新たな宇宙望遠鏡「ユークリッド」は暗黒宇宙の見方を変える

The Conversation
投稿日 2023年5月6日 7:34

欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ユークリッド(Euclid)」は、2023年5月1日、イタリアから船でフロリダに到着し、宇宙への長い旅の第1部を終えた。7月上旬にケープカナベラルからSpaceX社が製造したFalcon 9ロケットで離陸する予定だ。

ユークリッドは、ダークマター(暗黒物質)ダークエネルギーと呼ばれる宇宙の “謎”の構成要素をより深く理解できるように設計されている。

ダークマターとは、地球上の通常の物質とは異なり、光を反射したり放出したりしない物質だ。宇宙の質量の約80%を占めるといわれ、銀河系を結びつけている。ダークマターの存在は100年前から知られていたが、その正体は謎に包まれたままだった。

ダークエネルギーも同様に不可解である。天文学者は、過去50億年にわたる宇宙の膨張が、予想以上に加速していることを明らかにした。この加速は、ダークエネルギーと呼ばれる目に見えない力によってもたらされていると多くの人が考えている。これは、宇宙のエネルギーの約70%を占めている。

ユークリッドは、ダークエネルギーとダークマターのさまざまな側面を明らかにするために、一連の科学機器を使用して、この「ダークユニバース(暗黒宇宙)」をマッピングする。

暗闇の中の光

ユークリッドは打ち上げ後、地球と太陽のラグランジュ点(月より5倍遠い)と呼ばれる宇宙空間を1カ月かけて旅する。ここは太陽と地球の引力が均衡する場所で、ユークリッドにとって宇宙を観測するための安定した視点となる場所だ。ユークリッドはこの地点でジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)に合流し、その素晴らしい宇宙観測の完璧な伴侶となる予定だ。

ユークリッドとの関わりは、2007年にESAからSPACEとDUNEという2つの競合するミッション案を評価する独立したコンセプトアドバイザリーチームに招かれたことに始まる。

どちらもダークユニバースを研究するために異なる技術、つまり異なる機器を使用しており、ESAはそのどちらを選ぶか悩んでいた。どちらも魅力的なコンセプトで、私たちのチームはどちらもメリットがあると判断し、特に両者の間に重要なクロスチェックを行うことにした。ユークリッドは、このように両方のコンセプトの長所を生かして誕生したのだ。

ユークリッドは全宇宙を研究するため、広い視野を持つ装置が必要だ。撮像装置の視野が広ければ広いほど、より多くの宇宙を観測することが出来る。そのため、ユークリッドはJWSTに比べて比較的小さな望遠鏡を使用する。大きさは、航空機サイズのJWSTに対して、ユークリッドはほぼトラックサイズだ。しかし、ユークリッドには、JWSTの数百倍の視野を持つ、宇宙で展開されている最大級のデジタルカメラも搭載されている。

形と色

ユークリッドのVIS(可視光)観測装置(PDF)は、できるだけ多くの銀河の位置と形状を測定し、ダークマターを介した光の重力レンズ効果によるデータの微妙な相関を調べるために、主にイギリスで作られたものだ。この重力レンズ効果は、ほとんどの銀河で10万分の1と弱いため、高精細に見るには多くの銀河が必要だ。そのため、VISは夜空の3分の1を占めるハッブル望遠鏡のような画質を実現することが出来る。

しかし、VISは物体の色を測定することは出来ない。赤方偏移効果とは、天体からの光が、私たちからの距離に応じて、より長い波長、より赤い波長へとシフトすることだ。このデータの一部は、既存の地上観測所や計画中の地上観測所から得る必要があるが、ユークリッドにはNISP(近赤外線分光器・測光器)という、ユークリッドが観測する最も遠い銀河の赤外線色とスペクトル、ひいては赤方偏移を測定するための特別な装置も搭載されている。

ダークエネルギーを測定するために、NISPはバリオン音響振動(BAO)と呼ばれる比較的新しい技術を利用する。この技術は、過去100億年間の宇宙の膨張の歴史を正確に測定することが可能だ。この歴史は、アインシュタインの一般相対性理論を修正する案など、暗黒エネルギーに関する可能なモデルを検証するのに不可欠だ。

宝の山

このような実験には科学者の軍隊が必要で、誰もが暗黒物質や暗黒エネルギーの研究だけをしているわけではない。JWSTと同様、Euclidも天文学の多くの分野で新しい発見をする宝庫となるだろう。ユークリッドのコンソーシアムでは、宇宙からのデータと地上からのデータを統合し、何十億もの銀河の形や色を高い精度で抽出するために必要な高度なソフトウェアを開発するために、数百人の人材を必要としている。

また、このソフトウェアは、これまでに構築された最大規模の宇宙シミュレーションを使用してチェック・検証されている。L2に到着後、ユークリッドは数カ月にわたって試験、検証、校正を行い、観測機器や望遠鏡が期待通りに動作することを確認する予定だ。JWSTの打ち上げ後、私たちはこのような緊張感を持って待っていたことをよく知っている。

ユークリッドの準備が整えば、世界中の約2,000人の科学者が5年間かけて15,000平方メートルの空を調査し、その結果を収集する予定だ。しかし、ユークリッドの真の実力は、このデータをすべて集め、慎重に分析した後に発揮されることになる。しかし、ユークリッドの真の実力を発揮するには、すべてのデータを集め、慎重に分析する必要があり、さらに5年かかるかも知れない。だから、SpaceXの打ち上げは、ユークリッドの物語の途中経過に過ぎないのだ。

私はこの夏、ユークリッドの打ち上げを見るためにフロリダに行く。この素晴らしい望遠鏡と実験を作るためにキャリアを捧げてきた何百人もの同僚たちと一緒に参加することになる。このようにプロジェクトが一つにまとまるのを見ると、「ユークリッド」の参加者であることを名乗れることを誇りに思う。

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本記事は、Robert Nichol氏によって執筆され、The Conversationに掲載された記事「The Euclid spacecraft will transform how we view the ‘dark universe’」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。



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