どのような生成AI技術であれ、それを構築するためのデータセットについて議論すると、著作権の問題に行き当たる。世界中の政府がこの問題を解決するために何が必要かを議論している中、日本は少し方針が異なるようだ。日本の著作権法による規制は、AIのトレーニングには適用されない。
2019年1月1日に施行された日本の改正著作権法が、AIモデルの開発に大きな影響を与えるのだ。具体的には、同法第30条の4の解釈により、、著作権者の利益を不当に害さない限り、著作権者の許諾を得ることなく「情報分析」のために著作物を利用することができるとされている。
著作権法
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
改正前は、著作物の利用が許される範囲は非営利目的に限定され、利用範囲は “記録媒体への記録または翻案”に限定されていた。改正により、許される利用範囲が拡大され、方法に関係なく著作物を利用することが可能となった。これにより、学習用データセットの譲渡や公衆送信などが可能になった。その結果、Webから収集したデータをもとに学習用データセットを作成し、共有することができるようになったのだ。
つまり、日本の著作権法においては、目的(非営利か商業か)、行為の性質(複製以外)、ソース(違法サイトを含む)を問わず、すべてのデータへの無制限のアクセスをAIに認めている。
これについて、Meta AIのチーフであるYann LeCun氏は、今や日本を「機械学習パラダイス」と呼んでいる。彼は、知的財産の本質が個々の政府によって定義されることを説明する。「原動力は公益を最大化することであり、コンテンツ所有者の力を最大化することではありません」と彼は付け加える。
これは、日本政府が推進する生成AI、より具体的にはOpenAIのChatGPTと同様のものを構築することと完全に一致する。岸田文雄首相は、こうした技術の可能性とリスクについて専門家と積極的に話し合い、早急にこうしたチャットボットを開発するための枠組みを構築している。
日本対世界
OpenAIのCEO Sam Altman氏は日本を訪れ、日本の人々のために何かを作りたい、日本語に力を入れたいと政府に話したものの、AIに関する規制の強化については、ホワイトハウスや米上院とも協議しているようだ。
その中で、著作権は重要な部分であり、原作者を帰属させることは、同社が積極的に研究していることであると話した。「自分のコンテンツや肖像がこのテクノロジーでどのように使用されるかをコントロールすることは、人々に全くふさわしいと思う」と、米国上院で語った。
日本政府によるAIの著作権や規制に向けた動きは、リスクが高いかもしれないが、同時にAI開発者にとって倫理的である可能性もある。著作権者を「保護する」という名目で、AI開発を規制する権限を政府に付与すれば、AIモデルの急速な進化を事実上止めることになる。これは、米国がAIにソーシャルメディアのような法案を課そうとしている場合にも言えることかも知れない。
Hawley上院議員の米国上院での発言は、政府が生成的なAIモデルに対する完全な著作権禁止を実施するつもりであることを示唆している。このアプローチは、根本的な懸念に対処できず、代わりにAIに対する政府のコントロールを確立するものであり、問題である。
Midjourneyの創業者であるDavid Holz氏は、著作権侵害についてあまり気にしていない。Holz氏はForbesのインタビューで、所有者に許可を求めずに画像を使用していると述べている。巨大なデータセットでそうすることは不可能だと彼は説明する。それこそが、おそらく日本政府が追求し、熟考したいことなのだろう。
何を期待するのか?
日本と日本のビッグテックといえば、投資家であり技術界の巨人であるSoftbankが、AIに注力し始めている。最近、NVIDIAとの提携を発表し、日本で生成AIアプリケーションを構築することを発表した。同社は、NVIDIAのGrace Hopper Superchip「GH200」を搭載したデータセンターの構築を計画している。
AIの著作権ルールを撤廃する論拠は、日本が“オールイン”で著作権アプローチからオプトアウトし、競争に勝ち残りたいということだ。NVIDIAとSoftbankの提携により、日本は近い将来、国内だけでなくグローバルに通用する独自の技術を開発できるようになる可能性もある。
しかし、裏を返せば、誰もが政府の味方というわけではない。アニメやグラフィックアートのクリエイターは、この決定を懸念し、自分たちの作品の価値を下げるのではないかと心配している。逆に、学術界やビジネス界のリーダーたちは、政府が緩和されたデータ法を活用して、世界的なAI支配につながることを喜んでいる。
世界的に見れば、日本はならず者国家になるか、あるいは今後、世界がAI著作権をどう見るかの先例になるかのどちらかだろう。日本は上手く立ち回らなければ、中国以上に世界からヘイトを集めることにもなりかねない。
Source
- Technomancer.ai: Japan Goes All In: Copyright Doesn’t Apply To AI Training
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