これまでの冷却システムとは全く異なる新たな方法が考案 – 地球温暖化抑制に繋がる可能性

masapoco
投稿日
2023年1月9日 11:07
freezor

小学生の頃、理科の実験で氷に塩をかけると温度が下がるのを見て、当時とても不思議に思った記憶がある。これは、物質が溶ける際に熱を奪う現象によるものだが、米・ローレンス・バークレー国立研究所の研究者らはこの基本的な現象を利用した「イオン熱量効果冷却(Ionocaloric Cooling)」と呼ぶ、新たな加熱・冷却方法を考案している。

一般的な冷却システムは、ガスを用いて空間から熱を運び出し、そのガスが膨張することで冷却する仕組みになっている。だが、例えばこのプロセスに用いられるフロンは、かつてオゾン層を破壊するという大きな問題を引き起こすことから使用が中止された経緯があるように、選択するガスの中には、特に環境に優しくないものもある。

研究者らは、こういったプロセスとは別の、熱エネルギーの交換プロセスを研究している。その1つが、物質の相が変化するときに、エネルギーが蓄積・放出することを利用する物だ。

物質は相変化するとき、エネルギー(熱)を蓄積・放出する。固体の氷が溶けて液体の水になる事を考えてみよう。物質が溶けるときには周囲から熱が吸収され、固まるときには熱が放出される。この相変化と温度変化を、塩から出るイオン(電気を帯びた原子や分子)の流れによって起こすのが、イオン熱量効果サイクルである。

このほかにも「熱量」による冷却は過去に研究されたことがあり、現在も研究が続けられている。磁気、圧力、伸縮、電場などを利用して固体物質を操作し、熱を吸収させたり放出させたりする方法である。イオン熱量効果冷却は、イオンを使って固体から液体への相変化を起こすという点で異なる。液体を使うことで、固体冷却が苦手としている熱の出し入れを容易にするという利点もある。

本研究を行った科学者らは、この技術が、今日のシステムの大部分に使われているガス状冷媒の効率に匹敵するか、それを上回る可能性があると計算している。

研究者たちは、イオン熱量効果サイクルの理論をモデル化し、現在使われている冷媒の効率と競合する可能性、あるいはそれを改善する可能性を示した。システムに電流を流すと、その中のイオンが移動し、物質の融点が移動して温度が変化する。

実験では、ヨウ素とナトリウムで作った塩と、リチウムイオン電池に使われる一般的な有機溶媒である炭酸エチレンを使って実証を行った。最初の実験では、1V以下の電圧で25℃の温度変化を示し、他の熱電変換技術よりも大きな温度上昇を実現した。

「エチレンカーボネートのような材料を使えば、二酸化炭素を原料として生成するため、カーボンネガティブになる可能性があります。」と、ローレンス・バークレー国立研究所の大学院生研究助手であり、カリフォルニア大学バークレー校の博士号候補でもあるDrew Lilley氏は述べている。

「冷媒を取り巻く環境は未解決の問題です。冷たくて効率的で、安全で、環境を汚染しない代替ソリューションを開発した人はまだいません。イオン熱量効果サイクルは、適切に実現すれば、これらすべての目標を達成できる可能性を秘めていると考えています。」と、Lelley氏。

プレスリリースの中で、Lelley氏の同僚で、バークレーラボのエネルギー技術分野の研究員であり、カリフォルニア大学バークレー校の機械工学の非常勤教授であるRavi Prasher氏は、次のように語っている。「冷媒のGWP、エネルギー効率、機器自体のコストの3つのバランスを取ろうとしています。最初の試みから、私たちのデータはこれら3つの側面すべてにおいて非常に有望であると思われます。」

熱量方式は冷却力という観点で語られることが多いが、このサイクルは、給湯や産業用加熱などの用途にも利用できる。イオン熱量効果法のチームは、この技術をどのように拡張して大量の冷却を可能にするか、システムがサポートできる温度変化の量を改善するか、効率を向上させるかについて、プロトタイプの研究を続けている。

「私たちは、さまざまな分野の要素を組み合わせたまったく新しい熱力学的サイクルとフレームワークを持っており、それが機能することを示しました。今は、工学的な課題を解決するために、材料と技術のさまざまな組み合わせを試す時です。」と、Prasher氏は述べている。


論文

参考文献

研究の要旨

安全で地球温暖化係数の低い冷媒を用いた高効率な冷却の開発は、気候変動に取り組むためのグランドチャレンジである。磁気冷凍や電気冷凍などの熱量効果に基づく冷却技術は有望であるが、比較的低い性能係数と断熱的な温度変化に対して大きな印加磁場を必要とする場合が多い。我々は、カロリーベースの全凝縮相冷却技術として、イオン熱量効果とそれに伴う熱力学的サイクルの利用を提案している。理論および実験の結果、低印加電界強度で他の熱量効果と比較して単位質量・単位体積あたりの断熱温度変化とエントロピー変化が大きいことを示した。イオン熱量効果冷凍サイクルを用いた実用的なシステムの実現可能性を実証した。実験結果は、カルノー比30%の性能係数と、0.22ボルトの電圧強度を用いた25℃までの温度上昇を示した。



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