天文学では、水素とヘリウム以外の元素を金属と呼ぶ。高校の化学の先生には怒られるかも知れないが、天文学者にとっては意味のあることなのだ。最も軽い2つの元素は、宇宙で最初に出現したものだ。この2つの元素はビッグバンの名残で、宇宙に存在する原子の99%以上を占めている。炭素から鉄、金まで、他の元素はすべて天体物理学的なプロセスで作られたものだ。恒星の核融合、超新星爆発、白色矮星や中性子星の衝突などだ。
このような天体物理的な現象は、宇宙の歴史を通じて起こり、現在も続いているため、宇宙における金属の割合は時間とともに増加している。そのため、星を分類する方法の一つとして、スペクトルに含まれる金属の量によって分類している。これを「星の金属量」と呼ぶ。この金属量によって、天文学者は星を3つの種族に大別している。
太陽のような恒星は、最も金属量が多い“種族I”に分類される。一般的に最も若い星で、惑星系を持つ可能性が最も高い。“種族II”は、金属の量が少なく、古い星なので、その多くは赤色矮星だ。過去には大きな恒星がたくさんあったが、白色矮星や中性子星を残して、とっくに死んでいる。このような星の残骸を原料として、種族I型星が形成されたのだ。
この2種類の星は、いずれも天の川銀河や他の銀河で観測されている。しかし、私たちが見たことのない第3の集団がある。第3の集団は、本当に古い星だ。宇宙で最初に誕生した星で、金属をほとんど含んでいない。密度を上げるための重元素を持たない“種族III”の星々は、きっとモンスターだったに違いない。太陽の何百倍もの質量を持つ、青く輝く水素・ヘリウム星だ。非常に明るく、しかし短命な星だったに違いない。最初の金属を宇宙空間に投げ出し、激しく爆発的に消滅させた曾祖母のような星。それらはすべて、太陽が誕生するずっと前に消えてしまった。
しかし、光の速度は有限であるため、宇宙を深く見れば見るほど、より遠い過去まで見ることができる。そこで天文学者は、最も遠い銀河のいくつかを調査して、最初の星の証拠を探してきた。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が始動したことで、天文学者たちは信じられないほど遠い銀河を見ることができるようになった。そして、最近の研究によると、ある研究チームは、種族III型星を初めて発見した可能性がある。
この研究チームは、GN-z11と呼ばれる銀河の近傍の領域から得られたスペクトル線に注目した。この銀河は、これまで観測された中で最も遠い銀河のひとつで、赤方偏移はz=10.6、つまり宇宙が誕生してまだ4億年しか経っていない頃のもので、まだ最初の星が誕生した後なので、銀河の大部分は“種族II”の星で構成されていると思われる。しかし、銀河を取り囲むガスのハローの中では、まだ種族III型星が形成されていたかも知れない。
このハロー領域のスペクトル線には、ヘリウムが非常に高温のときに発する強いHeII,1640線が見られる。通常、このような高温の星間ガスには、「金属」元素の明るい線があるはずだが、この領域にはそれがない。つまり、HeII領域は、水素とヘリウムの混合ガスが、何かによって強く電離されたものと思われる。
一つは、GN-z11の中心にある活動銀河核(AGN)によってハロー領域が加熱された可能性だが、ハローガスの推定温度と銀河からの距離から、AGNモデルにはあまり当てはまらないことが分かった。もう一つの選択肢は、この領域が大質量の種族III型星によって電離されたことだ。電離の度合いからすると、これらの星は太陽の約500倍の質量を持っていたことになり、種族III型星の仮説的な質量範囲となる。
この研究は、種族III型星の存在を証明するのに十分ではないが、説得力のある議論だ。私たちは、このような遠方の銀河の観測をもっと行う必要がある。JWSTのおかげで、そのような観測ができるようになりつつあるのだ。
この記事は、BRIAN KOBERLEIN氏によって執筆され、Universe Todayに掲載されたものを、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)に則り、翻訳・転載したものです。元記事はこちらからお読み頂けます。
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