Bluetooth SIGは、Bluetooth技術の利用を促進し、その普及と世界中の機器の相互接続を促進することを目的として設立された団体だ。同団体は、2020年初めのCESで「Bluetooth LE オーディオ」規格を発表した。この規格は、次世代のBluetoothオーディオ規格として、重要度の高いアップデートであると言われている。では、一体既存のBluetooth伝送技術とどう違うのか?そして、なぜこれまでの技術よりも重要と言われているのだろうか?
今回、Bluetooth SIGは、この新たな技術「Bluetooth LE オーディオ」について、詳細な技術仕様を公式サイトにて解説している。今回はその一部をご紹介しよう。
- Bluetooth SIG: Bluetooth®LE Audioのご紹介(リンク先でPDF形式のブックが配布されている。ただし内容は英語となる)
Bluetooth LEオーディオとは?
まず、LE オーディオの「LE」だが、これは「Low Energy」(低消費電力)の略となる。また、高圧縮のLC3(Low Complexity Communications Codec)技術をベースに、従来は高いデータレートで伝送されていたオーディオコンテンツを低容量で配信できるようにしたものだ。これにより、高速配信に対応するだけでなく、全体の消費電力も削減することが可能となる。
一方、より高い圧縮率でエンコードできるということは、元のオーディオコンテンツをより多く保存できることを意味し、LE オーディオ規格に対応したBluetoothヘッドセットでは、SonyのLDACやQualcommのaptXなどの追加のエンコーディング技術を使用しなくても、音の歪みが少なく、より高品質なサウンドを再生することが可能となる。
LE オーディオ規格は、欧州補聴器工業会(EHIMA)の協力のもと、Bluetooth接続の補聴器の大幅な小型化、電池寿命の延長、補聴器の受信品質の向上を実現するために策定されたものだ。これにより、聴覚に障害のある方でも補聴器を装着することで、周りの音を聞いたり、相手の言っていることをはっきりと聞き取ることができるようになった。
LE オーディオ規格のもう一つの特徴は、真のワイヤレスヘッドホンの実現だ。つまり、左右のチャンネルで独立してペアリングすることで、より安定した音声伝送を可能にする。また、会議の参加者が同時にヘッドホンで音声コンテンツを受信できるようなパブリックアドレスシステムや、同時通訳などにも利用できる。
また、Bluetooth SIGはオーディオ共有機能(ブロードキャスト機能)にAuracastのブランド名を含めることにしており、Auracastブロードキャストオーディオは正式にLE オーディオ規格群の一部となる。
どのような変化がもたらされるか
LE オーディオにより、Bluetoothヘッドセットのバッテリー持続時間が大幅に延びるだけでなく、Bluetoothヘッドセットの音質が向上し、これまででは実現不可能だった、高音質が実現できるようになるだろう。
さらに、今話題のトゥルーワイヤレス(完全ワイヤレス)ヘッドセットのデザインも、従来の片方を接続してもう片方に音声をコピーする方法とは異なり、LE オーディオ規格では左右のヘッドセットで独立して接続を確立することが可能になるため、より安定した接続が可能となり、柔軟性を高めている。
また、1台のBluetoothオーディオ機器には1台のオーディオ機器しか接続できないという制約がなくなるため、「LE オーディオ」規格では1対多の片方向音声伝送が可能になる。これは、公共の場での利用が想定されるだろう。パブリックビューイングの放送などで、自分のヘッドフォンで音声配信を受け取ることが可能になるかも知れない。
この技術はどんな用途が期待されるか
LE オーディオ規格は、Bluetoothヘッドセットがより低遅延で高音質な音声を提供できるようになるため、ハイレゾ音源を搭載したハイエンドBluetoothヘッドセットの発売や、Bluetooth技術でより装着しやすくなったゲーム市場向けヘッドフォンの増加が期待される。
また、補聴器などの支援機器の設計では、十分な電力使用量を確保しながら、ユーザーがより細かい音までクリアに聞き取れるように音質を向上させる。
また、マルチストリーミングオーディオ機能により、LE オーディオ規格を放送システムやマルチセッティングミュージック再生システムで使用することができる。
今回、Bluetooth Technology Allianceは、LE オーディオの技術仕様一式の定義を完了し、LE オーディオ対応のBluetoothアプリケーションの第一陣が数ヶ月以内に提供されると発表し、新しいBluetoothヘッドセット体験の実現が期待されるとしている。
今後のアプリケーションの可能性
マルチチャンネルサウンドフィールドの構築や、モノのインターネット機器(IoT)でよりクリアなオーディオコンテンツの配信を可能にするなど、Bluetooth接続を利用したオーディオ配信のアプリケーションが増えることで、オーディオコンテンツの認識や録音などのアプリケーションのニーズに対応するとともに、機器の性能を維持したまま長時間電力を使用できるようになる。
ブロードキャストモードで無制限の数のヘッドセットに一方向の音声を伝送できるLE 規格は、大規模な展示会やセミナー、公共の場での放送など、製品設計や接続モードによって理論上は複数のヘッドセットで双方向の通信が可能な大規模放送システムの構築に利用することが可能だ。製品設計と接続モードを許容すれば、双方向通信機能を有効にすることで複数のヘッドホンで双方向通信を可能にし、さらにスマートスピーカー製品に異なる機能設計を施すことも理論的には可能だ。
既存のBluetooth技術は今後どうなるのか?
また、Bluetooth技術を利用することで、これまで高価になりがちだった補聴器のコストを改善し、聴覚障害者が話し声などをはっきりと聞くことができる補聴器を作ることができるようになる。
今後、メーカーは用途に応じて、オーディオ伝送に従来のBluetooth技術または低電力Bluetooth接続のいずれかを使用するソリューションや最終製品を設計することができ、より柔軟な開発が可能になる。LE オーディオ規格は、今後のBluetoothヘッドセットの主流となる技術として期待されており、音質の向上、遅延の低減、あるいはバッテリー寿命の延長に加え、1対多の接続モードによる多様な体験を可能にするものだ。
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