人間の脳と同じように“連想”ができるAIの開発に繋がる画期的な「シナプス型トランジスタ」が開発された

masapoco
投稿日
2023年12月21日 8:51
ai chip image

ノースウェスタン大学、ボストン・カレッジ、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは、人間の脳からヒントを得て、人間の脳と同じように情報の処理と保存を同時に行う事が出来る「シナプス型トランジスタ」の開発に成功した事を発表した。報告によれば、このトランジスタはデータを分類する単純な機械学習タスクを超え、連想学習が可能であることを実証出来たという。

同様の戦略をとるシナプス型トランジスタはこれまでにも存在したが、極低温条件下でしか動作させることができなかった。だが、今回新たに発表されたデバイスは室温で動作させることができる初めてのものであり、同時に現在の最高クラスの機械学習システムを凌駕するものである。

「シナプス型トランジスタ」は、従来のフォン・ノイマン型アーキテクチャに基づく現代のコンピュータとはことなり、人間の脳のアーキテクチャを模倣している。その特徴は、情報の処理とメモリが完全に統合され、同じ場所に存在するのだ。これに対して現代のコンピュータは、プロセッサとメモリが物理的に別々のコンポーネントに存在している。

研究者らは、人間の脳のように情報を記憶し処理するトランジスタを設計し、現在のほとんどの人工知能(AI)システムが苦手とする認知タスクを実行できるようにした。

ニューロモーフィック・コンピューティングとしても知られるこの技術は、人間の脳のアーキテクチャを模倣しており、処理能力とメモリが完全に統合され、同じ場所に存在する。これは、プロセッサとメモリが物理的に別々のコンポーネントである従来のコンピューティング・アーキテクチャとは異なる。また、高速で動作し、消費エネルギーが非常に少なく、電源を切っても保存された情報を保持するため、実世界での応用に理想的である。

「脳は、デジタル・コンピューターとは根本的に異なるアーキテクチャを持っています。デジタル・コンピューターでは、データはマイクロプロセッサーとメモリーの間を行ったり来たりするため、大量のエネルギーが消費され、複数のタスクを同時に実行しようとするとボトルネックが発生します。一方、脳では、メモリと情報処理が同位置にあり、完全に統合されているため、エネルギー効率が桁違いに高い。我々のシナプス型トランジスタも同様に、記憶と情報処理の同時処理を実現し、脳をより忠実に模倣しています」と、ノースウェスタン大学の共同リーダーで材料科学、工学、コンピューティングの教授である Mark Hersam氏は声明で述べている。

このシナプス型トランジスタは、コンピューティングパワーとメモリを完全に統合しているため、エネルギー効率が大幅に向上し、極めて高速にデータを移動させることができるのだ。ビッグデータの時代において従来のエレクトロニクスに依存することは、AIコンピューティングのワークロードに対する需要が高まるにつれて、かつてないエネルギー消費につながるため、この新しい形のコンピューティング・アーキテクチャが必要である、と研究者らは12月20日付けの科学誌『Nature』誌に発表された論文の中で述べている。

二次元材料の積層がカギ

室温で動作するシナプス型トランジスタを実現させるにあたり、研究者らは材料の見直しを図った。

従来のエレクトロニクスでは、シリコンウェハー上にトランジスタを詰め込むが、新しいシナプス・トランジスタでは、研究者たちは2種類の原子レベルで薄い材料である二層グラフェン(BLG)と六方晶窒化ホウ素(hBN)を重ね、意図的にねじってモアレパターンと呼ばれるパターンを形成した。

二次元材料を重ねると、1つの層だけでは存在しない新しい特性が現れる。そして、それらの層がねじれてモアレパターンを形成すると、前例のない電子特性のチューニングが可能になる。

二層グラフェンと六方晶窒化ホウ素を積層して意図的にねじると、モアレパターンが形成される。一方の層をもう一方の層に対して相対的に回転させることで、原子レベルの大きさしか離れていないにもかかわらず、それぞれのグラフェン層で異なる電子特性を実現することができたのである。適切なねじり方を選択することで、研究者たちはモアレの物理現象を利用し、室温でニューロモーフィック機能を実現したのである。

「ねじれを新たな設計パラメータとすることで、順列の数は膨大になります。グラフェンと六方晶窒化ホウ素は、構造的には非常によく似ていますが、非常に強いモアレ効果を得るには十分な違いがあります」と、Hersam氏は説明する。

このトランジスタをテストするために、Hersam氏らはまずチップをデータで訓練し、パターン認識を学習させることでテストを行った。次に、訓練データと似ているが同じではない新しい配列をチップに見せた。連想学習として知られるこのプロセスは、ほとんどの機械学習システムではうまくできないものだ。

「もしAIが人間の思考を模倣するものだとしたら、最も低レベルのタスクのひとつは、データを分類することでしょう。私たちの目標は、AI技術をより高度な思考へと進化させることです。実世界の状況は、現在のAIアルゴリズムが扱えるよりも複雑であることが多いため、私たちはより複雑な条件下で新しいデバイスをテストし、その高度な能力を検証しました」と、Hersam氏は述べている。

ある演習で、研究者たちはAIに「000」(0が3つ並んだもの)というシーケンスを検出するよう訓練した。次に研究者たちは、AIに似たようなパターンを識別するよう求めた。例えば、111と101を提示した。000と111の並びは同じではないが、AIはどちらも3桁の数字であることを見抜いた。

これは単純なことのように思えるが、こうした類似性を認識する認知的推論はより高度な認知の一形態であり、今日のAIが苦手としている分野だ。実験では新たなシナプス型トランジスタはこうした類似パターンを認識することに成功し、さらなる実験で不完全なパターンを与える様な変化球を投げつけてもこのチップを使用したAIは、依然として連想学習を示したと研究者たちは述べている。

「現在のAIは混乱しやすく、特定の文脈で大きな問題を引き起こす可能性があります。自動運転車を使用していて、天候が悪化した場合を想像してみてください。車両は、人間のドライバーのように複雑なセンサーデータを解釈できないかもしれません。しかし、我々のトランジスタに不完全な入力を与えても、正しい反応を識別することができるのです」と、Hersam氏はこうしたニューロモーフィック・コンピューティングの大きな可能性を提示している。

「これまでのところ、われわれはhBNとBLGを使ったモアレ・シナプティック・トランジスタしか実装していません。しかし、モアレヘテロ構造に積層できる2次元材料は他にもたくさんあります。したがって、我々は、モアレ・ニューロモーフィック・コンピューティングという新たな分野で可能なことのほんの表面をかすめたに過ぎないと考えています」。


論文

参考文献

研究の要旨

モアレ量子材料は、ねじれた二次元ヘテロ構造において、強化された内部クーロン相互作用を通じてエキゾチックな電子現象を宿す。原子レベルの薄さ材料における極めて高い静電制御性と組み合わされたモアレヘテロ構造は、前例のない機能を持つ次世代電子デバイスを実現する可能性を秘めている。しかしながら、モアレ電子現象は、広範囲に渡って研究されてきたにもかかわらず、これまでのところ、非実用的な極低温に限られており、モアレ量子材料の実社会への応用が妨げられてきた。本稿では、非対称二層グラフェン/六方晶窒化ホウ素モアレヘテロ構造を用いた低電力(20 pW)モアレシナプトトランジスタの実験的実現と室温動作について報告する。非対称モアレポテンシャルにより、強固な電子ラチェット状態が生じ、デバイスのコンダクタンスを制御する電荷キャリアのヒステレティックな不揮発性注入が可能になる。デュアルゲート・モアレヘテロ構造における非対称ゲーティングは、再構成可能なシナプス応答、時空間ベースのテンポトロン、Bienenstock-Cooper-Munro入力特異的適応など、多様な生物学的ニューロモルフィック機能を実現する。このように、モアレ・シナプティック・トランジスタは、効率的なコンピュート・イン・メモリー設計を可能にし、人工知能や機械学習のためのエッジ・ハードウェア・アクセラレータを実現する。



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