属ナノ粒子への光還元は、蒸着ベースの技術よりも速いため、魅力的な戦略である。しかしながら、ナノ構造のサブディフラクション・プリンティングには、高価なフェムト秒レーザーからの高強度光が必要であるため、解像度対コストのトレードオフによって、依然として制限されている。ここでは、低強度ダイオードベースのスーパールミネッセント光の空間的・時間的コヒーレンス特性を活用することで、このトレードオフを克服する。スーパー・ルミネッセント・ライト・プロジェクション(SLP)技術は、フェムト秒レーザーの10億分の1の強度の光で、210 nmと小さく、300 nmと小さい周期で、サブディフラクション・ナノ構造を高速に印刷する技術である。30µm×80µmの領域にわたって、任意に複雑な2次元ナノ構造銀パターンを500msの時間スケールで印刷することが実証された。ポストアニールされたナノ構造は、バルク銀の12分の1までの電気伝導性を示す。SLPは、フェムト秒レーザーを用いた印刷よりも最大480倍速く、35倍安価である。したがって、SLPはナノスケールの金属印刷をスケーラブルな形式に変え、研究室から実世界のアプリケーションへのナノ対応デバイスの移行を大幅に促進する。



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