NASAは昨日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が捉えた初のフルカラー画像を公開した。JWSTは、人類史上最大かつ最も高性能な宇宙観測装置であり、まさに人類の英知を結集して開発されたものだ。そうした人類の知の結晶とも言えるべきJWSTに搭載されているストレージがわずか68GBのSSDであると知ったとき、あなたはどう思うだろうか。
ただしJWSTに搭載されているSSDは、ただのSSDではない。これは、Solid State Recorder(ソリッドステートレコーダー)と呼ばれている。JWSTのようなプロジェクトに搭載される電子部品は、過酷な認証プロセスを経なければならない。信頼性、速度、冗長性、耐放射線性など、部品の総体としてクリアしなければならない基準が数多くある。世界最高のSSDは、何倍ものデータを保存し、何千倍もの速度で動作するかもしれないが、宇宙空間で用いるには全く脆弱だ。
本日公開された新たな画像も、これまでにない宇宙の姿を写し出してくれる素晴らしい物だったが、JWSTが画像を撮影してから、それを実際に画面に映し出すまでには、いくつものチェックポイントがある。
JWSTの25平方メートルの巨大な主光学系は、波長28μmまでの赤外線をとらえるように設計されている。センサーが捉えられる波長が広ければ広いほど、1枚の画像から得られるデータ量は多くなる。これは、ミラーレスカメラでも、スマートフォンのカメラでも、JWSTでも同じことだ。色も含めて、すべてがデータとなる。
JWSTの感度は非常に高く、1日に最大58.8GBの画像データを生成することが可能とされており、これまで歴史を作ってきたハッブル宇宙望遠鏡の1日の最大出力2GBと比べると、文字通り桁違いの性能を誇っている。
データの書き込みは、JWSTのISIMコマンド・データ処理サブシステム(ICDH)が担当し、最大約48Mbpsのデータレートを維持することができる。これは、JWSTが2048×2048の画像ファイルを10.7秒に6枚程度保存するのに十分な速度だ。
だが、これが問題になることがある。JWSTの68GBのSSDは、我々のメインストリームSSDよりもはるかにオーバープロビジョニングされているはずだが、1日で完全に書き切ることになる。実際、スケジュールによっては、120分程度でSSDが一杯になることもある。つまり、JWSTと地球を隔てる150万kmの宇宙空間を越えて、SSDのバンクからデータを空にして、NASAのサーバや自分のデジタル機器に安全に保存しなければならないのだ。
なぜJWSTが150万kmも地球から離れているのかというと、JWSTがラグランジュポイント2に位置するためだ。ここは、天体間の重力の相互作用が打ち消され、宇宙の織りなす風景を安定的に撮影することができる場所となる。そのため、JWSTは画像を撮影するだけでなく、その画像を頻繁に地球に向けて送信する必要があるのだ。
JWSTの主な通信システムはKaバンドの周波数で、25.9GHzのチャンネルで最大28Mbpsでデータを地球に送信出来る。JWSTはデータバンクを空にするため、1日に2回、4時間のコンタクトウィンドウで科学データをダウンリンクし、1回のコンタクトで少なくとも28.6GBの科学データを地上に送信することができる。
Sバンドの低速無線チャンネルは、その他の必要な機能を担っている。2.09GHzのアップリンクは、12週間から20週間前に予定されている将来の送信と科学観測のスケジュールを16kbpsで望遠鏡に送信する。2番目の2.27GHz、40kbpsのダウンリンクは、望遠鏡のエンジニアリングとテレメトリーデータ(運用状況やシステムの健全性など)を転送する。
ただ、JWSTのストレージが、100億ドル以上の費用がかかっているにもかかわらず、容量がわずか68GBしかない理由は不明だ。さらにその68GBのうち3%が上記のエンジニアリングとテレメトリのデータストレージとして確保されているため、実際に使用できる部分は更に少なくなる。これは、JWSTの契約が結ばれた時期が2003年と古いことも関係しているようだ。
さらにエンジニアは、JWSTの推定10年の寿命が尽きるころには、書き込みや放射能などさまざまな原因によるセルの損傷で、60GBのストレージしか利用できなくなると見積もっている。これは、1日に最大57GBのデータを収集するのに十分な容量だ。
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