先日公開されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の初画像をご覧になった方は、「重力レンズ効果」という言葉を耳にしたことがあるかも知れない。重力のレンズ?という聞き慣れたことのないこの言葉は一体どんな物なのだろうか?そして、この新しい望遠鏡の発見にどのように役立つのだろうか?
JWSTの最初の画像は、銀河団SMACS 0723のきらめく星空を映し出している。この画像には遠くの銀河や星など、たくさんの要素が含まれているが、良く見ると、いくつかの銀河がにじんで見え、光が引き伸ばされているように見えることにお気づきだろうか。しかし、これは望遠鏡の不具合でもなんでもなく、撮影された宇宙空間における現実そのものが歪んで見えた姿なのだ。
重力は質量と密接な関係があり、質量が大きい物体ほど重力の影響が強くなる。その力によって、私たちは地球とくっつき、地球は太陽のまわりを回っている。しかし、その仕組みは多くの人が思っている以上に奇妙なもので、重力は時空そのものを変形させるのだ。
例えば、ボールを銀河、ベッドシーツを時空とする。ベッドシーツの上にボールを置くと、ボールの重さでベッドシーツが凹んで落ち込むのが見て取れるだろう。このシーツのゆがんだ姿がまさに“時空のゆがみ”なのだ。大質量の銀河は、存在するその周りの時空を文字通り“ゆがませて”しまう。本来ならば真っ直ぐ進むはずの光が、時空がゆがんだおかげで銀河(ボール)の周りを迂回するように回り込んで進むことで、レンズを通したようにゆがんで見える。
この現象は重力レンズと呼ばれ、その効果はJWSTからの新しい画像にはっきりと現れている。ただし、この重力レンズの効果は銀河団のような、それこそ天文学的な量の物質が存在する場合にのみ顕著に見られる物だ。
その名が示すように、重力レンズは非常に遠くの天体を拡大することができる。それはつまり、JWSTに追加の望遠レンズを装備させたような物だ。これによって本来ならば見られない程遠い天体を見ることも出来る。そして、天文学者は宇宙と時間の最も遠いところを覗き見ることができるのだ。
そして、JWSTは、その巨大な主鏡によって、この現象を利用するのに特に適している。大きな鏡は、より多くの光を集めるだけでなく、より鮮明な画像を生成することができる。また、赤方偏移という現象は、宇宙の非常に遠くにある天体の光が、可視光線から赤外線にシフトしていることを意味するので、赤外線の波長で観測を行うことも有効だ。
重力レンズと組み合わせたJWSTのこれまでにない性能から学べることはたくさんあり、天文学者はビッグバン後のごく初期の宇宙を研究することができるようになるのだ。
JWSTから初めて公開された画像は、これから起こることのほんの一例に過ぎないにも関わらず、既に観測史上最も古い銀河を映し出していた可能性があることが分かった。このことからも、今後数年間でどんな歴史的案発見が起こるのか。世界の天文学者達の興奮はかつてないほど高まっている。
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