S&P Globalの最新のレポートによって、気候変動による水不足の影響が拡大する中で、チップ製造業界はこの影響を大きく受け、コストの上昇に繋がる可能性が示唆されている。
半導体産業は元々大量の水を消費している。工場では、機械を冷却し、ウェハーシート(半導体の基板となる薄い板)をほこりやごみから保護するために、毎日莫大な量の水を消費している。S&P Globalはレポートの中で、半導体企業の水消費量は、生産プロセスの高度化に伴い、絶対量でも単位当たりでも増加傾向にある、と指摘する。
「半導体製造工場では、各プロセスの間にウェハーをすすぐために超純水(極めて高純度に処理された真水)を使用するため、水の使用量とチップの高度化は直結しています。半導体が高度になればなるほど、工程が増えれば増えるほど、水の消費量も増えるのです」と、&P Global Ratingsのクレジット・アナリストであるHins Li氏は説明する。
レポートによれば半導体製造はすでに、人口750万人の香港と同程度の水を消費している、とのことだ。
世界最大のファウンドリであるTSMCを例にとると、2015年とかなり過去のデータになるが、同社は16nmプロセスノードの導入に伴い、ユニットあたりの水消費量が35%以上増加したという。
「これは主に、より多くの製造工程を必要とする先端ノードへの移行によるものだと考えています。TSMCの先端チップ製造における優位性を考えると、水による操業中断の可能性は、グローバルなハイテクサプライチェーンを混乱させる可能性があります」と、S&P Globalは指摘する。
S&P Globalは、TSMCの台湾工場における水の需要は、2030年までに2022年比で倍増する可能性があると予測しており、レポートでは、同社が水の供給管理を見誤れば、その結果、2030年の生産予測を最大10%下回る可能性があると警告している。
S&P Global社は、水不足によりチップの価格が高騰する可能性が高く、また、同社は水料金の値上げや、深刻な干ばつに直面した際にタンクローリーを使用する費用など、余分なコストを顧客に転嫁しなければならないと予測している。
現在の半導体業界は一部のチップメーカーによる寡占状態だが、そのうちの1社でも生産量が減少した場合、それを消費する多くのメーカーが多大な影響を受け、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う半導体不足のように、世界的に大きな混乱を引き起こす可能性がある。
そして、これらのメーカーの多くは、中国の上海、韓国の一部、米アリゾナ州など、水を多く消費するにもかかわらず水不足の地域で操業している点もリスクとしてあげられている。
ただし、TSMCの現在の優位性を考えれば、同社が「最終需要を確保し、単位販売が減少しても価格の上昇で補う」ことを可能にすると指摘しており、TSMCの収益性への影響は管理可能であると結論づけている。むしろ、水供給が限られている場合に、通常より利益率の低い成熟チップよりも先進的なチップの生産に焦点を当てることができ、収益を向上させる可能性があることもS&P Globalは指摘している。
水を大量に消費する産業にはデータセンターも含まれ、最近の懸念では、AI処理の需要増加によりITインフラの冷却に使用される水の消費量が増加していることが浮き彫りになっている。
報告書は、AIモデルの水消費量の透明性を高めることを求め、AIの水使用量はもはや水面下に留まることはできないと結論づけ、「水のフットプリントは、世界的な水問題への取り組みの一環として優先的に取り組まなければならない」と述べている。
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