「第4次産業革命」という言葉が生まれてから10年近くが経つが、多くの人はその言葉を聞いたこともなければ、何を指しているのかも分からないだろう。
「インダストリー4.0」とも呼ばれるこの言葉は、さまざまな先端技術を結びつけることで、ものづくりのあり方を変えることができるということを表現している。例えば、工場用ロボットに人工知能(AI)を搭載することが挙げられる。
私たちがこの新しい時代を生きているという正式な合意はないが、多くの人々がこれらの発展とその可能性を重要視していることの表れだろう。これまでの産業革命は、18世紀末の蒸気機関の台頭、19世紀末の電気による機械の動力化、1970年代に始まったデジタル・エレクトロニクスへの移行だった。
これらは、明確なマイルストーンによって定義されていた。しかし、インダストリー4.0の一部であると主張することができる多くの新興技術がある。例えば、組み立てラインで起こっていることをシミュレートするバーチャルリアリティ(VR)や、3Dプリンターなどがそうだ。また、あまり知られていないが、風力発電機や航空機のエンジンなど、物理的な物体の挙動を正確に反映したバーチャルモデルであるデジタルツインもある。
デジタルと物理の境界線が曖昧な「スマート」や「サイバーフィジカル」技術は、第4次産業革命の一部であると主張することが出来る。
しかし、多くの企業は、このような発展の恩恵を受けるのが遅れているようだ。ここでは、その理由と、変革的なテクノロジーがその潜在能力を発揮するために必要な変化について説明する。
停滞する革命?
サプライチェーンとは、原材料から完成品を消費者に届けるまで、製品を生産するためのシステム全体を指す。そこで、インダストリー4.0の技術がサプライチェーンに与える影響について考えてみよう。
特定の技術が経済にどのような影響を与えるかを測定することは難しい。しかし、企業の意思決定者にどのような影響を与えているのかを知ることは可能だ。
著者の一人(Ralf Seifert)は最近、数百人の上級経営者を対象に実施した調査を発表した。この調査では、サプライチェーンの管理について、経営者たちに意見を求めた。
エグゼクティブが挙げた最優先事項のうち、インダストリー4.0に関連するものはない。AIや機械学習、モノのインターネット、ロボティクス、3Dプリンティングなど、第4次産業革命と強く結びついた見出しの技術は、優先順位の下位3分の1に入っている。
また、ネット上の動向を見ると、「インダストリー4.0」の検索は2019年にピークを迎えたが、その後は大幅に減少していることが分かる。
このように、企業によるインダストリー4.0の受け入れが期待外れである理由はいくつか考えられる。2020年、会計大手KPMGの調査によると、インダストリー4.0技術の中で、クラウドコンピューティングだけが、まだ不完全ではあるが、先進的なレベルに達していることが明らかになった。
多くの企業にとって、他の重要な技術の利点は不明瞭なままだ。サービスやコストという日々のプレッシャーが優先されるため、使い慣れたソリューションから離れるには努力が必要なのだ。コロナウイルスの大流行、2021年のスエズ運河の封鎖、洪水による鉄道輸送の障害、輸送用コンテナの不足など、世界のサプライチェーンが混乱しているにもかかわらず、インダストリー4.0に関する検索が減少しているのは、このためと思われる。
2020年に発表されたKPMGのレポートでは、「第4次産業革命」という言葉をよく理解しているビジネスリーダーは半数以下であることが分かった。
ハイリスク、ハイスクラッチ
インダストリー4.0テクノロジーの導入には、認知度の低さが一つのハードルとなっている。また、新しい技術ソリューションへの支出をビジネスケースとして構築する必要がある。
野心的な技術であればあるほど、リスクと監視の目は厳しくなる。すべての企業が、不確実な、あるいは目に見えない結果に直面しながらも、イノベーションを支持し、支援する準備ができているわけではない。
インダストリー4.0への取り組みは、従業員の変化に対する抵抗感にも繋がる。IT部門は長年、大企業のソリューション・プロバイダーを探すように訓練されてきたが、中小企業のニッチなソリューション、特に自分たちがよく知らない技術を勧めることに躊躇している。
この問題に対処する一つの方法は、インダストリー4.0の能力を特定し、優先順位をつけることを任務とする別のチームを作ることにリソースを割くことだ。しかし、その場合でも、企業の広範なビジネス戦略との整合性が必要である。
危機からチャンスへ
過去2年間における未曾有のサプライチェーンの混乱により、経営者はサプライチェーンの再構築を検討するようになった。しかし、多くの場合、彼らは従来の方法でこれを行うことを選択している。
リショアリング(製造拠点を元の国に戻すこと)やニアショアリング(製造拠点を遠くの国ではなく近くの国に移すこと)は、サプライチェーンの強靭性を高めようとする企業にとって人気のある選択肢となっている。
インダストリー4.0テクノロジーは、この移行に果たすべき役割を担っている。例えば、グローバルサプライチェーンの見直しは、人件費削減の必要性から生まれた。
ドライバーレスフォークリフト(AGV)は、ロボット工学がコスト上昇を軽減する方法の一例だ。アディティブ・マニュファクチャリング(3Dプリンティングの工業的名称)は、2つ以上の工程を要する生産工程を簡素化し、コストを削減することが出来る。
国境を越えるサプライチェーンでは、原材料から完成品までを含む在庫の追跡能力を向上させ、商品の輸送を支援するデジタルプラットフォームを利用するインセンティブがさらに高まる。これにより、企業は予期せぬ混乱をより早く発見し、適切に対応することが出来る様になるのだ。
インダストリー4.0の短期的な進展を遅らせ、大きな話題となったサプライチェーンの機能不全は、最終的にその約束を実現するエンジンとなる可能性があるのだ。
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