色あせず、省エネにも繋がる画期的な“蝶”に着想を得た塗料が開発

masapoco
投稿日
2023年3月10日 18:27
Manmade Butterfly 1 for web

従来からある塗料は、時間が経つことで色あせてしまうことや、環境負荷の観点からも問題を抱えていた。だが今回、セントラルフロリダ大学の研究者らが開発した「プラズモニック塗料」は、そんな従来の塗料が抱える問題を解決してくれるかもしれない。

このプラズモニック塗料は、色鮮やかな蝶に着想を得て開発された。蝶の羽は、色素を用いず、ナノスケールの構造で周囲の白色光を反射・散乱・吸収することで、鮮やかな赤や青、緑と言った色を再現している。これはもちろん経年により色あせることがない。

「色とりどりの花や鳥、蝶から魚や頭足類のような水中生物まで、自然界の色や色相は驚くほど多様です。鮮やかな色彩を持つ生物には、構造色が発色メカニズムとして働いており、通常は無色の2つの物質が幾何学的に配置されることですべての色が生み出されます。一方、人工の顔料では、すべての色に新しい分子が必要とされます」と、本研究の筆頭著者であるDebashis Chanda教授は述べている。

市販のバインダー液(ポリマー樹脂とイソプロピルアルコール)と共に、鏡のように小さなアルミニウムの薄片を、さらに小さな酸化アルミニウムの粒子でコーティングしたものを組み込む。そのナノ粒子の大きさと間隔によって、シアン、マゼンタ、イエローの3色に見える。フレークの原色を異なる比率で混合することで、さまざまな色合いの塗料を作る事が出来たとのことだ。

顔料着色剤は、顔料材料の電子的特性によって光の吸収を調節するため、すべての色に新しい分子が必要であるのに対し、構造着色剤は、ナノ構造の幾何学的配置に基づいて純粋に光の散乱、反射、吸収の仕方を調節する。

この構造色は、人工的に合成された分子を使用する従来の顔料系色とは異なり、酸化物や金属のみを使用するため、環境に優しい着色料であるとも言える。

そして、このプラズモニック塗料は色あせることがない。「通常の着色料が褪せるのは、顔料が光子を吸収する能力を失うからです。しかし、ここでは、そのような現象にとらわれることはありません。一度構造色を塗ったら、何世紀も残るはずです」これは、蝶の標本を見てみれば分かるだろう。博物館に飾ってある標本は、その美しい色彩をいつまでも我々に見せてくれる。

さらに、プラズモニック塗料は赤外線スペクトルをすべて反射するため、塗料が吸収する熱量が少なく、その結果、一般的な市販の塗料で塗装した場合よりも25~30℃低い温度で下地が保たれるという優れた特性も備えているそうだ。これは、省エネにもつながり、二酸化炭素の排出量削減、ひいては地球温暖化の抑制にも繋がる可能性があると言う。

加えて、塗料の厚みが150nmと非常に薄くても完璧な色彩を提供してくれるため、世界で最も軽い塗料でもある。例えば、747ジャンボジェット機を塗装するのに、従来であれば454kg以上の塗料が必要だったが、プラズモニック塗料ではわずか1.4kgもあれば塗装が可能であるという。これもまた省エネに繋がるだろう。

正しいことばかりではない、プラズモニック塗料は現段階ではまだまだ効果だ。商業生産レベルにまでスケールアップされた場合に、どの程度まで安価に抑えられるかが普及のカギともなるだろう。それでも、上記の特性は従来の塗料にはない優れたものであり、注目に値する。


論文

参考文献

研究の要旨

現在の市販の着色料は、すべて顔料をベースにしている。このような伝統的な顔料ベースの着色料は、大量生産と角度不感の商業的プラットフォームを提供する一方で、大気中での不安定性、色落ち、および深刻な環境毒性によって制限されている。人工的な構造発色の商業的利用は、デザインアイデアの欠如と実用的でないナノ加工技術により、挫折している。本発表では、これらの課題を克服し、角度や偏光に依存しない鮮やかな構造色を表現するためのオーダーメイドのプラットフォームを提供する自己組織化サブ波長プラズモニックキャビティを紹介する。大規模な技術により、あらゆる基板上で使用可能なスタンドアロン塗料を作製した。このプラットフォームは、1層の顔料でフルカラーを実現し、表面密度0.4g/m2と、世界最軽量の塗料となっている。



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